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2層 4話目

「ふぅむ。これはこれは」


 どこで売れば良いのか分からないので、

 ひとまず指輪をオジジに見せた所、

 何やら意味深な表情をされた。


 ……これは期待しても良い系なのかな?


「凄い指輪なんですか?」

「――凄いとはどういう意味での凄いをお考えで? 価値と言うのは人それぞれです。そこらへんにある何の変哲も無いようなただの石であっても、人によっては値万金出しても惜しくないと思われるかも知れません」


 この人は何と言うか相変わらず、

 人を食ったような物言いをする。

 この人の言う言葉に意味を求めたら駄目だ。


「ははあ、確かにそれもそうですね。ところで、どこで買い取ってくれますかね? 案内版を見ると、魔道具屋とか呪道具屋とかそれっぽい名前のお店はあるんですけど、どこが良いのか分からないので……」


 まあ当人の言動がアレだとしても、

 とにもかくにもオジジは入り口の受付に居る、

 いかにもコンシェルジュ的な人物でもある。

 いくらこちらを茶化そうが、

 聞けばどこで売ったら良いかくらいは、

 さすがに教えてくれるハズだ。

 元々はそれが目的で見せた側面も強い。


 これでもしも教えてくれなかったら、

 職務放棄すんなって詰め寄るだけだ。

 仮に詰め寄っても駄目だったら、自ら一軒一軒訪ね歩くしか無いけど……いやもしかして、最初からそうした方が良かったかな?


 と、こんな風に私がもにょもにょ考えていると、


「……これなら、私がここで買い取っても宜しいですが」


 ちょっと予想の斜め上の返答がオジジの口から出た。


 この人本気で言ってるのかな?

 そもそもあーた魔石しか買い取らないんじゃなかったの?


「基本はそうですが、私だって個人的に欲しいなと思うものを見れば、こうしてお取引を持ちかける事もございますよ?」

「……個人的に?」


 何だろうお金の匂いがする。


「別にこれに特別な価値を見出したわけでは無いですよ?」

「本当に?」

「ウソを言ってどうするのですか」

「じゃあ何で欲しいんですか?」

「ですから個人的に」


 個人的でゴリ押しするつもりか。

 そういう風にされると、どうにも理由が知りたくなってくる。

 少しつっついて見よう。

 なーに失敗しても痛くも痒くも無い。


「なるほどそういう言い方をしますか。……特別な価値を見出したわけでは無いと言うのは、元々特別な価値があるから今更見出すまでも無いって事ですかね」

「……おやおや? はっはっはっ一本取られましたな。――はい、その通りでございます」


 うわあ当たっちゃった。

 オジジの言葉はやっぱり鵜呑みにしない方が良いな。

 悪い人では無いんだけれど、

 この人はどうにもいやらしい部分がある。

 ウソも真実も両方わざと言わない見たいな感じって言うか。

 ちょくちょくミスリードしてくるんだよなあ。


「いやー参りましたな」


 参ったと言う割りには、

 そこそこ楽しそうな表情をしている。

 そりゃあ本人は色々と言葉遊び出来て、

 楽しめたのかも知れないけど、

 付き合わされる人の気持ちを考えてね?


「バレてしまっては仕方がない。納得して頂く為にも、説明するしかありませんね」


 何がバレてしまっては仕方が無いだよ。

 ご丁寧に説明してくれるなんて、

 本当はバレたかったんじゃないの?

 まあ説明は聞くけどさ。


「……この指輪を我々は『(うろ)の指輪』と呼んでおります」


 虚?


「虚の意味はお分かりでしょうか」

「中に何も無いって意味だったような」

「ええ、その意味で間違いはございません。そして言葉通りに、この指輪は虚なのです。中に何も無い。つまり効果を後付け(・・・)出来ます」


 効果を後付け?

 そう言えばこの錫杖も似たような……。


 私はふと錫杖を見る。

 これの遊環も確か効果が後付け出来たハズだ。

 同じようなものなのかな?


「おや、面白い杖をお持ちですね。ボス相手(・・・・)にクリアでも認めさせました(・・・・・・・)か?」


 うん?

 何でクリア特典だって分かったの?


「単純な事です。あなた様はまだ迷宮に来てから日が経って居ないハズ。であれば浅い階層をうろついているとお見受けします」

「それはその通りですが……」

「その錫杖は遊環全てに効果を後付け出来るのではないですか? 

 であれば、遊環の一つ一つがこの指輪の上位互換の逸品です。

 ……私は本職の魔道具屋では無いので、見立てが間違っている可能性もありますが。


 まあともかく、その手の汎用性が高すぎるアイテムは、浅い階層でドロップされないとは断言出来ませんが、可能性は非常に低いのです。

 深部であってもそう簡単には出てきません。

 であれば、ボスのクリア報酬と捉えるのが普通です」


 お、おおう。

 これは反論のしようが無い。


「まあ確かにこの錫杖はクリア報酬ですし、ボスから直接効果を後付け出来るって説明はされましたね。――でも言っときますけど、これは売りませんしあげませんよ?」


 手に入った経緯も経緯だし、

 折角の彼女の好意でもある品なので、

 いまの所は錫杖を手放す気は無い。


「さすがにそれを欲しいとは言いませんよ。

 もしもそれを売るなら、魔道具屋なり呪道具屋なり、あるいは魔武器店等に直接お願い致します。

 良い値で売れると思いますので、売った方が良いかも知れませんよ?

 ……さて、少し話しが脱線しましたね。

 それでは話を指輪に戻しますが、時に私がこれを欲しがったのは、この指輪にこの施設への扉を出す機能をつけたいが為です」


 うん?

 つまり以前に私が貰ったような指輪を、

 新しく作る為って事かな?


「ええ、はい。大放出してしまったので」


 そういえば全員に渡ってたっぽいしね。

 何百個何千個と在庫があるワケじゃないって事か。


「なので新たに在庫を少し増やそうかと思いまして。

 まあ時間は掛かりますが調達出来ない事は無いので、今回お売り頂けなくても大丈夫ではありますが――例え一つであっても早めに手に入るならそれに越した事はありません。

 個人的な理由と言うのはこの事です。

 そして価値があるのも認めましょう」


 オジジの言う理由には変な点は見当たらないし、

 含みも見あたらない。

 イザ聞いてみれば納得の出来る理由だ。

 価値があると認めてくれたようだし、

 これなら売っても良いかな……?


「お売り頂けますか?」

「まあ何も効果ついてないなら、どっちみち使い所も今のところ無いので。いくらぐらいで引き取って貰えますか?」

「そうですねえ、百万くらいで」


 ブフォオオ。


「バレなければ一桁減らした金額で買い取るつもりだったんですがね。バレてしまっては仕方が無い。……おや、いきなり噴出してどうしたのですか?」

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