2層 5話目
カマをかけられなければ、
一桁減らした金額で買い取るつもりだった等と言う、
先ほどの舐め腐った言動は気にしない事にしつつ……
……いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……。
お金を入れて貰った後のカードの数字を、
ちまちま確認していくと、
確かに百万が追加されていて、
所持金1,000,080、
これが私の現在の全財産になった。
一泊する為に8,500使った時に、
苦汁の選択にも近い思いをした事を振り返って見ると、
一気に大金持ちになった感がある。
これだけあれば、何か役に立つものが買えるかな?
新しい下着も欲しいし、
何かしら迷宮で役に立つ機能とか効果がある道具も欲しい。
ついでに、錫杖の遊環についても専門店で詳しく聞きたい所である。
「一気に増えましたねえ?」
カードに表示された金額に対して、
眼を見開く私をを見ると、
オジジはハハハッと笑う。
驚いてる私を見て楽しんでいる感じがして、
少し癪に障るけど私は気にしない事にしていた
下手に反応すると、
楽しませる材料を提供するだけにしかならなさそうなので。
この人は享楽主義的って言うか、
どう転がっても楽しむようにする性分って言うか、
色々な意味で得する性格してるよ本当に。
「いやあ、そう怒らないで頂けると助かるのですが」
「別に怒ってないですけど?」
「左様ですか。おっといけない、少し残したままの仕事もございますので」
はははっ、と小気味良く笑うと、
オジジはカウンターの上にベルを置いて、
そのまま奥へと入って行った。
「……」
何だろうこの勝ち逃げされた感。
何か非常にイラっとして、
お返しがしたくてたまらなくなる。
きっとこれは正常な感情であろう。
だから――
――ちりんちりん!
私はベルを数回思いっきり鳴らしてから、
店舗の並ぶ道に向かってダッシュで走り出した。
「……おや、誰もいませんね。聞き間違いですかな? やれやれ、歳は取りたくは無いものだ」
■□■□
施設内をうろついて見たは良いけれど、
先にどのお店に入ろうかと悩むこと小一時間。
私は決めかねた末に、まずはエマちゃんのお店に行く事にした。
下着を売ってくれたあの子のところである。
お店が近づくと、
窓ガラスをふきふきしているエマちゃんが見えてきた。
真面目に仕事してるんだね。
「あら? お姉さんどしたの? 昨日の今日だけど」
「うん。実は――」
かくかくしかじか、
迷宮でお宝を手に入れてお金が手に入ったので、
新しい下着を何着か買いに来たんだけれど、
そのついでに他のお店について教えてと伝えて見る。
「――ってわけなんだけど、お願い出来るかな?」
「お姉さん、早めに貧乏から脱出が出来て良かったねぇ……。お願いの件は大丈夫だよ。任せて!」
快く受けてくれるようである。
この子はセクハラしてくるきらいがあるけど、
やっぱり基本は良い子なんだろうね。
「ありがとう。お礼と言ったらなんだけど、ちょっと高い下着買うね。贔屓にするって約束してたし」
贔屓にするって約束を忘れては無いよと、
暗にアピールしてみる。
「あららー嬉しい」
エマちゃんはニパッと笑って、
随分と愛らしい表情を見せてくれた。
良かった良かった、効果はてきめんだ。
しかしエマちゃんは顔は整ってる方だからか、
こういう表情になると普通に可愛い女の子に見える。
愛嬌があるって言うのかな。
寸胴ロリッ子ボディで、
男が手を出したら通報事案になりそうな見た目だから、
そんな小ささゆえの可愛らしさもあるのかも知れないけど。
「まあその、一着だけだと困るしね」
「うん、そりゃそうだよ。特にブラは出来る事なら毎日変えて長持ちさせないと。自分が思っているよりも汗とかを吸うから、ちゃんとしてないと生地が痛みやすくなるし、清潔感にも関わるから」
うーん。
清潔感に関してはその通りだと思うけど、
生地のアレコレに関しては、
逆に毎日変えて洗濯とかしてるほうが、
痛みやすいような気がしないでも無い。
「それはただの怠惰だよ?」
考えを読まれてしまった。
はい、確かに面倒くさいから言い訳考えてました。
反省します。
「まあでもお姉さんズボラっぽいから、完璧には無理だろうし疲れると思う。だからお気に入りだけ丁寧に手洗いして、それ以外は纏めて洗濯機とかでも良いんじゃないかな」
「それなら私でも出来そう。……というか、洗濯機とかこの世界にあるんだ」
「あるよ? 無いと困るじゃん」
もはや何も言うまい。
この異世界の謎設定&技術については、
目を瞑ると決めたじゃ無いか。
しかし洗濯機か。
宿にもあるのかな?
無料で使わせて貰えるなら良いけど、
別料金とか言われたら嫌だね。
じゃあ自分で手にいれる?
でもこれって手に入れたとして、
どこに置けば良いんだろうか?
……今までは宿に泊まる事ばかり考えてたけど、
もしかしてアパートとかマンション見たいに、
借りれるような部屋とかあったりしないかな?
そしたら気にしなくても済むし、
そもそも宿に泊まるより色々と安くつく気がする。
ちょっと聞いて見よう。
「――借りれるような部屋? あるよ」
あるんだ。
「宿に泊まるよりは安いかな?」
仮に宿より安いなら、借りる事を視野に入れよう。
朝食つきだから宿も便利と言えば便利だけど、
一泊が最安で8,500するから、
一ヶ月を三十日とすると、
8,500×30=255,000
ざっとこれぐらいは掛かる見通しだ。
ついでに洗濯機が借りれたとして、
それの使用料的なものが発生するととしたら、
更にプラスされる。
百万は大金だと思ったけど、
こうして見ると生活費だけに使うとしても、
今のままだと半年も持たない。
節約出来る所は節約して行かないと……。
うぐぐっ。
「何を悔しがっているのかは分からないけど、部屋を借りるのは宿に泊まるよりは安いと思うな」
表情については気にしないで欲しいな。
それよりも、宿よりは安いんだね。
これは借りれそうなら借りた方が良さそう。
道具やら装備も欲しいけど、
拠点も同じくらい重要だと思うんだ。
「住居区画の空き部屋は結構あると思う。……本当なら、一回一回泊まるよりは幾らか安くなる宿の先払いを勧めた方が良いんだろうけど」
「ん? 何で?」
「お姉さんも薄々察してると思うけど、ここの施設ってあんまり外からのお客さんが来ないの。だから、ね……」
言いたいが何となく分かった。
ただでさえ少ないお客から出る施設の利益を、
減らすような事を言っているに等しいから、
後ろめたさがあるんだ。
でも正直な所、
私以外の客を今のところこの施設で見た事が無いし、
クラスメイト達も魔石が少ないからか、
まだ本格的な利用はしていない。
つまりあんまり所じゃなく、
客がほぼゼロでも成り立ってるんだから、
どうにかなってるんじゃないの?
「まあそれはその通りなんだけどね。客が来ようが来まいが最低限の予算は出るようになってるから、ある程度はやってはいけるよ。……でも予算以上の事をしようと思ったら、自分で利益を出したりしないと行けなくなるから」
「なるほど。……ってか予算とかあるんだ」
「うん。この施設の入り口にお爺ちゃんいるでしょ?」
オジジか。
もしかしてあの人が予算を何とかしてるとか?
「そうだよ。あのお爺ちゃんが予算の都合つけてるの」
もしかしてが当たってしまった。
あの人がここのボスって事らしい。
でも確かに言われて見るとそれっぽくはある。
ところで、
どこから予算の都合をつけてるのかちょっと気になる。
たぶん聞いても言わないだろうけど、あの人。
正解を当てでもしたら教えてくれそうだけど、
当てるまでが面倒くさそう。
「あのお爺ちゃんは凄い性格悪くて私苦手なんだよね。意地悪って言うか、面倒くさい」
エマちゃんは口を尖らせてオジジの事をそう評した。
施設の住人からもこう言われるって、
私が思っている以上に捻じ曲がってる性根もってそうだね、あの人……。