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2層 8話目

 クラスメイト達のざわめきが聞こえる。

 私の下した決断は、

 彼らに動揺を誘う程には衝撃的だったらしい。


 たかが私一人が抜けるくらいで、

 何でこんなに騒ぎになるのか……。


「お、おい、どうするんだよこれ」

「予想もしてなかった返答だぞ……」


 予想もしていなかった、だって?

 どれだけオメデタイ頭をしているんだ。

 君たちは私に対して、

 自由を奪う二択を迫っているんだよ?

 それに反発するのは至極当たり前の事でしょ?

 この提案を嬉々として受けるとしたら、

 依存心が強いかあるいは自分では何も決められない優柔不断か、

 そういう心を病んでいそうな人くらいなものだ。

 少なくとも私はそうでは無いのだから反発もする。


「――おいおいそれは無しだろ。どっちかを選ぶって話なんだ」

「――そうだぞ。何で勝手に三つ目の答えを用意する」


 はあ?

 勝手に三つ目の答えを用意するな?

 それブーメランだよ?


「何で勝手に三つ目の答えを用意するだって? じゃあ言わせて貰うけど、何で勝手に私に二択を迫ってんの?」


 私はハッキリとそう言い切った。


 自分たちが答えを用意して、

 それを押し付けるのは良いけれど?

 逆に別の答えを用意されて、

 それを押し付けられるのは嫌だ?


 ふざけてるにも程がある。


 クラスメイト達の行動を振り返れば振り返る程、

 苛立ちは徐々に増していく。

 私はもはやここに居る意味は無いと、

 この場から去る事にした。


「おい、待てって!」

「そんなに怒る事はねーだろ! まあその、ちょっと俺らも悪かったかも知れない。そいつは謝る……」


 引き止めの言葉が投げかけられるけど、

 誰がお前らの話なんぞ聞くかよと、

 私は思い切り舌を出してから、走った。


 行く先はどうしようか。

 すぐに施設に行くと、

 探し出されて追いかけられる可能性もある。


 荷物はエマちゃんの所に置かせて貰っているし、

 買い物や寝泊りの都合もあるから、

 今後一切行かないって事は出来ないけれど、

 ある程度時間が経って、

 こいつらが私の覚悟を思い知るまでの間は、

 見つかるワケには行かないのだ。


 こちらが本気だと分かれば、

 もう話しかけてこなくなるに違い無い。

 だからそれまでの我慢である。


 でも、それまでの間をどうしようか……?

 

 ――そうだ。

 ここは一旦、二層目に逃げ込もう。

 未知の階層なら、

 そう簡単には見つからないだろうし。



■□■□



「ええー、何でこうなるの?」


 思わずそんな言葉が私の口から漏れ出るけれど、

 でもそれも仕方がない現状であった。

 私は今、ツルのような植物に足を絡め取られ、

 木の上に持ち上げられているのだ。


 ツルは意識があるのか、

 めちゃくちゃウネウネ動いている。

 ある意味これも魔物……なのだろうか?


「うーん謎だね……」


 逆さ吊りされながらも、

 うんうんと一人で頷く私。


 さてこんな危険な状況なのに、

 なぜ私が冷静でいられるのかと言う点だけれど、

 これは幸いな事に、

 このツルは私を宙吊りにこそしてくれたものの、

 それ以外には特に何もしてこなかったからである。


 最初はかなり焦ったものだった。

 食虫植物だったら食われるじゃね?

 見たいな事考えて泡吹きそうになったもの。


「しかしさて、どうしたものかな?」


 なんとなく、

 思いっきり動けば、

 ツルは千切れてくれそうな気もするけれど、

 そしたら頭から地面にドーンだよね……。


 取り合えず、

 エキドナちゃんと楯子ちゃんを再召喚しようか。


「ぎぅ!?」

「おもしろそうなことしてるー!」


 吊るされている私を見た二人の反応はマチマチだ。

 エキドナちゃんは驚き、

 一方で楯子ちゃんは目をキラキラ輝かせている。


「たてこも、それしたいー」

「危ないからやめなさい」

「ずるいよー!」


 楯子ちゃんはムスっとしたかと思うと、

 次の瞬間にふわっと浮かんで私の周りを飛び跳ねた。


 君……飛べるの?


 魔術行使のスキルで魔術を行使しているのか、

 はたまたスキルに頼らない自前の力なのか。

 まあでも今はそれよりも、


「ずるいとかそういう状況じゃないよ。取り合えず助けて」


 うん、助けて。


「むー」

「そんなほっぺた膨らませないでよ。本当に困ってるんだから、お願い助けて」

「しょうがないなあ」


 分かれば宜しい。


「でも、どうやって、たすければいいの?」

「どうやってか……。楯子ちゃん空飛べるんだし、私の事も浮かせたりとか出来ない?」

「まじゅつー?」


 おっと……思わぬ所から真実が判明した。

 楯子ちゃんは魔術で空を飛んでるようだ。

 

 うーん羨ましい。

 聞けば後で教えてくれるかな?

 教えてくれるよね。

 まあだからともかく、今はそれよりも。


「出来る?」

「うーん。たぶん、だいじょぶ」

「多分ってなに、多分って」

「ちょとまって」


 少しばかり不安になりそうな言葉発しながら、

 楯子ちゃんはムムムッと険しい表情になる。

 すると一瞬だけ私の体が、

 重力が無くなったかのようになった。

 ほんの一秒くらいだけど確かに滞空出来ている。


「ぷはー、これいじょうはむり」

「一秒くらいかな。まあそれぐらいあれば、なんとかなる……かな? ねえ楯子ちゃん、それを私が地面に落ちる瞬間にキッチリ使える?」

「……だいじょぶ」


 多分の文字が消えた。

 出来ると言う自信があるって風に捉えて良いんだろうか。


「……本当に? 本当に大丈夫?」


 しつこいくらいに聞いてしまう私を、

 小心者と笑ってくれて良い。


「ぷぅー、できるもん!」

「もしも出来なかったら、おしりぺんぺん百回するからね?」

「やぁーあ」


 嫌だって?

 大丈夫だよ安心して良いよ。

 失敗したら多分私死ぬから、

 お尻ペンペンなんか出来ないから。

 まあそれは言わないけど。


 しかしいくら不安とは言え、

 出来る出来ないの押し問答を、

 いつまでも繰り広げるワケにも行かない。

 このままずっと悩んでたら、

 そのうち頭に血液が溜まって、

 鬱血死になってしまう可能性もあるかも知れない。

 ゆえに、


「……じゃあ、楯子ちゃんのこと信じるからね」


 私は楯子ちゃんに全てを託す事にした。


 エキドナちゃんが何とか出来そうだったら、

 その方向で進みたいと思わないでも無いのだけれど、

 チラっと見てみると、

 申し訳なさそうな顔をしているのが分かった。

 エキドナちゃんではどうしようも無いらしいのだ。


 うぐぐっ……。


「今からこのツルをなんとかするから、そしたらお願いね」

「うん」

「落ちていく私を地面にぶつかりそうになる一歩手前で浮かせてね?」

「……だいじょぶだよ」


 念のために更にもう一度念押ししてから、

 私は一、二、三と数えて思いきりジタバタした。

 すると目論見通りに徐々にツルがぷつぷつと割けはじめて、

 やがて完全に二つに分かれる。

 ひゅう、と自分の体が落下していった。

 私の視界は地面に向かって一直線に進んで行って――


 ――ぴたり、と一瞬止まる。


 成功だ。

 成功したんだ。

 助かったよ楯子ちゃん……。


 約束通りにギリギリで浮かせてくれた事に、

 涙が出そうになりつつ私は安堵したものの、

 それも束の間だった。

 

 何せ一秒しか持たないのである。

 つまり一秒後には……。


「ぷぺっ」


 浮遊の効果が切れた途端に、

 私はちょこっと地面とキスをする事になった。

 とは言え楯子ちゃんが浮かしてくれたお陰で、

 衝撃のほとんどは吸収されていて怪我は一つも無い。

 本当に触る程度だ。


「ぎっ」

「だいじょぶー?」

「うん、大丈夫だよ。ありがとね」


 エキドナちゃんと楯子ちゃんが私を心配して近寄ってきたので、

 大丈夫だよと言う意味も込めて私は二人の頭を撫で撫でした。

 特に今回の功労者である楯子ちゃんに対しては丁寧を心がける。


「ありがとね」

「たてこ、やくにたったでしょ!」

「うん、助かったよ」

「えへへー」


 さてさて、何とか助かったワケだけど、

 これからどうしたものかな……。

 今は一人だとまだ結構危険だって事が分かったから、

 この二人を傍においておくのは確定として。


 むむむっと私は悩む。

 そしてしばらく悩んでいると、

 ふとエキドナちゃんが顔を違う方向に向けた。

 不思議に思って私もその方向に神経を向けて見ると、

 何かがこちらに向かってくるような足音が聞こえる。


「何だろう? ちょっと隠れよう……」


 私は楯子ちゃんとエキドナちゃんを引き連れ、

 近くの藪に隠れて様子を伺う事にした。


「どうしたのー?」

「ちょっとね」


 怪訝な顔をする楯子ちゃん。

 ここらへんはの気配察知は、

 エキドナちゃんの方が上のようだ。

 得手不得手がお互いにあるって事だね。


 まあとにもかくにも身を潜めて、

 ややあって見えたのは――


「高田、結局お前が俺を連れてきた理由ってのは何だ?」

「く、鉄くんは子桜くんと仲が良い見たいだから、見たら安心するかなって」

「そんな事か。と言うか、そうでも無いと思うがな」

「……そんな事無いよ」

「そんな事あるさ。仲が良いってよりも利用されてるってだけだ。あいつは俺の事を用心棒か何かだとでも思ってた節がある。……それより、クラスメイト達から離れて勇気につくって本気か?」


「えっと、うん。僕もちょっと馴染み辛いなって思わないでも無いし。それに子桜くんには借りもあるんだ」

「借り……? ああ、スライムが詰まったヤツか。だが、それは何か渡して終わったんじゃなかったか?」

「……足りないんじゃないかなっては思うんだ。命を救って貰ったんだよ?」


「なるほど。そういう心意気は嫌いじゃない。だけどな、きちんとここまでって風に線を引かないと、死ぬまで恩返しになるぞ。それに多分あいつ、命を救っただの何だのって、そこまで深く考えてねぇと思うが」

「そ、そうかも知れないけど、自分の気持ちの問題だから……。それより、鉄くん本当に良いの?」

「自分で誘っておいてなんだ? まあ別に俺はどうだって良い。誰と一緒でも良いし、そもそも一人でも構いやしない。特に良いも悪いも無い」


 モジャ男と二段だった。

 この二人が何やら会話をしながら、

 こちらに向かって歩いてきている。


 まさかとは思うけど私を追って来たのだろうか?

 しかしそれなら、二段はまだ分かるが、

 モジャ男はこれまた一体どうして……。

 引っ込み思案系でクラスメイトからは、

 何のかんの言って離れないタイプには思えるんだけど。


 うーん。

 もしかして普通に迷宮探索しているだけなのかな?

 でも、それにしてはこの二人の組み合わせが謎過ぎる。

 どういう縁があって二人一緒なのか。

 班だって違うし、そもそも、

 どちらも人生で全く接点の無いタイプ同士だと思うんだけど……。

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