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2層 9話目

 しかしあの二人、

 どんな話をしているんだろう。

 ここからだと良く聞こえないんだよね。


 ……もっと近づいて見ようかな?


 いや、駄目か。

 近づいたら見つかる可能性が高くなる。

 モジャ男と二段の目的が分からない以上、

 近づくのは得策じゃない。


「で、勇気をどうやって見つけるんだ? ……最初に言っとくが、俺のスキルを使えば、もしかしたら見つけられるかも知れねぇ。だが、使う気はないから期待はするなよ」

「そ、そうだよね。鉄くんからすれば、僕の事を助ける必要なんて――」

「――変な勘違いをするな。一緒にいるんだ、手伝わねぇって事は無い。ただ、俺のスキルを使う場合アイツの匂いを辿る形になる。隠し通せれば良いが、もしも匂いを辿ったと言うのがバレたらどうなると思う?」

「――あっ、なるほど。小桜くん嫌がりそう、だね」

「そういうこった。だから今回は俺に期待はするな。魔物ぶち殺すくらいしか出来ないからな」

「じゅ、十分だよそれで。僕のスキルは戦闘系じゃないから、凄い助かるよ。それにしても匂いかぁ。鉄くんのスキルって何なの?」


 段々近づいてくるのは分かるものの、

 まだ会話は拾えない。

 しかし、距離は着実に縮まって来ているので、

 聞こえるようになるのも、

 時間の問題と言える。

 

 やや経ってから、

 私の耳に二人の声が届いてくるようになる。


「――す、凄いね。強いスキルじゃないか!」

「そうでも無い。それより高田、お前のスキルはどうなんだ」


 丁度モジャ男のスキルについての話になった所らしい。

 うーん。

 少なくとも、私を探しているわけじゃないって事で良いのかな?


 まあともかく、

 他人の手の内は知っていて損は無いから、

 きちんと聞き耳を立てて置こう。


「そ、そうだよね。僕だけ聞いて教えないって言うのは不公平だよね。……僕のスキルは【敵情視察の瞳】(アイリス・ディアティ)って言って、敵とみなした相手のステータスの一部を見れるんだ」


 ――なぬ。

 モジャ男、鑑定系のスキル持ちだったんだ。


「凄いじゃないか。で、一部ってのはどこまで見れるんだ?」

「レベルだけ……なんだよね。まあ、あくまで今の所はって感じなんだけど」

「ああ、なるほど。育てばレベル以外も見れるようになるって感じか?」

「うん。あんまり役に立たないよね……」


 モジャ男はどうやら自らのスキルを、

 役に立たないって思ってるようだけど、

 正直そのスキルは周りが結構助かるように思える。


 ステータスの初期値とか伸び具合に、

 個体差個人差があるのは分かるけど。

 確かにレベルだけじゃ判別しにくい面はあるけど。

 でも、ある程度の指標にはなると思う。

 それに加えて育てばそれ以外も見れるようになるのなら、

 別に悪くは無い。


 役に立たないというのは、

 ずっとレベルしか見れないし成長も無い初期で頭打ち、

 見たいな感じのスキルだったときに言っていいことなんじゃないかな。


「そんな事は無いさ。レベルが分かるだけでも充分だろう。弱そうに見えて実はスゲェのとか、事前にそういうのが察知出来るってのは、大事なことだぜ。周りが助かる」


 ほら。

 二段もそう言っている。


「そ、そうかな。えへへ……」


 ん?

 モジャ男の声が少し弾んでいるような……?

 褒められて、満更でも無い感じなのかな?


 ちょっとモジャ男くん、

 君チョロ過ぎないですかね……。


 女に免疫が無いのはまだ分かるけど、

 男から褒められても即落ちってどうなの?

 何か心配になる男の子だよ。

 将来変な女に引っかからないと良いけど。


 思えば律儀にお礼の品を持ってくるくらいには、

 モジャ男も根が悪い男では無いから、

 何だか心配はしてしまう。


 そうだね、モジャ男。

 君の良い所を理解してくれる、

 そんな優しい女の子がそのうち現れる事を、

 私は祈る事にするよ。


 え? 何だって?

 ここは迷宮で、

 今の所の登場人物がほぼ男なのに、

 どうやってモジャ男がそんな女と出会うかだって?


 それは知らない。



■□■□



 私が聞き耳を立ててウンウン唸っていると、

 段々と二人の声が遠ざかって行った。


 どうやら、私は上手く見つからずにやり過ごせたらしい。


 しかし、その事にほっと胸を撫で下ろす反面、

 結局モジャ男と二段が何で二人組みで居たのか、

 その理由は分からないままである。

 私の耳に入った二人の会話は、

 スキルに関するものだけだったのだ。


 まあ過ぎた事や、

 知る事が出来なかった事を気にしても仕方ない。

 頭の中を切り替えていこう。


 と言う事でさて、

 これからどうしようか。

 私は少しそれについて悩んで見て、

 やがて、あの二人とは違う方向へ進む事に決めた。

 現状で遭遇するのは、やはりあまり良くないと考えたのである


 特別に私に関係している会話を二人はしていなかった。

 だからまあ正直なところ、

 偶然を装って話するくらいは大丈夫なのかも知れない。

 でも、私自身の飛び出し方が飛び出し方だったから、

 それで気が引けたのだ。


 あんなキレた感じで出奔しておきながら、

 普通のノリで会話とかし始めたら、

 何か私が突然怒ったりする、

 精神不安定なヒステリック持ち見たいだし……。


 うーん。

 自分の事を考えると何か自己嫌悪に陥りそうになる。

 今は考えるのをやめた方が良さそうだね。

 なので、私は二人を引き連れて先に進む事にした。


「さっ、そろそろ行くよ」

「ぎぅ」

「ねー、いまなんで、かくれんぼしたのー? おとこのひと、とおってったよー」

「色々あるの」

「いろいろって、なーに?」

「会いたく無い人だったの」

「むかしのおとこー?」


 思わず私は噴き出した。

 楯子ちゃん、君一体どこでそんな言葉を覚えたの?


「全然違います。私に男はいません」

「ぷぅ」


 何で頬を膨らませるんだろう。

 面白くないって顔してるけど、

 何でそうなるんだろう。


「色々と落ち着いたらお菓子買ってあげるから機嫌直して。……ね?」


 実は施設の中にお菓子屋さんがあるのを私は見ていた。

 値段も把握している。

 そこまで高いわけじゃなかったので、

 買えない事は無いのだ。

 さて、これで納得してくれるだろうか。


「ほんと? やくそくだよ?」


 上手く釣れた。

 よし、畳み掛けよう。


「うんうん約束約束」

「やったー! いっぱいたべるね!」


 急に元気になってくれたのは良いんだけど、

 いっぱいって、

 見た目に反して食い意地張ってる子だね……。


 この調子だと与えすぎると我侭になりそうだ。

 匙加減を考えないといけないかも知れない。

 まあそれはその時考えれば良いか。


 ……ところで話の流れとは言え、

 楯子ちゃんにお菓子を買うと言ってしまった以上、

 エキドナちゃんにも何かプレゼントしないと行けないね。

 功労賞を与えたい的な状況なら特別に一人だけってするけど、

 今回はそうじゃない。


「……うーん。何で私は召喚獣にここまで気を使っているんだろう」


 思わず私は一連の流れに眉を潜ませる。

 何かがおかしいような気がするのだけど……。


 私はどうにか釈然としない思いを抱えながらも、

 一方でどこか柔らかな気持ちになる自分が居る事にも気づいた。

 上手く言葉には出来ない感覚である。


「エキドナちゃんも欲しいものがあったら教えてね」

「ぎぅ?」


 良いの?

 とでも言いたげな表情をエキドナちゃんがしたので、

 私はゆっくりと頷いた。

 この時の私は自然と微笑んでいた。



■□■□



 探索をしばらく続けると、

 この階層に出る魔物何匹かと出くわした。

 1メートルくらいの芋虫と、

 同じくらいの大きさのカブトムシ見たいな魔物。

 その二種類である。


 エキドナちゃんが噛み付いて倒し、

 楯子ちゃんが魔術行使で小さな火の玉投げつけて倒し、

 非常に順調である。

 魔石も沢山手に入り、ポーチは既にパンパン。

 それでも増えていくので、

 エキドナちゃんのお腹に保管して貰う事にしたけれど、

 時間が経つにつれて、段々またツチノコ見たいに……。


 一回小休止を挟んだ方が良いかも知れない。

 ちょっと楯子ちゃんに魔術について色々聞きたいし、

 私たちのステータスも確認したい。


 しばらく歩くと、

 少し開けた湖畔が見えてきた。

 耳を済ませると、

 清涼感の溢れる水の音が聞こえてくる。


「あそこで休もうか」

「ぎぅ」

「うんー」


 私たちは湖に近づいていき――


「ひゃっ!」

「ぎうっ!」

「やぁーあ!」


 驚いて声をあげる。

 その湖には、人が浮いていたのだ。

 しかもあの服装には見覚えがあった。

 私の学校のものだ。

 つまりアレは、クラスメイトの誰かである。


 一体なんでこんな所に。

 そもそも生きているんだろうか。


 ごくり、と唾を飲み込みつつ、

 私はあれがクラスメイトの誰なのか、

 それを確かめようと思って、

 近くに落ちていた木の枝を拾うと、

 つんつんと突いて見た。


「だ、誰ですかー」


 しかし、反応は無い……。

 こういう時、私はどうすれば良いんだろう。

 エキドナちゃんと楯子ちゃんも、

 驚き眼のままで、浮かぶクラスメイトの事をただただ見つめている。


 と、その時だった。

 ざぱぁんと湖の中央から音がして、

 水が柱のように高く昇りはじめたかと思うと、

 それは人の形を作り始めた。


 魔物だろうか?

 それとも精霊?

 分からない。

 ただ、邪気や悪意の類は感じられないけど……。


「……」

「……」


 私と視線が合うと、

 それは形作る為の水の性質を現しているかのように、

 涼やかさを伴った無表情のまま、

 小さく一回転する。

 するとそれに呼応するが如くに湖が波打ち、

 ぐぐぐっと三つの何かがせり上がってきた。


 まもなくして湖から飛び出してきたそれは、

 先ほどまで浮いていたクラスメイトが三体であり、

 うち二つは金色と銀色に光っている。

 容貌は三体とも同一であり、

 良く見るとこれが茶メンである事が分かった。


 こんな所で何やってんだコイツ……。


 謎の状況に呆気に取られていると、

 やがて精霊とも魔物とも取れる水が、

 言葉を発した。


「ここに並べたてるは純金で出来た男と純銀で出来た男、そして普通の男である。問おう。汝が落としたもうたは、いずこの男であるか?」


 そんな金の斧銀の斧みたいな……。

 って言うか、質問の前提が間違ってないですか?

 そもそも男なんて一人として湖に落としてないです。

 見つけた時にはその男、

 勝手に湖に浮かんでましたよ?


「それは真なるか? 我は湖の精霊ともなれば、真実と異なる事柄を申し立てらば汝を呪おう。呪いは強力無比ともなれば、解呪には再び我と邂逅せし必要を求む。我は幾瀬幾年の季節を巡り、顕現せしは時の運。一生として会えぬ者も珍しくは無い。……虚偽を働かば死が肉体を分かつまで解けぬ呪いと心得よ。その上で今一度問おう、汝が落としたもうたは、いずこの男であるか?」


 何か凄い重い話になってるけど、

 だから知らないってば。

 勝手に浮かんでおりましたの。

 って言うかこの人? 精霊なんだ。


「――なんと正直な事か。この男は『湖中にお宝がある気がする。きっと綺麗なお宝だから、プレゼントしたら喜んで貰えるかも知れない』等と言いながら潜水を始め、溺れかけたのである。これこそが実。確かに汝はこの男に関与はしておらぬ。それこそが真。よくぞ述べた」


 何か良く分からないけど、

 まあ信じて貰えたならそれで良いか。

 しかしそれにしても。

 茶メンのヤツ、なんて下らない理由で溺れ掛けているんだ……。


「正直者である汝には権利を与えよう。純金と純銀そして普通の三人の男を得るか、我の力を得るか。そのどちらを望む? 望む方を汝に与えたもう」

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