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2層 12話目

今回ははじめて主人公が居ない所のシーンを三人称視点で書きました。

ボスによっては危機感無しでエンカウントしてしまうとこうなってしまう、と言う一例です。

ちょっと気持ち悪いかと思いますので、心の準備お願いします。

■□■□


 それは人間の女のような(・・・)姿をしていた。


 二つの腕と二つの脚を持ち、

 顔の造詣も人間を思わせる類のものではある。


 だが、あくまでような(・・・)でしかなかった。


 姿形こそ人間のようであれど、

 確かにそれは人間では無いのだ。

 背には蝶々を思わせるような羽根を携えているし、

 体の表面は昆虫のような外骨格で形成されていて、

 酷く無機質である。


 それは昆虫型の魔物であり――迷宮における、第二層のボスでもある存在だった。


「おーよしよし、早くお外に出たいんでちゅねー」


 人間の女の形を模している昆虫の魔物――第二層のボスは、

 大事そうに自らのお腹を摩る。

 ぽっこりと膨らんでいるそこには、

 新たな命が宿っていた。


「……パパもそう思うわよねぇ?」


 第二層のボスがそう言いながら振り返ると、

 手足を縛られ吊るされて、

 ぐったりとしている裸の男がいた。

 その男に対して、

 愛おしい人を見る、

 熱の篭った視線を第二層のボスは送った。


「……こ、殺して、くれ」


 男は息も絶え絶えながらに、

 切実にそう訴える。

 すると、第二層のボスが眼を細めた。

 先ほどまでの蕩けてしまいそうな感情が、

 一瞬のうちに潜んだ。


「……どうして? せっかく子どもが産まれるのよ? 何でパパとして歓迎しないワケ? この子の前の子までは一緒に喜んでくれたじゃない」

「もう、もう何年もずっとお前の相手をしてきた」

「そうよ。いっぱい子ども欲しいんだから。今回ので何千匹目かしらね。……あらもしかして、いっぱいいるから、一人くらいどうでも良いって言いたいの? 全員大事な子どもよ? 愛を持たないと駄目だわ」

「――う、産まれてくる子は全部気持ち悪い芋虫の魔物じゃないか! それのどこに愛情を感じろって言うんだ!」


 男が叫ぶ。

 体力が落ちてきているのか、

 掠れた上に弱々しい声だった。


「……何よそれ。あなたは私の一番のお気に入りだったから、一番子どもをいっぱい産んだのに」

「頼んでない、俺はそんな事たったの一度ですら望んでない……。そもそも、か、勝手にお前が俺を浚ったんじゃないか」

「浚って欲しそうな顔をしていたもの。……と言うより、たったの一度も望んでいないだなんて、もしかして、私の事を愛してるっていつも言ってくれてたのはウソだったの?」

「そ、そう言えば、いつか解放されると思っ――」


 男がそこまで言った次の瞬間。

 首から上が跳んでいた。


「――あらそう。じゃあ要らないわ」


 第二層のボスが腕を振り払うと、

 その腕についた赤い血がビシャリと飛び散る。

 その眼には一切の感情が見られない。

 どこまでも怜悧である。


「愛してるって言った癖に。ウソを付く男は嫌いよ」


 ぴくりとも表情を崩さずに、

 第二層のボスが言い放つと、

 一匹の芋虫の魔物が擦り寄ってきた。


「あらどうしたの。パパが恋しい?」

「ぴぃぴぃ」

「……パパの事いじめないで、と言われても困ってしまうわ。しょうがないのよ。パパはね、私の事を愛してないし、あなたの事も気持ち悪いと思ってたそうだから」

「ピギィイィイ!」


 第二層のボスの言葉に、

 芋虫の魔物は怒りを露わにする。


「ピギィイイ! ピギッピギィイイ!」

「その通りよ。殺しても何も問題ない男だったの。……でもそうね、肉は勿体ないから、どうせだからお腹いっぱい食べて成長の糧になさいな」


 第二層のボスは、

 ごろんと地面に転がった男の首を掴むと、

 芋虫の魔物の目の前に置く。


 芋虫の魔物はフガフガと息を吐きながら、

 怒りをぶつけるように捕食を始めた。


「……はあ、どうして私ってこうも男運が無いのかしら。まあ良いわ――」


 ため息をつきながら、

 第二層のボスは奥にあった扉を開く。

 すると、そこには何十人もの人間の男が吊るされていた。

 長い年月をかけて第二層のボスが少しずつ集めた、

 迷宮に転移された人間の男である。


 男達は全員まだ息があるようで、

 すすり泣くような声や、小刻みに震えるような音が響いていた。


「――子種をくれる男はまだまだ居るもの」


 くふふ、と第二層のボスが笑う。

 その笑みは酷く歪で醜悪な雰囲気を感じさせる。

 それを見た吊るされた男たちが、

 恐怖に顔を歪めた。


「次の私の一番は、だ・れ・に・し・よ・う・か・な。……いっぱいいっぱい、愛の結晶を産んであげるからね。そうねえ――あなたなんて良いかも知れない。好みじゃないけど一番新鮮だから、きっと子種も活きが良くて元気な子が産まれてくるに違い無いわ。愛が無いのが問題だけど……そこはほら、体から深まる愛もあるかも知れないし」


 第二層のボスが興味をそそられた男は、

 縄張りである二層を巡回している最中に見つけ、

 つい数時間前に捕まえた男だった。


 男は幾人かの同性の仲間と行動を共にしていたせいか、

 警戒心と言うものがまるで見られず、

 第二層のボスも拍子抜けするくらいに簡単に捕縛が出来た。


 ここが浅い階層だと言うのもあるが、

 そのあまりな容易さに、

 迷宮に来てまだ幾日も経っていないであろう事が想像出来る。


 低い身長に猿と豚を足して二で割った感じの顔と言う、

 あまり第二層のボスの好みの男では無かったが――一番新鮮である、と言うのが今回はどうにも心に突き刺さった。


 たまにはゲテモノも良いかも知れない。

 新鮮だし。

 体を重ねる内に愛も生まれるかも知れない。

 新鮮だし。


 先ほどまで一番だった男に裏切りの言葉を貰ったからか、

 今はそういう気分だった。


「ものは試しとも言うし」


 うふうふと第二層のボスが頬を緩めると、

 見初められた男が涙を浮かべ始める。


「やめ、やめろ」

「あらどうして? 良いじゃない。男は女の体が好きでしょ? 孕ませるのも好きでしょ? いっぱい一緒に子作りしましょ」

「くそがっ、くそがっ――【災過の咆哮】――なっ、なんで発動しねぇんだ!」

「あらあらスキルでも使おうとしたのかしら? 残念ね。私に捕まった時に鱗粉を吸い込ませたもの」

「くそっ発動しろ! 【災過の――」

「――無駄よ無駄。私の鱗粉は意思の伝達をほんの少しズラすの。……ほんの少しって馬鹿にしたら駄目よ? これを吸い込むとスキルを使おうとしても使えなくなるんだから。スキルを使おうとする意思がズレるんだから、使えなくなって当然よ」


 第二層のボスが自らの羽根をばさりと羽ばたかせると、

 黒い鱗粉が辺りに充満する。

 それはコールタールのようにネットリ粘ついていて、

 逃がさないと言う第二層のボスの心中を顕しているかの様であった。


「あひっ、あひぃ」


 男は第二層のボスの言葉を理解したのだろう。

 ぶわりと涙を滝のように流すと、

 がくがくと震えだした。


「嬉しくて涙がとまらないのね? わかるわぁ。あぁん、美味いしいわぁ……」


 ぺちょり。

 第二層のボスの紫色の舌が、

 男の頬を流れる涙を舐めとる。


「ああああっ、こ、こんな事になるなら、無理やりにでもアイツを犯してれば良かった! くそっ! 途中でキレて居なくなっちまうしよ……。こんな事になるなら、良い思いしとくんだった……うううっ」


 泣き喚く男の言葉に、

 ぴたりと第二層のボスの表情が固まる。


「……ねえ、無理やりにでも犯してれば良かったって、もしかして抱きたい女でも居たの?」

「――ああ、いたさ! 思いっきりパコってみてぇ女になったヤツが居たんだよ!」

「ふぅん……。その女って迷宮に来ているの? それとも、ここに来る前の所に居て今は会えない?」

「俺達と一緒に迷宮に迷い込んでた……迷宮に居る」

「……その女、今は迷宮のどこに居るのかしら?」

「ここか、上の階かどっちかにまだ居るハズだ。……何でだ、何でそんな事を聞く?」

「……あなたが望むなら、その女を連れて来ても良いと思ってるからよ。あなたを愛する努力をして見ようと思ってね。まずは形からでも愛を示すのもアリじゃない? だから、叶えてあげられる事は叶えてあげても良いわ」

「――お、俺の望みを……? なら――」

「――ここから逃げ出したいとか、私から離れたいと言う類のモノは却下よ」


 男の言おうとした言葉を、

 先んじて潰すと、

 第二層のボスは熱っぽい視線を男に向ける。


「それで、どうするの? あなたが望むならその女を連れてきても良いのよ。毎日交尾する為の時間を設けてあげるから、好きなだけ種をつけて孕ませたら良いわ。……私は心が広い女だから、私の事を一番に思ってくれさえすれば、それぐらいは許してあげる」


 第二層のボスはくふっと笑うと、

 男の頬を胸板を優しく撫で回した。


「……それは、本当か」


 ぽつりと男からそんな言葉がこぼれる。

 今までのやり取りから、

 この第二層のボスからは逃げられないと言うのを、

 おそらくは男は感じ取っているのだろう。

 そして逃げられないと知った中で強く提案されている、

 心残りの解消の手助け。

 ……それは、男の心を動かすには十分過ぎる誘惑であった。


「ええ本当よ。好きなだけ犯したら良いわ」

「……」

「それで望むの? 望まないの?」

「……の、望む」


 男は選んだ。

 目の前の化け物のぶら下げた餌に、

 飛びつくという答えを選んだのだった。


「ふふふっ、分かったわ」


 第二層のボスは満足げに笑うと、

 男の求める女の特徴を聞きだした後に、

 淫靡にしなを作って腰を振りながら、

 くるりと踵を返した。


「それじゃあ待っててね、だぁーりん」


 甘えた猫のような声音でそう言うと、

 お腹を大きくした身重な体であるというのに、

 第二層のボスは確かな足取りで歩き出した。


 向かう先はただ一つ。

 この男が抱きたくてたまらないとか言う、

 召喚士(・・・)とか言う固有スキルを持つ女の所である。


■□■□

忘れてる方も居ると思いますので、登場人物の補足を。

災過の咆哮のスキル持ってるクラスメイト=ケダモノ(斉藤)。

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