2層 17話目
久しぶりの更新になりました。申し訳ないです……。
許してください。
そして今回は茶メンの視点になります。
許してください。*_ _))ペコリン
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茶メンこと倉橋大吾。
彼は湖のすぐ近くで目を覚ましてから、
第二層を彷徨っていた。
取り合えずクラスメイトたちのところに戻ろうかとも思ったが、
マイスウィートハニーの勇気が離脱してしまったので、
そんな場所に戻る気もあまり起きていなかった。
和を乱す行動だというのは理解していた。
ラヴ&ピースが信条の茶メンではあるが、
しかし、
その二つを天秤にかけたのならば、
迷わずラヴを取る男だった。
もっとも、ラヴを捧げし勇気の姿は見えない。
求めて追いかけてはいるのだが……。
施設で待ち伏せでもするという方法もあり、
それもずっと頭の中にあったが、
あまりそれをやりすぎると嫌な顔をされそうな気がして実行出来なかった。
嫌な顔は嫌な顔で可愛くて好きなのだが、
やりすぎて心の底から嫌われるのは避けたいのだ。
バランスを取る必要があった。
倉橋が画策している現在の計画は、
クラスメイトと袂を分かった勇気の仲間になり、
ただ唯一の騎士となること。
そうすれば、ぐっと距離が近くなることは明白だった。
手の甲にキッスの一つでもすれば、
きっとキュンキュンして自分を気に入るだろう。
そんなことを考えていた。
もっとも、そんな浮かれた思考を持ちつつも、
一方で倉橋は理解していた。
勇気が自分をすぐには受け入れないだろう、
ということを。
接近した後には、まずは警戒心を解く必要があるのだ。
「機嫌をとる、誠意を見せるとしたら、やっぱりプレゼントだよねぇ……」
湖に飛び込んだのも、
こうした考えによって、
何かないかなと思って探した結果である。
まぁ熱を入れすぎて息継ぎを忘れた結果、
溺れて意識を失ってしまったのだが……。
だが、果たしてプレゼントは本当に効果的なのだろうか?
思い返して見れば、
以前に見つけた短剣を渡そうとして拒否されたこともあったではないか。
「まぁこれは怪しい短剣だったからで、もっと違うのならまた反応も変わるかも……。やっぱり女の子ならこういう武器とかじゃなくて、もっと違う喜びそうな何かの方がいいよね」
倉橋はしばし考えた後に、
渡すものが悪かったと結論付けると、
倉橋は腰につるした短剣を手に取った。
一層の隠し部屋で見つけ、勇気にプレゼントしようとした短剣である。
よくみると禍々しい形をしている。
自らのステータスを見ると、状態のところに”呪い”の一文字が見えた。
「げっ……渡さなくて良かったかも」
ちなみに、
倉橋に呪いの影響が全く見受けられないが、
それには理由があった。
倉橋の心は大体が勇気へのラヴで埋め尽くされていた。
あまり強固なその精神力が呪いを跳ね除けていたのだ。
なお、それによって、
倉橋のステータスには呪い耐性のスキルが生えつつもあるが、
まだこの時の倉橋は気づいていない……。
「ともかく、手土産を探すところから始めようか……」
倉橋はやれやれと息を吐くと、
マイスウィートハニー勇気への献上品を見つけるべく、
ゆっくりと歩き始める。
が、中々に見つからなかった。
この二層目はまさに森の中とも言える地形だった。
一層目の通路のような迷宮と違い、
お宝を探すにしても見当というものが付かないのだ。
湖の中にはなかったし……。
しかし、倉橋は諦めない。
確固たる決意を持ち、二層目の迷宮を探索し続けて――
「――あら?」
変な魔物と出会った。
昆虫のような外骨格を纏う二足歩行をする魔物だ。
ただ、かなりボロボロのようだ。
激しい戦闘を終えたばかりのような様相というか……。
「……」
倉橋は眼を細める。
この層に出る魔物は普通の昆虫のようなものが多数だ。
このような魔物とは初めて出会った。
何かが違う。
それを瞬時に理解し――迷わずにスキルを使った。
「――【帝刀】、東」
一振りの日本刀が現れ倉橋はそれを掴む。
このスキルの詳細は以下の通りだ。
――――――――――
帝刀
四振りの日本刀①東②西③南④北を扱うことが出来る。
使用者のレベルアップに伴い、各刀を進化させることが可能。
スキルの種類や値、ステータス値によって進化先が増える。
※、破壊された場合、修復は基本的に進化による変化に伴ったもの以外では起きない。帝刀に連動した修復スキルを獲得した場合に限り、進化以外で自動修復する。
――――――――――
非常に分かり易いスキルであり、
倉橋としては何も文句がないスキルだった。
下手に小難しい条件や効果があるより、
こういう分かりやすいほうがずっと良いと思っていた。
深く考えるのは苦手だからというのもあるが……。
だが、日本刀という部分に、
幾らかの皮肉を感じてはいたが。
剣道と居合道で高名であった父に、
なんど才能がないと叩かれ続けただろうか。
成長し活躍する4人の兄たちに、
なんど劣等感を抱いたことだろうか。
それを思い出させるようなスキルでもあった。
まぁ、その心の傷も、
ラヴを見つけた今の倉橋にとっては、
あまり大きな関心毎ではないが。
とかく、目の前の魔物をなんとかしないといけない。
倉橋は居合いの構えを取った。
慣れ親しんだ構えだ。
「……イケメンねぇ。悪くはないわ。あの召喚士の女に報復する前に、少しは楽しんで気分良くなりたいわ」
「……召喚士?」
この魔物は女の召喚士、と言った。
倉橋の記憶にそれに該当するのは勇気ただ一人だった。
この魔物は勇気と何かあったのだろうか?
「……召喚士の女とやらが、どうかしたのかい?」
「うん? ムカつくから、手足をちぎりとって○○○にしてあげようと思っ――」
――一閃。
それは早かった。
魔物――第二層のボスは、あまりの早さに気づくのに遅れ、その右腕を失った。
まだろくな進化もしていない刀だ。
切れ味は本来あまり良くないのだが、倉橋は、それを居合による剣速によってカバーしていた。
もっとも、この世界に来る前の倉橋では、正直ここまでの技量はなかった。
ステータスの恩恵はあるものの、
特別に身体能力をあげるスキルがあるわけではなく、
またレベルもまだ低い。
では、なぜこのような動きが出来たのか。
それは、勇気が絡んだ言動を第二層のボスがしたからに他ならない。
「大人しく捕まればいいのに……。やるっての?」
「……僕の未来の奥さんを傷つけるヤツは許さないよ」
ここに、第二層のボスと倉橋の激闘が始まった。
その結果は――いずれ分かるだろう。
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普段ふざけてるヤツほど強いというね……。
あと、帝刀の四振りの各刀の読みは、東→あずま 西→あき 南→みなみ 北→そむく ですね。