2層 15話目
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お日柄も良く、なんて言葉が似合いそうな程に日差しが強い。
しかし、私の心は反対に曇り空だった。
クラスメイト達との一件の事で、
ただでさえ心労が祟っていると言うのに、
その最中にやたら硬い魔物に強襲されるって。
おかしいでしょ。
私ってば何か悪い事した?
いいや、してない。
まあ、エキドナちゃんと楯子ちゃん、
それに精霊行使の力で難を逃れたから、
もう過ぎた事。
あの魔物はぺしゃんこになったし、
考えるだけ無駄かな。
「ねーえ、おかしまだー?」
楯子ちゃんがそんな事を言い出した。
そういや、お菓子買ってあげるとか言ったね、私。
功労賞と言う事で、エキドナちゃんにも何か買ってあげなきゃってのもあった。
「うーん、どうしようかな」
少し悩む。
クラスメイト達も少しは頭を冷やしただろうか。
そうであれば、扉を出して施設に行っても問題は無いんだけど。
多少は時間も経ったし、今なら大丈夫かな?
いや、出来ればあともう少しだけ……。
とは思うものの。
エマちゃんの所に置きっ放しの荷物の事もある。
いつまでも好意に甘えてそのまま、と言うワケにも行かないでしょ。
さすがに、そろそろ一旦施設に入るべきかも知れない。
私自身としても、そろそろ体とか洗いたくもなってきてる頃合だし。
汗とか土埃とか、あと草木を分けながら進む事も多いせいか、葉っぱの匂いがそこはかとなくするんだよね……。
「めーなのー?」
「そうだねぇ。……じゃあそろそろ、いっかい戻ろっか」
「うん!」
楯子ちゃんが元気良く返事をして、
エキドナちゃんも「ぎぅ」と短く返事をした。
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施設に入って見ると、
幸いな事にクラスメイト達の姿は見えなかった。
今はまだ、第二層の迷宮が明るい時刻だから、
もしかすると探索に忙しいのかも知れない。
なんとも都合が良い。
と言う事で、早速楯子ちゃんにお菓子を買ってあげた。
何を食べたいか希望を聞いて見ると、
ふと目についたアイスが欲しいと言うので、
取りあえず三段重ねのデカいヤツ。
「おいしー」
パクパク食べて、凄くご機嫌だ。
約束を果たせて私も満足だよ。
楯子ちゃんの様子に、
うんうんと私が頷いていると、
エキドナちゃんが物欲しそうにアイスを眺めて、「ぎぅ」と鳴いた。
「うん? エキドナちゃんもアイスが欲しいの?」
「ぎぅ……」
欲しいようである。
功労賞で好きなものを買ってあげる、
と言った事に対する希望として、
アイスを所望したいらしい。
安上がりで私は助かるけど、本当に良いの?
「ぎぅ」
エキドナちゃんが力強く頷くので、
それならと、新たにアイスを買う事に。
三段重ねは食べ辛いだろうから、容器に入ってるヤツね。
「ふぃー、あたまがキンキンするー!」
「ぎぅぎぅ」
……美味そうに食べる二人を見ていて、
何だか私も食べたくなってきた。
そんなに高くないから、大丈夫だと思うんだよね。
うん。無駄遣いでは無いから、大丈夫だ。
――と言う事で、私も自分用のアイスを購入した。
最大サイズとか言う、五段重ねのヤツ。
はい、美味しかったです。
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アイスを食べ終わった後、
クラスメイト達の姿が見えないと言う事もあって、
魔石回収とレベル上げ目的の為に、
エキドナちゃんと楯子ちゃんには迷宮に行って貰いつつ、
私が次に向かったのはエマちゃんの所だった。
何はともあれ、
ひとまずは顔を見せて、
改めて御礼とか言わないと行けないからね。
さてそして。
しばらくも歩かなくても、
すぐにエマちゃんの所には辿り着けた。
施設の中は一見すると広いけれど、
実際に散策してみると案外狭いのだ。
「ありゃ、お姉さん」
「……えっと、この前は急にごめんね。荷物置かせてくれてありがと」
言わなきゃいけない事は先に言う。
変に話が弾んで、言うの忘れてたってなるのも嫌だし。
「別に大丈夫だよ?」
にぱっとエマちゃんが笑う。
セクハラはしてくるって事を除けば、普通に良い子だよね……。
「それよりさ、お姉さんモテモテじゃん。やっぱりこの胸かっ、胸なのかっ!」
「ちょ――」
――やめて、と言いかけて。
今回ぐらいはしょうがないか、と私は諦める事にした。
って言うか、やっぱりセクハラ。
「おほほほ……って、今日は抵抗しないね?」
「まあ迷惑掛けたしね」
なすがままにされつつ、
私は深くため息をつく。
あまり気分が良いものではないけれど、
それでも今だけは仕方ない。
「……私が前に言ったことを理解していないね? そういう態度は隙になっちゃうんだよ?」
「男相手にはやらないから大丈夫だって。それに、エマちゃんなら今回は別に良いよ」
「なんとも嬉しい事を言ってくれるねぇ……って、お姉さん何か臭い」
ぎくっ。
それには気づいて欲しくなかった。
「迷宮の中に居たからだって。言わないでよ。私だって早めに体洗いたいもの」
「それもそっか。……でも、それならよーし一緒にお風呂入ろっか」
「なんで?」
「別に良いじゃん。途中だった部屋探しについてもお話したいなーって思うし」
「ま、まあ良いけど……」
その話は一緒にお風呂入らなくても出来ると思うけど、
なんだか今は拒否し辛い。
私は眉根を寄せつつ、ゆっくりと頷いた。