2層 1話目
今回から二層目に突入です。
結構長い階段だなと思いつつ、
降りていく事数十分。
辿り着いたそこは、
大の男が一人歩くのが精一杯のような小道がある以外、
目に映るのは鬱蒼と密集した木々ばかりの所で、
空を仰げば青い空と白い雲が映る場所だった。
先ほどまでの洞窟のような所とは、
あまりの様相が違う事に驚きを隠せずに、
私を含むクラスメイト達全員がしばらくの間言葉を失う。
階段を降りたと言うことは、
迷宮を下に進んでいたと言う事になる。
それなのに、なんで空があるのかとか、
日の光があるのかとか、
それはあまりに不可思議な光景であるのだ。
「……眩しい」
それが、最初にようやく出てきた言葉だった。
■□■□
「まさかあんな所に出るとは」
「どうなっているんだよ。迷宮だよな? 何で下に降りてるのに外に出てんの? 外の世界とかあるって事で良いのか?」
私達が下に降りたのは、
ひとまず二層目の様子を見に行こうと言う話になったからだ。
しかし、まさか森林に出くわすとは思いもしていなかったので、
軽い探索すらする事無く一旦上の一層目に戻る事にもなり、
現在クラスメイト達総出で会議という状況に……。
「多分あれも迷宮内って事なんだとは思うけどな……。二層目はそういうエリアなんだと思う。日の光があるのがおかしいとか、そういう常識は異世界で迷宮な時点で捨て去るべき」
誰かが言ったその言葉は、
傍から見れば突飛には思えるモノだったけれど、
それでも私もそれが正しいような気がした。
もちろんそう思うからには理由があって、
それは人型スライムとした会話である。
彼女からは迷宮から出れたとか外の世界があるとか、
そういう話を一切聞かなかったよね。
少なくとも彼女は一層目より深部に行った事があるだろうに、
外の世界についての言及が日記を含めてまるで無かったんだ。
だから、ここも迷宮の一部であると考えた方が自然だと思う。
まあクラスメイト達は彼女の存在を知らないから、
これを根拠に出来ないけど……。
正直話を円滑に進める為に、
情報を提供出来たらなとは思うけど、
それは出来ない事情があるので、却下と言うね……。
うぐぐぐぐっ。
「外の世界って可能性もあるんじゃねーの? そもそもここが迷宮だって誰が決め付けたよ。俺らが勝手にそう決めつけているだけじゃねーか」
そう言いたい気持ちも分かるけれど、
でもそれは多分正しくないんだよ。
まあ言えないから注意もしないけど……。
さてそれから、
話は延々と平行線が続いた。
ここは迷宮だ派と、外の世界だ派で分かれて、
議論とも言えない言葉の殴り合いが止まらなかった。
「ああっもう駄目だ! こんなに意見が合わないんじゃこれから先が思いやられるぜ」
「合わせる気ってのが感じられねぇ。別々に動いた方がスッキリしそうだな、これじゃあよ!」
「争え、もっと争え……って冗談言ってる場合じゃねぇな。でも全然収集つかないし、確かにここで各々好きに動くってのもアリかも知れねーな」
はあ……。
正直こんなに長く喧嘩するくらいなら、
まずは探索をして実際にどっちなのかを確かめれば良いだけでは……?
自分の目で見て、鼻で感じて、指で触れれば、
どんな結論だとしても納得はするでしょうに。
と言う風に私は途中で思いはしたものの、
よーくクラスメイト達の対立構造を見てみると、
ここは外だ派は、DQNを筆頭とした離反する気のありそうな連中で、
ここは迷宮だ派は、それ以外の連中だった。
何となく分かった。
こいつらは二層目がどういう所なのか、
恐らくどうでも良いのだ。
まあ多少は二層目について気にはしているのだろうけど、
それは優先順位が低く設定されていると言うか。
……しかしDQNよ、確か君は床ペロしてたんだろ?
そんな醜態を晒しておきながら、よくもまあ……。
と言うか、DQNに限らずクラスメイト達全員に言える事だけど、
緊張感とか慎重さが欠けているんだよなあ……。
こいつらって余程の事――例えば誰かが死ぬとか、
それぐらいの衝撃が無いと、何も変わらないんじゃないかな?
いや、そうなる前にゴリが居るか。
ゴリはこういう時に気を引き締めてくれる存在だと思う。
少し前までは色々と疲れてたようだけど、
今は説教かますくらいには調子が元に戻ったとの事だから、
それならこの場を――。
「……はあ、もう俺の手に余る」
――と思ったのに、
予想に反してゴリは何かため息を吐いている。
ええ……。
元に戻ったワケじゃないの?
何でだろう。
今の呟きと雰囲気的から推察するには、
DQNに説教かましたは良いけど、
現状を見る限りではあまり効果を発揮していないので、
諦めモードに入ってる的な……?
うーん。
あくまで一時的な復旧でしか無かったと言う事か。
本人の心労やいかに……。
ともかく、何だかゴリは使い物にならない状態が続いているようなので、
私はゴリに向けた期待を諦める事にし、
次にこの場を納められそうな人物は誰か居ないのかと探す事にした。
「……ん?」
委員長と目が合う。
しかしこいつは役に立たないと判明しているので、
どうでも良い。
本人もそれは理解しているのか、
端の方で大人しくしていたようだけれど、
私と目があった事で、何故かこちらに向かって来る。
「どうしたんだ、俺の事を見て」
近づいてくるな眼鏡。
別にお前に話があったわけじゃない。
しっしっ、と手で払う仕草であっち行けと伝えると、
面白くなさそうな面をしながらもぶつぶつと、
「……これが現実のツンデレと言うものなのか? 普通に傷つくのだが」
そんな事を呟いてやがった。
ツンデレじゃねーよ。
馬鹿じゃねーの。
「しかしこの後にいつかデレがあると思えば」
それは一生無いから安心して、どうぞ。
気持ち悪い事を言い出した委員長が離れて行ったのを確認してから、
私はこのクラスを纏められそうな人間が居ない事に気づく。
もうこれでは、どうしようも無い。
いつかは悲劇が起きるかも知れないけど、
その前に本人達が気づいてくれる事を願うしか無い……。
私は問題を先送りにしている事には気づきながらも、
仲違うクラスメイト達の事は放って置く事にして、
ひとまずステータスを確認してみる事にした。
彼女の言ってた役に立つであろうスキルが、
もしかしたら今ごろ生えているかも知れないから、
確認は大事なのだ。
――――――――――
氏名:小桜 勇気
性別:女 レベル:0.6
次のレベルまで:22/640
動体視力2.05
基礎筋力1.88
身体操作1.55
持続体力1.62
魔力操作5.99
魔力許容6.28
成長水準3.65
固有スキル 召喚士5.33
通常スキル ????0.03
――――――――――
何かレベルが一気に上がってますが……。
うーん、これもしかして、
事情はどうあれ第一層をクリアした事で、
彼女を――つまりボスを、倒したって判定になったのかなあ。
彼女と出会う前にも後にも、
エキドナちゃんを放牧して魔物倒させたりしてないし、
もちろん私が倒したワケも無いし、
その上でレベルが一気に上がる程の経験値を得たとすれば、
それしか考えれない。
あの人から倒したから貰えた経験値って考えると、
正直複雑な気分だけど。
「まあ気にしても仕方ないけどさ……。って、あれ?」
ふと、?がついてるスキルが増えているのが見えた。
固有じゃなくて新たに通常って言う枠で生えてきたっぽいこれが、
もしかして彼女の言っていた、きっと役に立つスキルなんだろうか?
説明欄を見てみようか。
【スキル値が低すぎます。一定値を超えるまで、名称及び効果を記載出来ません】
見れませんでした。
確かに?の時点でそんな気はしてたよ。
まあこれは、そのうち読めるようになるまで待つしか無いか……。
焦ってどうにかなるものでも無いかも知れないし。
……そう言えばスキルと言えば、
スキル値ってレベルが上がったら上がるのかな?
動体視力とかのステータスは間違い無くそうだけど、
スキル値は少し怪しい気がする。
生えてくるって言葉からも分かるけれど、
そりゃあレベルも関係はあるんだろうけど、
何かそれ以外の別の素養でも上がるような気が……。
うーん。
まあ分からない事を考えても、
今はどうにもならないよねえ。
「んー……ん?」
スキルについてあーだこーだ悩みながらに、
私は召喚士のスキル値が上がっている事に気づいた。
今のスキル値が5.33で、
初期のスキル値が2.00だから、
最初の頃と比べて2以上増えている。
確かスキル値が2以上増える毎に、召喚獣が一体増やせたハズなので――
――どうやら、召喚獣を一体増やせるっぽい。
これは仲間が増える予感……。