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2層 6話目

 エマちゃんの口から飛び出るオジジの悪口、

 それを右から左に聞き流すこと数十分して、

 ようやく話が買い物に戻って来る。


「それで、お姉さん本日はどういうのをお求めで?」

「ちょっと枚数が欲しくなってきたかも。最初は高いの一点だけ買おうかなって思ってたけど」


 洗濯機が話に絡んだ辺りから、

 なんとなく枚数が欲しくなってきたんだよね。


「うんうん、高いの一点買いも悪くは無いけど、それはある程度揃ってる状態になってからでも遅くは無いかもね。ちなみに今回はどれぐらいの予算を考えてる?」


 予算か……どうしようかな?

 当初は全財産の半分くらいをここで使って、

 残った分で装備や道具を見て回ろうかなって考えてたんだけど、

 住居の存在なんかも知ってしまったがゆえに、

 お金の使い道が増えそうなので、

 少し下げたい気持ちが出て来てるって言う。


 まあ悩んだ所で、

 高いのを買うつもりしていたなんて、

 多少お金を使う宣言を来店時にしてしまった手前、

 引き下げるに引き下げれないけど。


 吐いた言葉は飲み込めない……。


「半分くらいは使おうかなって思ってたから、五十万くらいで……」

「おおっ、全財産の半分とは太っ腹だね! ありがたやありがたや――って言いたい所だけど、他にも見て回りたいって言ってたでしょ? 無理しなくて良いよ。ちょっと下げて三十万くらいで考えよう――」


 どうやらエマちゃんは、

 こっちの気持ちを察してくれたらしい。


 空気を読むのは女性の得意技なんて噂は聞くけれど、

 案外それは本当なのかも知れない。

 嬉しい誤算だ。


「――ただ、かわりにちょっと揉ましてね」

「わひゃっ……」


 突然ぐにっと背後からいきなり胸を掴まれる。

 エマちゃんいつかはセクハラしてくると思ったけど、

 このタイミングで来るか……。

 これは嬉しくない誤算である。


 うーん……。


「……はぁ」


 私はげんこつを食らわせるかどうか少し悩んで見たものの、

 まあでも、色々と良くして貰ったわけだしと、

 今回くらいは許す事にしようと思って、

 振り上げかけた拳を降ろす事にした。


 前回と違っていくらか優しい手つきだった事もあって、

 揉まれても、まあ我慢出来ない程では無かった、

 と言うのもあるけれど。


「ありゃ大人しい」

「まあ色々お世話になってるしちょっとくらいはね」

「嬉しいような嬉しくないような……?」

「どっちなの」

「……あのねえ、お世話になったからって簡単に許しちゃ駄目なんだよ? 私は女だから良いけど、男の人相手にこんな風に『しょうがないなあ』見たいな態度取ったら大変な事になるよ?」


 変な心配をされてるようだけど、

 仮に恩を感じるような出来事が起きたとしても、

 さすがに男相手にはここまでは許さないよ。

 娼婦になった覚えは無いし、

 これから先なるつもりも無いしね。

 助けられてもせいぜい一言ありがとうでも伝えて終わりです。


 と言うか、

 自分でもセクハラしてるって自覚があるなら、

 止めてくれても良いんだけど?


「だって揉みたいから……」


 君は赤ちゃんか何かかな?


「まま~おっぱい~」


 その言葉を聞いた瞬間、

 私の表情が異常なほどに冷めたものになり、、

 それを見たエマちゃんが「げっ」とすぐさまに手を離した。


 分かってくれれば良い。


「ごめんねごめんねー。……ところでお姉さん、ちょっと相談なんだけど良い?」


 すぐに話題を変えてくる辺りが、

 どうにもこの子の要領の良さを感じさせるよね。


 まあ何にしろセクハラをやめてくれるなら、

 私としても願ったり叶ったりなので、

 イチイチ要領の良さに突っ込むような真似はしないで、

 大人しく話の続きを聞く事にした。

 

「どうしたの?」

「うーんと、予算の使い方なんだけど、下着だけで全部使い切らないで十万くらい残して、それでインナーとかボトムとかも買わない?」

「……んん? つまり服?」

「うん、そだよー。うちはあくまで衣類店であって下着専門店じゃないからね。下着ばっかり揃えないで、服も揃えないとだよ」

「……確かに言われて見ると、服もずっとこのままじゃちょっとね」


 動きやすいから特に気にしてなかったけど、

 いまの私はジャージ一着。

 下着ばかり考えてたけど、普通に考えて服も必要だよね。

 考えても見れば、これから先もずっと一着のみで生活し続けるなんて、

 匂いとか汚れとか考えたらかなりきっつい。


「予算的に下着も服もどっちも何の効果もついてないのにはなっちゃうけど、それはおいおいね」


 効果無しはちょっと残念だけど、

 予算的に仕方がない。


 今の所は特別着衣に効果が無くても、

 迷宮探索には支障が出ないので、

 特別に落胆する事も無いのである。


「そういう方向で大丈夫?」


 エマちゃんが伺うように尋ねてくる。

 私としても特に異論は無い提案だったので、

 二つ返事で了承した。



■□■□



 さてはて時間が少し経って。

 まずは下着選びが順調に終わる。

 可愛らしいのから、落ち着いた大人っぽいものまで、

 色々とあった方がその日の気分にも合わせられるからと、

 エマちゃんがせっせとお勧めを持って来てくれて、

 そこから選んだだけなので、

 特に悩む事はあんまり無かったんだ。


 まあ一着だけえちえちなのが混じってて、

 それについては少し口を出しかけてしまったけど、


「こういうのも一着くらい持ってた方が良いんだよ!」


 なんてエマちゃんにゴリ押しされて、

 結局はお買い上げになったり……。

 まあ下着はこんな感じでした。


 そして続いては服を選ぶ事になるワケだけど――予算内に収めるって都合もあるから、エマちゃんにお任せして見たら、これはちょっと予想外の配分になった。

 アウターに薄手のモッズコート一着、ボトムにホットパンツ一着。

 そしてそれ以外のインナー、タイツ、ガードル、くつ下、

 この四点の安いのを大量に複数枚と言う結果になったのだ。


 なんでこんなにインナーとかタイツとかが多いのか。

 どうしてこうなった……。


「迷宮歩くと多分これ系は頻繁に破れるかなあと。自動修復系の効果ついてるのは高いから駄目だから、今回の肌着系はある意味消耗品としてみるしかないから、必然的にこうなるワケ」


 む、むむむっ。


「破けて素肌を所々晒した状態の、エロくなってる肌着で日常生活を送りたい痴女願望があるなら、それでも構わないけど?」


 それは嫌だけども、

 でもその前に、そもそも素肌云々言うなら、

 ホットパンツってある意味肌を晒しまくりじゃない?

 ちょうど今穿いているけど、脚まる見え……。


「その為にタイツなんでしょ!」

「そ、そうなの?」

「そうなの。いいからタイツもはいてみて」


 そう言われたので、

 取りあえずタイツもはいて見る。

 すると確かにこれなら素肌を隠す事が出来ていた。

 ただ私的に素肌を隠せてはいる『だけ』なのがちょっと気にはなる。

 脚のラインがハッキリ分かったままなのだ。


「何かこう、これはこれで恥ずかしいような……」

「何も恥ずかしくないよ? ――それは気のせいだからね?」

「う、うん」


 押し切られてしまった……。

 そして今言い返せなかった時点で、

 購入は決定である。


「……まあ流行り的に言うならホットパンツはちょっと遅れてるかもだけど、基本は似合う似合わないが基準だし。お姉さんは表情豊かだから、少し活動的なシーンを入れていくと逆に女らしさが出るんだよねぇ……」


 エマちゃんが何かぶつぶつ言い始めた。

 やたら真剣だけど何を言ってるんだろう?

 まあ大したこと言ってないだろうから、

 気にするだけ無駄だよ。


「……それに、折角のスタイルを見せないような格好をするなんてとんでもない。すっきりしたラインの脚を見せずしてどこを魅せるのか」

「何言ってるのか分からないけど、お会計ー」


 本当はもう少し見たり悩んだりしたかったけど、

 これからエマちゃんに案内して貰う所も次に控えてるので、

 早めに済ませてしまわないとね。



■□■□



「こうしてみると、かなり量があるね……」


 両手にぶら下がった袋の中身がぱんぱんである。

 エマちゃんの所で買った下着類やら肌着類、

 それと今はもう着替えてるので、

 もともと着ていたジャージやらも入れているけど、

 まさかここまで袋が膨れ上がるとは思わなかった。


「そんなに多いかなあ? 両手両肩が塞がって初めて『いっぱい』って言って良いと思うけど?」

「それは買いすぎって言わない?」

「そうともいう」


 エマちゃんって、

 金のかかる女っぽい言動がチラホラ見えるよね。

 嫌な顔されそうだから、

 本人に面と向かっては言わないけど。


「それでお姉さん、どこから案内する?」

「うーん。取りあえずこの荷物置く所が欲しいから、部屋が探せる所」

「それもそだね。じゃあこっちこっちー」


 ぐいぐいとエマちゃんが服の袖を引っ張ってくる。


 何のかんの言ってこういう女の子らしい可愛い仕草が、

 本当に良く似合う子だよね、エマちゃんは。


 私は何だか少し微笑ましい気持ちになりつつ、

 待って待ってと言おうとして――


「――勇気! こんな所に居たのか! ちょっと来てくれ! お前に用があるんだよ、クラスメイト全員が!」


 突然に後ろから声を掛けられた。

 誰だろうと思って振り返ってみると、

 そこにはクラスメイトの一人が居た。


 確か陸上部所属の足が早かったヤツだと言うのは覚えてるけど、

 名前は当然覚えてない。

 韋駄天とでもあだ名をつけておこう。


 韋駄天は随分と息を切らしていた。

 相当私を探して回っていたらしい。


 しかし、クラスメイト全員が私に用があるとは、

 何が起きたんだろうね、一体……。


 私は思わず眉を潜めて、

 前に居たエマちゃんは私の袖を掴んだまま、

 首だけを声の方に振り向けて、

 ぱちくりと瞬きを繰り返していた。

 

 韋駄天はゆっくりと深呼吸を一度すると、

 事情を話し始める。


「実はクラスメイトが二つに割れる事になったんだ。揉めたまま収集つかなくなってさ。まあ全員いつまでも一緒ってのは無理なのは分かってた事だからしょうがねぇけど……。まあともかくそれで、別れる事になったのは良いんだが、最後にお前をどっちが引き取るかって話になったんだ。ただ、こういうのは本人の意思が一番重要だろうから、どっちに行くかは勇気自身に決めさせようってなってさ。それでお前を探してたんだよ」


 ――は?

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