2層 13話目
さて、エキドナちゃんの進化先だけど、
次の三種類から選べるらしい。
①双頭ノ蛇
②ラミア・リル
③??? ※.1
※.1 ランダム進化。①と②のどちらに進化するかをランダムで決定する。確率はそれぞれ48%ずつ。――但し、4%の確率でそれ以外の特殊固体に進化する場合がある。魔石を消費する事で特殊固体になる確率が上がる。
……どれにしたら良いのか迷うね、これ。
もちろん一番気になるのは③だけど、
仮に特殊固体になった場合、
それが何なのかが分からないのが気がかりなんだよね。
①であれば頭二つの蛇って分かるし、
②であればラミアだから上半身が人間で下半身が蛇で、続くリルって部分から察するに小さい――つまり幼女見たいな魔物なんだろうなと言うのが分かる。
でも、③の特殊固体とやらは全く分からない。
説明を見ても、
『特殊固体は複数あり、その中から更にランダムで選ばれる』
なんて文面が出て終わっていた。
ギャンブル要素が強すぎる……。
強いのに進化したら良いけど、
もしもレア度だけ高くて能力は最低値みたい魔物に進化したら、
私としては嬉しくないし、
エキドナちゃん自身も嬉しく無いだろう。
「……うーん」
唸っては見るけど、
考えても見れば取らぬ狸のなんとやら、かな?
確率見る限り特殊固体に進化する可能性は凄い低そうだし。
まあ魔石を使えば確率アップする見たいだけど……。
「……うう~ん」
駄目だ。
考えても良い案が浮かばないよ。
……いっそのこと本人に選んで貰おうかな?
エキドナちゃんに取って見れば、
自分自身の進化だなワケだし、
ある意味がそれが一番良いような気がしないでも無い。
いくら私が召喚主だとしても、
勝手に決められたら面白くない部分もあるでしょ。
「――よし、決めた! エキドナちゃん。進化先だけど自分で選んで良いよ」
「ぎぅ!?」
そんなに驚かなくても……。
「ぎぅ?」
エキドナちゃんが何度も瞬きをして、
本当に良いのかと問うような表情になったので、
私は大きく頷くのである。
「ぎぅ……」
エキドナちゃんは申し訳なさそうに迷っていたけど、
私の決意が固い事を理解したのか、
諦めたように決断を下し、
進化先を選んだ。
――さて、そんなエキドナちゃんが選んだ答えだけれど、
それは③だった。
ちょっと予想外の答えではある。
どっちかと言うと慎重そうな子だと思っていたから、
まさかここで冒険に出るとは……。
まあ何にしろ本人の意志優先なのであって、
特にその事に異論も依存も無い。
『――確率アップに魔石を消費しますか?』
③を選択するとそんな表記が出た。
そう言えば魔石で確率上がるんだったね。
……ここは折角だし、
いっその事手持ちの魔石全部突っ込もう。
どういう結果になるのかはわからないけど、
エキドナちゃん的には、
特殊固体になれる可能性が欲しいからこそ、
③を選んだんだと思う。
エキドナちゃんにも度々お世話になってるから、
なるべく期待には添いたいのだよ。
魔石はまた集めれば良いだけだ。
『――魔石の消費決定を受諾。幾つ消費しますか?』
全部ですよ全部。
ポーチの中のと、
エキドナちゃんが体内に溜め込んでくれてた魔石を全部。
『――了解致しました。それでは、進化を開始致します。……魔物の進化を初めて行う為、初回ボーナスとして特殊固体への進化確率が十倍になります。続いて、魔石消費を初めて行う為、特殊固体への進化確率が五倍になります。――百パーセントを超える確率になりましたので、特殊固体への進化が確定となります』
……は?
ボーナス?
えっ、ちょっ……。
普通に気になる文面が続いたのだが、
一瞬のうちに流れてしまったので、
それを途中で止める事も出来ず。
ポーチの中の魔石が光って消えて、
続いてエキドナちゃん自身も淡い光を放ち――
――進化が始まった。
■□■□
『――子蛇は【蛇竜種(幼体)】に進化致しました』
進化の完了を告げる文章が現れると、
エキドナちゃんを包んでいた淡い光が収束して消えていく。
「ギッ」
どこか誇らしげな声音のエキドナちゃん。
その姿は蛇の面影を残したまま、
何かトゲトゲしくなっていた。
頭には硬そうな一本角が生え、
鱗が金属のような硬質感を放っているのだ。
なにやら……蛇竜種と言う存在に進化したようなんだけど、
見た目とその名前からして、竜になったのだろうか?
とりあえず説明を見てみよう。
『【蛇竜種】――亜竜属の一つ。正式な分類は魔物目・竜科・亜竜属・蛇竜種である』
何か長ったらしい前項目があるようだけど、
竜科って書いてるってことはつまり、
分類としては竜で良いのかな?
……いや、違うか。
例えば人間はサル目だけど、
じゃあサルかって言われたらそうでは無くて、
猿とはまた違う種類の動物だよね。
目と言う単語が指しているのは、
同種であると言う事では無くて、
あくまで祖先を共有していると言う点のみだ。
だからこの蛇竜種と言う固体に関しては、
原亜種と定義された竜科の生物と同一の祖先を持っているだけで、
種族としては別種だと見るのが恐らくは正しい。
……うーん。
何か生物の授業見たいで頭痛くなるね。
まあ魔物がいて魔術があって精霊も出てくる世界で、
そもそも元の世界の常識が通じないので、
こういうのはあんまり意味が無い考察でもあるから余計にだ。
「わー」
休憩中だった楯子ちゃんが、
エキドナちゃんの進化に気づいて近寄って来た。
その目は爛々と輝いている。
「かわいくなってるー」
か、かわいい?
どっちかと言うと個人的には、
カッコ良さが増した系の進化だと思ったけど、
楯子ちゃん的にはカワイイの部類らしい……。
まあ感性は人それぞれだ。
「すごいねー」
「そうだね。進化したんだよ?」
「ほえー! たてこも、しんかできるー?」
私は頷いて、
「レベルが上がれば多分ね」
と伝えた。
いずれは楯子ちゃんもレベルが上がれば、
進化する時が来るだろう。
その時はエキドナちゃんの時と同じく、
進化先は本人の意思で選んで貰おうかな。
「うん!」
元気の良い返事、大変宜しい。
――さて、ところで、
進化したエキドナちゃんのステータスだけれど、
大体こんな感じである。
――――――――――
名前:エキドナ
性別:メス レベル:1.2
次のレベルまで:680/2160
動体視力2.55
基礎筋力2.40
身体操作2.50
持続体力2.60
魔力操作3.07
魔力許容3.20
成長水準1.25
スキル 赤外線視 2.02 毒牙 1.06 魔力/呪力感知 2.11 酸爆ノ息1.50
経験値配分 均等
――――――――――
ステータスが向上しつつスキルにも変化が見える構成だ。
これは良い感じの特殊固体に進化出来たと見て良いのだろうか?
比較対象の進化済みの魔物が居ないから、
いまいちこれが良いのか悪いのかが分からないけれど……。
まあ亜竜だと言うのだから、
良い感じの進化だとは思う。
ちなみに、酸爆ノ息って何だろう?
凄い物騒な名前だけど……。
まあ後で見せて貰えばどういうスキルなのか分かるよね。
「ふぁあああ」
不意に欠伸が出てしまった。
……やっぱり私もだいぶ疲れてる。
エキドナちゃんの進化も見届けたし、
少し仮眠を取ろう。
「ぎっ!」
進化したばかりだから、
エキドナちゃんは随分と体力が有り余ってる様子。
なので、ひとまず見張りを頼んで見ると、
すんなりと頷いて了承してくれた。
「あー! たてこもいっしょにねる!」
「……はいはい。おやすみ」
膝の上にちょこんと乗ってきた楯子ちゃんを撫でながら、
私は座ったままウトウトと寝息を立て始める。
徐々にぼやけていく視界の中で、
空がすっかりと蜜柑色に染まりはじめているのが見えた。
……なんとも不思議だね。
ここは迷宮の中なのに、
青空だったり夕日色に染まったりしてさ。
寝入る瞬間にこの光景を見てしまったせいか、
どうせ起きた時には忘れてしまうと言うのに、
私はふとあることを思った。
――迷宮っていったい何なんだろう、と。