2層 22話目
更新遅れてすみませんでした……。
そして頼れるあの男が今回再登場です。
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施設の中を探す。
治療をやっていそうな場所を探す。
探す探す探す。
施設にいる人たちの目がこちらに集まる。
何を見ているのかは確認するまでもなくて、
うつろな目をしてお腹に風穴ぽっかり血だらけの状態の倉橋だ。
こんな人間いやでも目につく。
「あの……大怪我している人がいるんですけど、治療が出来そうな場所を、知りませんか?」
近くにいる人に聞いて回る。
何度もぎょっとしたような顔をされたけど、
背中の倉橋を改めてみると誰もが真面目に答えてくれた。
「あそこだ」
大通りの途中から入れる路地裏を進んだつきあたりに、
治療院があるという。
「……」
倉橋の呼吸が段々と消え入り、
痙攣を始めたかと思うと体が冷たくなり始めた。
もう時間がない。
急いで治療院まで向かうと、
力強く何度もノッカーを叩く。
すると、中から白衣のおっさんが出て来た。
医者だ。
「なんだ。騒々し――」
「――この人助けてあげてください!」
医者のおっさんは、
面食らったような顔をしつつも、
背中の倉橋を見てすぐに容態を把握したらしい。
「重態だな。これはイカン。一刻を争う。早く中へ」
□■□■
白い部屋だった。
穢れも汚れもないような純白の空間である。
そこにあるベッドに倉橋は横たわっていた。
「……」
何の痛みも不安も感じていないような、
安らかな寝顔。
あれほどしていた痙攣もすでに無くなっていて、
今度はピクリとも動かない。
私は出来るだけをやった。
助けるために可能な限りの行動をした。
だから、結果についての後悔はない。
開けた窓から、
爽やかな風が流れ込み、
ふいにどこからか一輪の花が迷い込んでくる。
「倉橋……」
私はその花を掴むと、
倉橋の胸の上に置いた。
「ありがとう。そして、おやすみ……」
目を瞑って、
ただ感謝を述べた――その時。
がしっと腕を掴まれた。
「……勝手に死んだ人みたいに扱わないでくれる? マイハニー」
起きてたんだ。
「生きてて良かったねぇ」
先ほど思った『結果に後悔はない』――その気持ちにウソはない。
助けようと思って行動して助けることが出来たっていう、
そんな最善の結果になったんだから、
後悔なんてあるわけがないでしょ。
「……」
「……なに? どしたの?」
「いや、そんなに可愛く笑ったところは、初めて見たから……」
相変わらず気持ち悪いヤツだな。
頬を染めて顔を逸らすんじゃない。
「まぁとにかく、さよならを言うにはまだ少し早いかな?」
「そ、そうだね。まだ、ハニーとキスもしてないのに死ねないよ」
……キス、ねぇ。
吐きそうなぐらい気持ち悪い男なのは事実だけど、
でも助けてくれたのも事実だ。
「ハ、ハニー?」
「今回だけね。……お礼」
私は倉橋に近づくと、
その額に軽く唇を押し当てた。
「!? はぁはぁヤバイ、いきなりすぎて、なんか血圧が……」
げっ。
倒れやがった。
□■□■
倉橋の命は助かったし、
あの魔物は死んだし、
私も恩知らずにはならずに済んだ。
だから、
全ては順調に収まりつつあると、
私はそう思っていた。
白衣のおっさんから、
「治療費。1000万ね」
という言葉を聞くまでは。
「えっと……」
いやまぁ、
考えてもみれば、
治療費ってのが掛かるのは当然なワケだけど、
そのことが頭の中からすっぽり抜けていた。
お金がかかるのは当たり前だ。
そのことに異論はない。
でも……その……ちょっと価格が……あの……そのですね……。
「無料で診るわけないだろう。はいカード出して。治療費」
手を差し出されたので、
とりあえずお手をしてみる。
「犬じゃないんだから。1000万で命助かったんだから安いもんだろ」
取り合えず、倉橋の方を見る。すっごい良い笑顔だった。『僕がお金なんて持ってるわけないじゃないか』って感じの。
「払えないなら借金でもいいが」
「い、命を拾ったのはあの男なので、お金はあの男が……」
今の私は非常に情けなく、
そしてみっともない。
何せもともと倉橋が怪我したのは、
私を助けようとしてだ。
つまりこの治療費は、
私の命の値段であるとも言える。
それなのに、
金額の大きさにビビッて、
なすりつけようとしているという……。
「何言ってんだ? 助かったのは確かにあの男だが、助けてくれ、と治療を頼んだのはお嬢ちゃんだ。意識があったなら、あの男が治療を拒否した可能性だってゼロではないだろう」
「そ、そんなことはないのではないかと……」
「宗教上の理由とかそういうのもあるかも知れない。お嬢ちゃんはあの男の全てを知っているのか?」
「いえ、ぜ、全然知りませんが……」
「ならお嬢ちゃんが払うのが道理ってもんだ。……気にくわないなら、あとで自分で、その男に請求するこったな」
いくら粘ろうが、
どうにもならなさそうだ。
ともあれ、
払わないわけにはいかないので、
私は項垂れるようにして頷いた。
「う、動けるようになったら、ちゃんと返すよ。ごめんねハニー」
そういうことを言わないで欲しい。
私が酷いヤツにしか見えなくなるから。
いいよ……自分で稼ぐから。
□■□■
――さてはて。
かくして一千万の借金持ちとなってしまった私は、
下の階を探す目的については一旦中止して、
お金を稼ぐ為の迷宮探索に明け暮れる日々を送り始めていた。
数日が経ったけれど、借金返済のために貯められたお金は、まだ100万にも満たない。
借金……一体いつ返せるんだろうか?
「はぁ……」
「げんきだしてー」
「ぎぅ」
エキドナと楯子ちゃんに慰められつつ、
魔物を見つけるべく、
ごそごそ草木を掻き分けていく。
すると……偶然なことに、
倉橋とあの魔物の激闘があった洞窟の、
崩落跡地にたどり着いた。
「……ふむ」
思い出して見れば、
あの魔物はすごく強かった。
それがいた場所がここなのだ。
偶然あそこで戦っていただけっていう可能性もあるけど、
もしもここを住処にしていたりしたのだとすれば、
何かお宝が眠っているかも知れない。
「……借金返済の足しになってくれるものとかあるかな?」
ダメ元ではあるけれど、
岩や石をどけて中を確認してみることにした。
かなり根気がいる作業だけど、
一攫千金の可能性に掛けたい今日この頃なのですよ。
しかし、
半日が経過しようというのに、
一向にお宝が出てくる気配はない。
もう諦めようかなとか、
そんなことを考え始めていると、
何か細長いものを見つける。
なんだろうと思って引き揚げてみると――
「――ひえっ」
思わず私は尻もちをついた。
それは人の腕だった。
辺りをよく見ると、
ある一か所に、
たくさんの人間の体の部位があるようだった。
腐っているようには見えず、
恐らく……崩落するまでは生きていたのだと思う。
洞窟に入っていた時には、
まったく気づけなかったけど、
もしかして、
沢山の人がここに囚われていた……?
「まさかクラスメイトたちじゃない……よね?」
そんなことを考えつつ、けどすぐに首を横に振る。
クラスメイトたちが大量に捕まったなら、
必ず騒ぎになるハズだし、
施設内で私をストーキングする余裕なんてものは、
ないハズだ。
だから多分別で迷宮に迷い込んだ人たちだと思う。
何にしても……ここはあの魔物の住処で間違いないみたい。
これはお宝がある確率が高くなったと言えるんだけど、
けれども、
それを喜ぶ前に、
私は目の前の光景に吐き気が止まらなくなっていた。
口元を手で抑えるので精いっぱいで、
足元に注意を払うのを忘れて、
思わずよろけてつま先を瓦礫の隙間に引っ掛けてしまい――
「あー! あぶない!」
「ぎぅ!」
――どん、と誰かにぶつかった。
「……え?」
何が起きたんだろうと思って、
ゆっくりと瞼を上げると、
厚くたくましい胸板が目の前にあった。
「……こんなとこで何やってんだ?」
おそるおそるに顔を上げると、
なんだか久しぶりな気がする、
二段こと鉄の顔がそこにあった。
見知った顔が急に現れたせいで
そのせいで、
なんだか急に安心出来ちゃって、
涙が止まらなくなってきた。
「……なんで俺の顔みて泣くんだ」
そう言われましても……。
クラスメイト(ケダモノ)崩落に巻き込まれ死亡が確定。総勢41名→40名に。
ケダモノ「やっぱ俺死亡確定か……。何がダメだったんだろうな」
倉橋「普段の行いかな?」
ケダモノ「お前にだけは言われたくねぇな」
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