6話目
さて、探索班と待機班が分かれた所で、決めなきゃいけない事が二つ出来た。
班の呼び名と、どの班を最初の探索班にするか待機班にするかの割り振りだ。
まず呼び名に関して。
これは――元の世界に居た頃は数字を使ってて、
それをそのまま使おうかとも思ったけど、
何か新しく決める流れになったから……、
最初の探索班をA班、B班、C班、D班として、
待機班をE班、F班、G班、H班とする事にした。
単純にアルファベット順にしただけだけど、
下手に難しい呼び方にするより、
こういう方が分かりやすいでしょう……。
ところで、何かにつけて文句を言ってくるイメージがあったので、クラスメイト達から変な反対が出るかもと思ったんだけど……これはなぜか反対が出なかった。
なぜ……?
まあ良いや。
で、それから次にどの班を最初の探索班にするか、待機班にするかの割り振りに移って……えーと、こっちは名称と違って少しだけ揉めた。
最初の探索班をやりたい、
と言うのが大多数になったんだ。
理由を訊いてみると、
まあ分からないでも無い理由ではあったけど。
「迷宮って事は宝箱もあるかもだろ? なら、先行したい」
言われてみて、俺もそれは確かにそうだと思う。
要は、何か特殊なアイテムがあったりする可能性だ。
それを考慮したら、
先行者の利点が大きいから探索班になりたいと。
現時点では取らぬ狸のなんとやらだけど、それでも上手いこと自分だけ甘い汁を吸える可能性があるなら、なんとかして手に入れやすい状況を作りたがるのが人間だし。
さすがに俺もこれに関しては気持ちは分かる。
でも……分かけるけども、皆が納得する方法を改めて考え直そうなんて気は俺に毛頭無かった。
だって面倒くさい。
非常に面倒くさい。
なので――班長によるアミダくじで決めようと言った。
なので――純粋なる運否天賦だからね、と強行する事にした。
泣きそうな顔したらみんな納得してくれた。
「うおおおっ! やったぜ探索班!」
「げぇ……待機班じゃん」
各々アミダの結果に喜んだり落ち込んだり。
うんうん。
「ははっ、僕も探索班だ。早めに凄いお宝の一つでも見つけて、勇気君にプレゼントしないと」
はて……何か気持ち悪い呟きが聞こえたと思ったら、茶メンだった。
そういやこいつも班長だったっけ。
しかしプレゼントね。
俺にとっての最高のプレゼントは、
お前みたいなのが消えることなんだけどなあ……。
さて、茶メンの事は放っておくとして。
時に、アミダで振り分ける班は七つにしていた。
なんで一つ抜かしたかと言うと、
例外枠を一つ作ったからである。
そこにすっぽり収まるのは俺の班――A班だ。
例外なんてこの措置に、反対や文句は当然出た。
泣きそうな顔してもこれは許されそうに無かった。
けど……、
言いだしっぺだから責任あるし絶対やる!
俺が行かなきゃ誰が行くの!?
ってゴリ押しである。
危険だからとか、心配かけさせんなって言う非常にキモい台詞も続々飛び出して来たけど、寝転がって「やだやだ絶対やる」とジタバタ喚きちらして勝ち取ったよ。
ほら、恥ずかしさなんて二の次なので。
羞恥心なんてだいぶ捨て去ってますので。
もちろん、貞操と心だけは簡単に捨てないけどもね。
■□■□
全てが決まれば、いよいよと探索班は動き出す。
被らないように、分かれ道、横道に入り込んでは、その後ろ姿はいつしか見えなくなっていく。
俺の率いるA班も同じ様にして横道へと入った。
「……ん」
ひんやりとした空気が肌に纏わりついたような気がして、思わず俺は唇を堅く結んだ。
思えば、クラスメイト達と居た時は、なんだかんだで騒がしいと言うのもあってか、そこまで寒さは感じなかった。
でも、少人数になって見ると、改めてここは迷宮の中なんだと思い知らされる。
振り返って見ると、班員たちも目を細めて居る。
……そういえば班員で思い出した。
A班の連中がどういう奴らかって事を、まだ説明していなかった。
俺とゴリに関してはもう説明不要だろうから、残りの四人について。
ちょっとだけ、説明する時間をくれ。
■□■□
一人目は鉄と言う苗字の男。
高身長ガチムチの髪型ツーブロックの強面の男だ。
こいつは苗字が珍しいくらいカッコ良かったから、初めてクラスで見た時インパクト強かったな……。
見た目通りに格闘技系、空手部に所属のあんまりチャラくない男である。
「君には初段のあだ名を進呈しよう」
茶メンと違って別にムカつきはしないけど、取り合えずあだ名を進呈しておく。
「突然なんだ。初段……まあ、空手はやってるけどよ」
「あだ名つけるのに嵌まってるだけだよ。それより確か段か何か持ってたよね? だから初段ってあだ名にしたんだけど」
「あぁ持ってる。ただ、初段じゃなくて二段だ」
「二段か……。二段なのに初段ってあだ名だと何かおかしいよね。それじゃあ初段じゃなくて二段ってあだ名にしよう」
「好きに呼べ」
そっけない。
硬派と言うか何と言うか……。
まあ、俺を見る目にむっつりした感じが無いのは好印象だ。
ただ、何か異世界来る前と比べて若干距離がある気がする。
同じ班だったから話しかけた事くらいあるけど、
ここまでそっけ無くは無かったと記憶してる。
もしかして二段は女の子苦手なのか。
いや、そういう部分を詮索するのは失礼だな。
そう言えばあの時、「ゴリ必要ない」とかって言う呟きがあった時、実はこいつだけは微動だにせず、何も言わずに無表情のままだった。
騒いでいたのは残りの三人である。
ふむ、二段は安全牌の候補だな……。
さて、二人目は斉藤ってヤツである。
コイツは身長が低くて猿と豚を足して二で割った感じの顔をしてる男だ。
悪い意味でノリが良いヤツで、度々変な問題起こすようなヤツでもある……。
先刻、ゴリいらねって言った筆頭。
要注意候補。
「お前は……」
「んんっ? 勇気どうした? ……ところで、さっきあっちに宝箱あった気がしてなあ。二人で見に行かね? こっそりさ」
ひそひそとそんな事を言い出す。
誰がお前と二人きりになどなるか、ボケ。
「行きたきゃ一人でどうぞー。大体、今はそれよりも、お前のあだ名どうしようかなって思ってる所だったよ」
「ダーリンとかで良いんじゃね?」
「ケダモノでいいか」
「お、おいっ。そりゃあんまりだ。俺を怒らせんなよ? 一生後悔するぐらい犯して――」
「ゴリの目があるけど? ゴリにボコボコにされたい? ドMだったの?」
「――くっ。ちっ、覚えとけよ」
少し煽ってみた。
こういうヤツは強気で相手するに限る。
下手に出たりすると、
調子に乗って歯止め効かなくなるタイプだと思うし。
で、三人目。
こいつは後藤って言って、
ケダモノと仲が良いヤツだった。
身長がケダモノと同じくらい低くて、
目と目が離れて鼻が低い……いわゆる魚顔の男である。
ちなみにケダモノと仲が良いだけあって、
性根がケダモノと同レベルの男だ。
こいつのあだ名は……どうしようか。
まあ捻ったあだ名考えるのも疲れるし、安直に行こう。
「よし、魚人だ」
「はっ?」
「あだ名。魚人」
「イラッと来るあだ名つけるなよ。その口……あとで無理やり塞いでやろうか? 俺の口で」
その口……あとで無理やり塞いでやろうか? 俺の口で。
ですって。
テレビドラマの中なら映えそうな台詞だけど、
この状況でこいつの口からだと、
変態の犯行予告とか脅迫の類にしか聞こえない。
「それとも今塞がれたいか?」
「俺の口を塞ごうとしてきたらお前の人生を塞いでやる」
「て、てめぇ。ゴリが居るからって調子乗りやがって……」
こいつの対応もケダモノと同じで良い。
適当に煽ってあしらっておくに限る。
さて、人物紹介もいよいよ終わりだ。
次の四人目が最後の一人である。
こいつは高橋と言う男で、性格やら容姿やら、全体的に前二人に比べるとまだ普通な部類だった。
中の下くらいの顔と身長と言う容姿。
性格は……その場のノリに合わせるのが得意だけど、一方で思い切りが無い感じだったと思う。
つまり優柔不断だ。
さて……こいつにあだ名をつけるとしたら、何が良いかな。
俺はちょっと悩む。
すると、良いのが思い浮かんだ。
「高橋あだ名決まったよ」
「え? いや、俺はあだ名とか別に――」
「風見鶏で良いでしょ」
「……何か、馬鹿にされてる感じが」
「ケダモノとか魚人みたいなのが良い?」
「い、いや、風見鶏で良い」
ケダモノと魚人程におかしいヤツでは無いけれど、俺はこいつにも少しキツく当たっておく事にした。
本人はその場のノリに合わせただけだ、と言い訳するかも知れないが、こいつも確かゴリの参加に難色を示してた。
念の為である。
■□■□
全員の説明が終わった。
俺は一息つきながら、これからするべき事を思い出す。
長々と人物説明が入ってしまったが、
当初の目的を忘れてはいけない。
そもそもの俺の目的とは何か・
レベル上げだ。
目的が明確であるのだから後は動くだけである。
手もちゃんと考えてある。
さて――エキドナちゃんに頑張って貰うとしますか。
次話から主人公のレベル上げの話出来そうです。