2層 3話目
楯子ちゃん、
何気に私やエキドナちゃんの初期値より、
ステータス高いんだけど……。
私は成長水準以外の全てが軒並み1以下だったし、
エキドナちゃんに至っては、
1を超えてたステータスが一つも無かったよね。
なのに、楯子ちゃんは1.5超えが四つもある。
「見た目に反して、なんて恐ろしい子っ……」
ポテンシャルの高さが伺いしれる。
そんな数値である。
しかもその上この子は、
「……ステータスだけじゃなくて、何か変わってるスキルもあるし」
そう、スキルも何やら気になるようなのを持っているようなのだ。
魔術行使は魔術が使えるようなるスキルだってのは、
聞いていたから概要は知っている。
けれど、一方で神兵って言うのが謎だ。
私は興味本位もあって、
すぐにスキルの説明欄も見る事にした。
もちろん魔術行使の方も現物は初めてなので、
それの詳細を確認しておくのも忘れない。
――――――――――
魔術行使:魔術を使えるようになる。ステータスの魔力操作、魔力許容などが関係する他、スキル値やステータスには無い項目の素養も適性値として扱われ、行使難度に影響を与える。
神兵:敵と認識した相手からの肉体的、精神的干渉を一定時間、完全に断絶する。持続時間はスキル値に影響を受ける。持続時間を使いきると再使用には準備時間が必要。準備時間は約10分。
――――――――――
スキルの効果の内容については、
以上の記載が全てだった。
まずは魔術行使。
これは、ほぼ聞いていた通りの内容で間違い無かった。
おおざっぱに言うと、
①、このスキルがあれば魔術を使えるようになる。
②、魔力操作や魔力許容が関係する。
③、適性として上記以外の素養も必要となり、行使に影響を与えている。
つまりは向き不向きもある。
っていう、まあこんな感じで、
使えたからと言って、
ステータスがあったとしても、
人それぞれな側面があるようで、
自由自在に使えるワケでは無いって感じである。
何と言うか、向き不向きがあるっていうなら、
いっその事不向き判定を受ける人には、
最初からスキルが取得出来ないようにしてくれれば良いのに。
スキルを手にしてからじゃないと、
向き不向きが分からないって、
とんだギャンブルだよ。
「うぬぅ。……もしもスキルが手に入ったら、私には魔術の適性はあるのかなぁ?」
ふとそんな言葉が漏れた。
魔術が使えれば私自身の動きにも幅が出るし、
戦力にもなれるから、
もしも使えるようになるのであれば、
出来るなら適性があっていて欲しい所だけれど……。
「まあでも、考えた所でどうせ今はスキル持ってないし、取らぬ狸のなんとやらだけどねー」
どうしようも無い事だとしても、
ついつい何かを考えてしまうのは私の悪い癖かも知れない。
思考を切り替えよう。
次に神兵って言うスキルについて。
これは意外と効果が凄い。
完全遮断って……これつまり無敵状態って事じゃない?
もっとも制限時間があったり、
使ってしまうと準備時間が必要だったりで、
万能ってわけじゃないようだけど。
ところでこのスキル、
順次時間はスキル値から影響を受けるそうだけど、
現状でどれぐらいの時間使えるんだろうか?
基本的に使い所は本人に任せるつもりだけど、
場合によっては指示を出して使って貰う事もあるかも知れないから、
知っておくのは大事な事だと思う。
なので、本人に直接聞いてみた。
「んー? しんぺー、どれぐらい、つかえるか?」
読みは神兵なんだ。
「うん」
「んーとね、いーち、にーい……」
楯子ちゃんは数字を数える時、
指を追って数えている。
見た目通りで言えば見た目通りなんだけど、
その行動は随分と愛らしい。
「さーん、くらい?」
三秒くらいって事かな?
いや、妙に間延びした数え方してたから、
実際五秒くらいか。
これを長いと見るか、短いと見るか……。
一瞬のイザと言う時にだけ使う切り札とするなら、
長めに思えるけど、
恒常的に使うバリアみたいに捉えると、
短すぎる時間だ。
「……だめなちからなの?」
私が唸っていると、
楯子ちゃんが不安げに顔を覗きこんできた。
私が悩んだ素振りを見せたせいで、
自分のスキルが駄目なんじゃないかって、
そう思っているらしい。
普通に優秀なスキルなので、
駄目なワケが無い。
変に勘違いさせちゃったね……。
「別に駄目じゃないよー良い子良い子」
泣きそうな顔をされたので、
よしよしと頭を撫でてあげる。
これで泣かないでくれるかな……?
「ほんとに?」
「ホントホント」
うーん。
まだ若干目が潤んでるなあ。
最後の一押しが必要だけど……そうだ、エキドナちゃん呼んで見ようか。
「うわっ、へびさん!」
「ぎぅっ!?」
エキドナちゃんを呼ぶと、
楯子ちゃんは嬉しそうにその頭に乗っかった。
いきなり呼び出し食らった上に、
謎の小人に頭に乗っかられたエキドナちゃんは、
驚いて固まってるけど……ごめんね我慢して。
「ぎぅ……」
「きゃははは」
二人とも、仲良くしてね?
■□■□
意識をクラスメイト達の方に向けると、
未だに争っているのが見えた。
いつまでも飽きないやつ等である。
もっとも、私はあれに付き合うつもりは無いので、
粛々と自らがやるべき事をこなす事にした。
早速エキドナちゃんと楯子ちゃんには、
迷宮内を探索してレベル上げと魔石回収を頼む事にして、
既に行動を開始させた。
楯子ちゃんを預けられて、
微妙にエキドナちゃんが困ったような顔してたけど、
まあ別に嫌そうな顔してたワケじゃないから、
大丈夫だと思う。
そして一方の私だけれど、
私は一度施設に入る事にした。
この錫杖の遊環にどうやったら効果をつけられるのかとか、
手に入れた指輪がどんな指輪なのかとか、
色々と鑑定なりして貰わないと行けないからね。
錫杖は手放す気が今の所無いけど、
指輪は売れそうなら売っても良いかも知れない。
お金稼がないと行けないからね……。
私はいそいそとクラスメイト達の死角に入ると、
扉を出して、中に入ろうとして――
「――僕もついていって良いかな?」
――突然、ぬっと茶メンが現れた。
「ひゃっ」
思わず私は尻もちをつく。
いきなり過ぎてビックリしたんだけど……。
「不思議そうな顔してるね。周りにバレないように動いたのに、どうしてそれに僕が気づいたかって顔だ」
「その通りだよ。何で分かったんだよ!」
「簡単な事だよ。僕はずっと君の事を見ているからさ」
凄く背筋がぞわっとした。
茶メンは爽やかな笑顔で言い切ったけれど、
どんなに好印象に見せようとしても、
要約するとこれってストーカー宣言じゃ……。
「やめてくれる? 凄い嫌な気持ちになるんだけど」
こういうのは変に期待を持たせると、
後々厄介な事になりそうなので、
私はハッキリと拒絶を宣言してから、
「それじゃあね」
二の句を告げさせる前に早急に立ち上がり、
そそくさと施設の中に入る事にした。
「――待って! べ、別に変な意味は無いんだって! ただ君が心配で――」
そんな茶メンの言葉を最後まで聞く事は無く、
私はさっさと扉を閉めてしまう。
……まったく、吐き気がするような言動は謹んで貰いたい。
茶メン(倉橋)「見てるだけだと歯がゆいので話しかけたらドン引きされた」