5話目
果たしてどの道が正解なんだろう。
どれを選べば正解なんだろう。
横道も分かれ道も、
どれもが今までの道よりは狭く入り組んでいそうだった。
これでは、今までの様に纏まって全員でと言う進み方は出来そうにも無い。
さしものクラスメイト達の表情にも真剣味が伴い始め、ひとまずこれから先の自分達の進み方について作戦会議をする運びとなった。
けど、これがまた悲しい事に……一向に纏まらなかったんだけどね。
自分はこうした方が良いと思う。
いや、俺はそうは思わないな。
こんな感じで中々に意見が統一されず、
気づけば全体的に苛立っている雰囲気が蔓延し始めていた。
ちなみに、多数決でも取れば良いのに、なんて事を言ってはいけない。
癖の強いクラスメイト達の事である。
満場一致で無い限り争いの火種になりかねない。
そしてその事は恐らくクラスメイト達も理解しているに違い無く、その証拠に誰も口には出さなかった。
ぶっちゃけ教師であるゴリが強権でも使えば、早急になんとかなりそうな気はするけど……ゴリにその気は無いようだった。
「年上だ教師だってだけで頭ごなしに抑え付けられても、不満や文句が溜まる一方だろう。それに……こんな場所じゃあ教師なんて肩書きは無意味だ。年上だろうと教師であろうと、今はお前らの仲間でしかない。今後どうなるかは分からないが……今は全員で協力しなきゃならん。そして協力しあう以上、皆で納得する方法をとるべきだ。小さな判断くらいは年上としてするが、進退を決めるのにはあくまで全員でだ」
等とご立派な事を抜かしていた。
まあ……人として素晴らしい意見だってのは分かる。
分かるけど今はそういう崇高な道徳心はいらない。
嫌われ役になってでも纏めてっては思うよ。
さて、とにかくこの話し合い、
簡単には執着地点を見つけられそうには無いように思えた。
けれど終わりは必ず訪れるもので。
自分が参加してもややこしい事になりそうだと思っていた俺が、上手い具合に隅っこを確保して体育座りを決め込んでいた時だった。
痺れを切らした男のある一言が響き渡る。
「あー駄目だ駄目だ。こんなんじゃ全然話決まらない! よし! ここは勇気に決めて貰おうぜ。それならお前ら反対しねーだろ!」
まさかの俺に丸投げ。
わざわざバレないように徐々に隅っこに移動した俺の努力が水の泡。
俺の行動から気持ちを察しろよ。
「まあ勇気が決めるなら」
「そうだな。小桜の意見なら……反対はしねーよ」
クラスメイト達の視線が一斉に俺に集まる。
やめてくれ。
こんな後で責任問題になりそうな決断を俺に投げないでくれよ。
その……なんて言うのか、
俺自身がグループのリーダーだったり、
この人の為なら頑張りたいとか思える相手が居たなら、
判断決断もむしろ自分から提案してく。
けど現状俺は別にリーダーしてるワケじゃないし、
こいつらの為に動きたいとかも思ってないワケで。
と言うかそんな事してる暇があったなら、俺にとってはひとまず自分とエキドナちゃんのレベル上げが優先であって――
――いや、待て。
もしかしてこれ。
俺が上手い事レベル上げ出来るように仕向ける事が出来るんじゃないか……?
チャンスじゃないのか……?
幸いな事にこいつら相手なら罪悪感も感じない。
「……分かったよ。でも今回だけだから」
俺は諦めた風を装ってそう言った。
わざと仕方ない的な雰囲気を作り、
その上で今回だけと言ったのは、
嬉々としていたらまるで実は俺がやりたがってた見たいに映ってしまうからである。
それでは上手く無い。
やりたがってた見たいだし、
これから先も判断決断を任せようぜ!
見たいな話になっても困るし疲れるのだ。
こいつらの為に気を揉むなんて極力したくない。
あくまでレベルの上げの為に今回利用するだけなのだだ。
「じゃあ早速だけどまず……班分けをしよう。
探索班と待機班の二通りで良いかな。
待機班なんて作って一斉に全部の班で探索させないのは……何かしら悪い事があって戻ってきた時に誰か居ないと困るからだよ。
わざわざ別の班探しに行かないといけないし」
それっぽい事言ったけど、
これはただの建前で、
本音は魔物と戦う機会を増やしたいからである。
何せ大人数に囲まれてると俺は戦闘させて貰えない。
それはさっき強制的に列の中央に置かされた時に、身を持って知った。
、
だからそもそもの探索の人数を削って、
戦う機会を得やすくしようと言う狙いだ。
全部の班で一斉に探索なんてしてたら、
戦う機会が減るじゃないか。
よし……どんどん細分化して削ろう。
「で、班の人数とかについてなんだけど……新しく振り分けるのも面倒だし、元の世界でクラスで決めてた班のままで行こうと思う。
五人一組の班が八つあったじゃん?
ちょうど偶数だしキリ良くそれを分けようよ。
探索班に班を四つ、待機班にも班を四つで。
それで――探索班は一斑ごとに別々に探索をして――帰ってきた班毎に待機班と役割を交換……でどうかな?」
「なるほど……確かにそれならまあ。ただ、それだと問題が一つあるぞ」
「え? 問題……?」
「勇気のいる班だけズルいって点だよ! 新しく決め直しで良いじゃねーか!」
「そうだそうだ――眼福に預かれるのそいつらだけじゃねーか!」
「確かにズルいわ。……勇気は各班でまわすで良いんじゃねーか?」
「僕の班に来てくれたら絶対後悔させないんだけどなあ……」
ブーブーとセクハラまがいの文句が飛び出て来た。
相変わらず気持ち悪い連中だな……。
ってか新しく決め直しとか、
時間や手間が掛かりそうな上に、
色々と揉め事の種になりそうな事を……。
俺の決定には反対しない見たいな事言ってたくせに……こいつら面倒くさい。
「変な事言わないでくれる? 良いでしょ?」
取りあえず、青筋が出そうになるのを抑えながらニコッと笑顔作ってみた。
笑顔と涙は女の武器って言うし効果がある事を期待しよう。
恥ずかしさ?
そんなの二の次だよ。
俺は早くレベル上げがしたいんだ。
「う、うおおおおっ、やばっ」
「やばいな今の笑顔。くそっ……今回はしょうがねぇな」
「勇気って元々女みたいな顔してたけど、本当に女になったらスゲェな。破壊力が恐ろしい事になってる」
「うわー、俺だけに向けて欲しいわ、あの笑顔。でもそうだな。勇気が困っちゃうもんな。困らせたいワケじゃないんだよ」
「独占欲そそるよなぁ」
クラスメイト達が異常な歓喜を見せた。
怖っ。
了承して貰えたは良いけど怖いわ。
一応保険かけておくか……。
「あと……班分けすると一人余る事になるゴリだけど、俺の班に入れても良いよね?
見ての通り俺は女になっちゃったじゃん?
女だと男みたいには動けなくてさ。
でも、それだと俺の班だけお荷物抱えて不公平になっちゃうしで……ゴリを入れて穴埋めにしたくて」
本音は。
元教師であり年上でもあるゴリの目があれば、俺の班のやつらが仮に変な事を考えはしても、行動には移せないだろうと思いまして。
ゴリ自身が襲う側に回る可能性については……ゴリは女に興味無さそうだから心配はいらない。
クラスメイト達の反応を見ると、
大多数は仕方ないと言った表情をしていた。
ゴリも軽く頷いて肯定して見せる。
まあ中には微妙な感じの顔しているのも数人居たが……って微妙な顔してるの俺の班の奴らだった。
「ちっ……ゴリ必要無いよな」
「本当にな」
俺の班から恐ろしい呟きが聞こえてくる。
ゴリ保険かけて正解だよ……。
危ない危ない。