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2層 7話目

「――クラスメイト達が派閥で割れるのは別に良いんだけど、何でそこで私がどっちについていくかとか、そういう話になるワケ?」


 韋駄天の後についていきながら、

 なぜ自分が巻き込まれるのか、

 それについての説明を私は求める。


 しかし、


「いやぁそれは……」


 なぜか韋駄天はそんな風に言葉を濁してくる。


 私はそんな態度に少しイラッとしてしまう。


 用事を済ませている最中だった私を呼び止めて置いて、

 その私の疑問には答えない。


 これが苛立たずにいられようか?


「……そんな怖い顔しないでくれよ」


 自分でも気づかないうちに、

 随分と怖い顔になっていたようである。

 そんな忠告が飛んできた。

 まあけれど、それならそれで都合が良いと思って、

 私はこの表情を変えようとは思わなかった。


 私はこの揉め事に付き合う時間を作る為に、

 先ほどまでの荷物を一旦、

 エマちゃんのお店に置かせて貰う事にしたのだけれど、

 それはつまり私は自分の時間を潰されたに等しい。

 それにエマちゃんだって、

 突然の事で迷惑を被っていると言って良いのである。

 しかし、コイツにはその自覚がまるで見えないのだ。

 だからこそ今の私の表情が怖いのであれば、

 そのままで良い。


 ――長々とモノローグしたけど、

 端的に言うと私の表情を見て察しろって話だ。


「そう言えば服装変わったんだな。ジャージよりもそっちのが良いな」


 察して欲しいのはそれじゃない。

 服装には別に気づかなくても良い。


「……魔物とか召喚出来るんだったっけか? そいつらに魔物倒して貰って回収した魔石で儲かったのか? 良いなあ羨ましい」


 何かずっと気づかなさそうだ。

 まあそれならそれで良い。

 いちいち反応せずに言葉を返さずに、

 終始無言を貫くだけの事。

 教えてやる義理も義務も無いのだから。


「……」

「しっかし、本当何でこうなったかねえ。クラスで派閥が出来て仲間割れなんてよ」

「……」

「何か喋ってくれ」

「……」

「なあ、俺の何が悪いのかは分からんけど、悪かったって謝るから許してくんね? ちょっと気まずいんだけど」


 何だその言い方。

 ぜんぜん悪いなんて思って無いけど、

 お前が怒ってるから取り合えず謝るわーってか?


 殴りてぇ……。


「それにさあ、折角だから楽しく会話したいじゃん」


 人の神経を逆撫でておいて、、

 何が折角だから楽しく会話だよ。

 ワザとやってんじゃないだろうな?


「……ハイハイ分かった分かった。俺とは会話したくないって事な」


 物分りが良いじゃないか。


「でもこれじゃあ俺が全然楽しくないな。……尻揉んで良い?」


 何で突然そうなるのか、

 意味が全く分からない。


「無言は肯定と受け取――ぇぼぉっ!」


 韋駄天の手が自然とこちらに伸びて来たので、

 私はコイツの股間を思いっきり蹴っ飛ばした。


 ぐちっ――


 ――と一瞬嫌な音がしてしまい、

 私は咄嗟に焦ってしまったけど、

 感触的には潰れた感じが無かったので、

 ほっと一安心である。

 さすがに男の大事な部分を潰してしまったら、

 洒落にならない。

 その場合は責任取れないから、

 無事そうで良かった……。


「――た、玉がっ、玉が中に」


 あれ?

 もしかして潰れては無いけど、

 内側に入ってしまった感じか……?


 し、知らない。

 私は何も知らない、何もしてない。


「ゆ゛、勇気でめ゛ぇ……」

「さ、触ろうとしたのが悪いんでしょ」

「ぞれぐらい゛許ぜっつぅんだよ゛」

「ほら皆待ってるから、さっさと行かないと」

「ぐ、ぐぞがっ、後゛で覚えでろよお前゛っ!」


 そんな脅し見たいなこと言われて、

 覚えてる馬鹿が居るわけないでしょ……。


「い゛でぇ゛……」

「……」


 何かちょっと険悪なムードになっちゃったので、

 行く先は同じではあるんだけれど、

 私は韋駄天と距離を取る事にした。


 近過ぎる場所に居ると、

 何されるか分からないので……。



■□■□



 ひょこひょこ歩きの韋駄天の背中を見ながら歩き続けると、

 そう時間も掛からない内に、

 クラスメイト達の所に辿りついた。

 すると見事に派閥が二つに分かれているのが、

 遠めからでも分かった。


「――!?」

「~~!?」


 左がDQN派閥で、右がそれ以外。


 辺りには剣呑とした雰囲気が漂っていて、

 両陣営の間に深刻な程に溝が出来ているのが、

 否が応でも分かる。


 私と韋駄天が近づくと、

 クラスメイト達がこちらに気づいた。


「おっ来たか」

「待ってたぞ」


 私を見つけた途端に、

 クラスメイト達の雰囲気が幾らか柔らかくなる。


「……ん? 可愛い服装になってるな。ぺろぺろしたい」


 何か気持ち悪い台詞も混じって聞こえてはきたけど、

 それは右から左に流した。


 まあ、ある意味で相変わらずなクラスメイト達だったが、

 少し離れた位置でひょこひょこ歩きをしている韋駄天を見つけると、

 すぐさまに驚いたような表情に切り替わるのであった。


「……なあ、田中はなんでそんな事になってんだ?」


 韋駄天の苗字は田中と言うらしい。

 どうでも良いが。


 と言うか韋駄天のヤツ、

 いつまでそんな歩き方してるんだ?

 ちょっと大げさなんじゃないの……?

 確かに少しは私も悪かったかも知れないけど、

 そこまで重傷では無いでしょ。


「ん? こいつは私の――」

「ば、馬鹿゛、言うんじゃ……」


 韋駄天が制止の言葉を発したけれど、

 私は気にも留めずに、

 そのまま本当を暴露する事にした。

 下手に言葉を濁したせいで隙をつかれて、

 本人にとって有利な言い訳をされても困るので……。


 自分本位だなってのは分かるけど、

 自己防衛機能が働いてしまったんだから、

 仕方がない。


「――お尻触ろうとしてきたから、股間を蹴っ飛ばしただけだけど?」


 私が言い切ると、

 クラスメイト達の表情が一瞬強張り、

 誰かの手がぬぅっと伸びてきて、

 韋駄天は襟首を掴まれてどこかに引きずりこまれていった。


 お、おおう。

 どうするつもりなんだ……?


「……覚悟は出来ているんだろうな?」

「ち、ちがっ、俺はただちょっと戯れのつもりで――」

「――そうか。じゃあ俺らとも戯れようぜ?」


 韋駄天がこれからどんな目にあうのかは分からないが、

 私が思う事はただ一つだ。

 今後セクハラをしてこないようになってくれると助かる。

 それだけである。


 合掌。


「……本当にどいつもこいつも隙あらばって感じだな」


 誰かがそんな事を呟く。

 ちょっと意味が分からない。

 まあ知らない方が良いような気がするので、

 深くは聞かないし、

 そもそも聞かなかった事にするけど。


「とにもかくにも話の本題に入ろう。……聞いた話だとクラスが二つに割れる事になったんだっけ? それで? 何でそれに私が呼ばれるワケ?」

 

 呼ばれた理由について、

 私はあえて知らないフリをする事にした。

 それを口にするのが嫌だったからである。

 私がどっちにつくかの話し合いなんだよね?

 なんて私自身が口にしたら、

 それが真実事実であったとしても、

 自意識過剰なヤツ見たいで嫌なのである。。


 はあ何でこんなことに……。


 私が思わずため息をつくと、

 それと同時に二人の男が前に出てくる。


 一人がDQNで、もう一人が丸坊主の男だ。


 DQNは言わずもがなDQN派閥代表で

 丸坊主の方はDQN以外の派閥代表のようだ。

 つまり両陣営のトップのお出ましである。


 どうでも良いけど、

 見た目と言い雰囲気と言い、

 何か暑苦しいなこいつら。


「何で呼んだかだって? そいつは簡単な理由だ。俺の方につくか――」

「――俺らの方につくか、それをお前に決めて貰いたいだけだ」


 呼び出しを食らった理由を改めて口にされて、

 私の口元が引きつる。

 事前に情報を得ていたとしても、

 いざそれを目の前にすると、

 自分がどうすれば良いのか、

 その答えが出てこないし思い浮かばなくて。


 私は助けを求めるが如く、

 辺りを見回してみる。

 しかし、周りの空気は再び剣呑としてきていた。

 いつもなら何かと騒ぎ出すクライメイト達は、

 今だけは横槍を入れるつもりは無いらしく微動だにしない。

 ひそひそとする会話だけが響いている。


 どうでも良い時に横槍入れてくるのを控えて

 今みたいなこういう時にこそ、

 邪魔しに来て欲しいんだけどな……。


 思う通りに世の中は進まないのは当たり前だけど、

 どうにも腑に落ちない感じがある……。

 

 ところで、ひそひそと何を会話してるんだろうか。


「――やばいな。あの脚舐めたい」

「――何か服が可愛くなってるな。施設で買ったのか? しかしどこからそんな金が」

「――タイツの破壊力よ。あの太ももに挟まれてスリスリしたい」

「――お金渡したらえっちな事してくれるかな?」


 良く聞こえないけれど、

 何か気持ち悪い事言ってそうなのだけは分かる。


「それで、どっちにするんだ? まあ俺はどっちでも良いがな」


 DQNがそんな事を言う。

 こいつ自身は特に私が居る居ないには関心が無く、

 その仲間から何か言われでもして、

 誘っている感じなのだろうか?


 いや……良く見ると、

 こいつチラチラ視線を私の胸に向けてきてる。

 興味無さそうな風装ってるだけだな、これ。

 硬派気取りたいだけのヤツで、

 その実はただのおっぱい好きっぽい……。


 何て言えば良いのかな。

 取りあえず硬派を気取りたいなら二段を見習ったらどうかな?

 二段は今隅っこで一人筋トレしているようだけど、

 ああいう風にならないと。


 まあともかく、

 コイツのグループと一緒はありえないわ。

 見栄張って突っ走って床ペロしてた前科もあるし、

 何か危険しか無さそうなんだよね。


「おいおい、どっちでも良いだと? さっきまでと随分違うじゃねーか。まあ良い、なら俺たちが貰う。俺らは勇気が欲しいって思ってる」


 DQNをぐいと押しのけて、

 今度は丸坊主が自分たちをアピールしてくる。


「別に変な事はしねーよ。ちゃんと俺が見張る」


 丸坊主は、どんと自らの胸を叩いてそう言った。

 随分と聞こえは良く、自分は変な事はしないぞ、

 とでも言いたげな言葉だが、

 その内容とは裏腹に、

 私は丸坊主の視線がお尻に向いているのに気づいていた。


 何だろうね。

 クラスメイト達って一部を除いて、

 ねっとりした感じがある。

 そしてそれを隠そうとしてない。

 いや、隠そうとしているのかも知れないけど、

 完璧に漏れ出てる。


 と言うか丸坊主は見張る見張らない云々で、

 ちゃんとするから大丈夫だ云々言うけどさ、

 それってつまり、

 見張らないと駄目なヤツが居るって事でしょ?


「そういうヤツは居ない。ただ、中にはそういうヤツも居るかも知れないってだけだ。その場合は何とかするから、安心してくれ」


 そういうヤツは居ないと言うのに、

 続く言葉が、中にはそういうヤツも居るかも?

 矛盾してないかそれ?

 安心してくれって言われても、

 全然安心出来ないのですが……?



 これ、DQN派閥もそれ以外で出来た派閥も、

 どっちも駄目じゃね……。


 ああくそっ!


 私は頭を掻き毟りたい衝動に駆られながら、

 悩みに悩む事になった。

 ただ、いつまでも決めないままでいる事も出来ない。


 なので――


 ――私はある一つの決断を下す事にした。


「――私はどっちにもつかない。大体にして何でこんな事で私が悩んだり、挙句の果てに取り合いされたりしなきゃならないワケ? 私はお前らの玩具じゃない。これから先は一人で何とかするから、もう関わってこないで。私も別行動をする」 


 そう、私の答えは極めてシンプル。

 クラスメイト達へと絶縁状を叩きつける、だ。

クラスメイト達「ええええー!?」

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