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35話目

 教えられた通りに、

 横道にも脇道にもそれず、道なりに進み続けると、

 石畳で出来た広めの間口の階段と、

 そこで集まって何か話をしているクラスメイト達の姿が見えた。


 ようやく合流だ……。


 いやまあ実際は、

 そこまで長い間離れていたワケでは無いけど、

 ようやくって言葉が出るくらいには体感時間が長めだったから、

 つい。


「……ん?」


 ところで近づくにつれ、

 何やらクラスメイト達の様子がおかしい事に私は気づく。

 鎮痛な面持ちの者が勢ぞろいしていたのだ。


 このお通夜見たいな雰囲気に、

 思わず一瞬クラスメイトの訃報が私の脳裏をよぎった。


 降りた先に居たという人型スライムは、

 彼女が魔術で作り上げた劣化版の自分自身って話だけど、

 ボスと言うだけあって、

 彼女自身が既にそれなりに強い存在だったのは間違い無いのだ。


 二段の素の強さがおかしいせいで、少し感覚が少し麻痺しているけど、

 壁にヒビが入る程に叩きつけられても、喋る余裕があるくらいの人だったのだから。


 つまり、そんな彼女のもう一人の自分自身だから、

 劣化していたとしても、弱すぎるという事は無いとするのが普通だ。


 正直クラスメイトの誰かが屠られていても、

 特に最初に特攻かましたとか言うDQN辺りがそうなっていても、

 何も不思議は無いワケで……。

 

 妙に不穏な結果や結末を考えながらに、

 徐々に私達がクラスメイト達の近くに行くと、

 向こうも私に気づいたようで、視線が合った。

 そしてその瞬間。

 どこかホッとしたような、

 弛緩させた表情を見せてくるクラスメイト達が続出。


「……何だこいつら気持ちわりぃな」


 二段がそんな事を言う。

 確かにそれは私も思った。


「何か大変な事でも起きてたりして……」

「それは無いだろ。全員揃ってるし、元々の目的の小林も無事そうだ。あそこに居る」


 二段が指を指した先に、

 DQNの後ろ姿があった。

 少し服が薄汚れてはいたけれど、

 大きそうな怪我はしてない感じである。


 どうやら私の心配は杞憂だったらしいね。


 ……まあ別に、クラスメイト達がどうなろうと、

 ぶっちゃけ知った事では無いけどね。

 ただ、それでも死んでしまったなんてなったら、

 どこか気持ちは落ちるものだから、

 それを考えれば良かった良かった。



 ――そう言えば。

 どうでも良い事だけれど、

 クラスメイト達のこの緩んだ顔、

 何だか前にも似たような事があったような……?


 気のせいか?


「どこ行ってたんだよ。心配してたんだぞ」

「突然居なくなるし、ボス戦も気が気じゃなかったぞ」

「小林は無事だったけどよ、正直小林よりお前のが大事だよ」


 私が声の届く範囲まで来ると、

 クラスメイト達から次々を私は声を掛けられる。


 どうやら私の事を心配して、

 意気消沈したような面持ちだったらしい。

 確かに思えばいきなり消えたようなものだった……。

 心配かけさせて、悪い事しちゃったかな?

 前にも似たような事がなんて、

 良くわからないけどそんな不穏を感じたら失礼――


 ――って、いや待て。

 何で私がこいつらに悪いとか失礼って思わなきゃいけないんだよ。

 場の空気に流されかけたけど、

 おかしいでしょ。

 危ない危ない。


 その場の雰囲気に呑まれそうなった思考を打ち消す為に、

 そんな風に私が首を横に振っていると、

 クラスメイト達の視線が隣の二段へと向いた。


「鉄も一緒だったのか? 二人きり……?」

「お、おい、変な事してたんじゃねーだろうな!」

「鉄むっつりっぽいもんな……」

「おい誰か鉄を殺せ。無理やり力ずくでヤッたに違い無い」

「逆にこっちが殺されるだろ……」

「スキル使えよスキル」

「くそっ、鉄なら安全だと思ったのに」


 私の思い過ごしなら良いんだけど、

 何かこいつらって考えが地味に下半身に直結してる気がするんだ。


 魔物が跋扈する迷宮内で情事にふけるなんて、

 そんな馬鹿がいるわけないっていう常識が抜けてる。


 そもそも、前まで持ってなかった錫杖を私が手にしているのだから、

 何かがあったんだなって考えるのが普通では無いだろうか。


 なのにそういった事は二の次で、

 最初に気になるのがヤラれたかどうかとか、

 こいつら色々と大丈夫なのか……?


 標的にされて絡まれはじめた二段も、

 眉根を潜ませて何だこいつらって顔してる。

 まあ助け船出したら変に周りの勘違いを促進させそうだから、

 頑張って俺の代わりに誤解を解いててくれ……。


「……ん?」


 二段を放置する事を決め込んでから、

 ふと見えた特攻のDQNが、

 随分と面白くなさそうな表情をしているのが分かった。


 はてさて、

 助力されるか何かして、

 面白くねぇって感じなのかな?

 普段からあんまり愛想が良いヤツでは無かったと思うけど、

 何だか少し気になるねぇ……。


 そう言えばこいつのお仲間が離反する気概も見せていたし、

 ひと悶着あるのでは無いかと思わないでも無い。


 だから私は取りあえず、

 情緒不安定になってなさそうなクラスメイトを捕まえると、

 私がはぐれた後の話を聞いてみる事にする。

 すると、


「……人型スライム? ああ、一応倒したって事になる……とは思うんだ」

「一応?」


 うん?

 どういうこと?


「順を追って説明すると、俺らが来た段階で小林は床に転がってた。あいつスキルには自信があったようだけど、何が駄目だったのか倒される寸前だったな。……スキルは強そうなのになあ」


 なんとまあ。

 クラスメイトが来るまでの間に勝てなかったからじゃなくて、

 負けて床ペロしてたから、面白くなさそうな面してたワケか。


 怪我をしてなさそうに見えるのは、

 誰かがスキルで治したからなのか、

 あるいはちょっとボコられた段階で倒れて死んだふりでもしてたから、

 それほど酷くならなかったのかな。


 ……うーん。

 まあどっちにしろ、

 本人の名誉の為にも、

 これ以上掘り下げるのはやめておいた方が良さそうだね……。


 相手より強いから勝つとは限らない的な事を二段は言ってたけど、

 まさか本当にその通りになるとは……。


「で、ヤベェ危ないってなって、俺らも総出で参戦したワケだけど。……攻撃があんまり通じなくて大変だった。何つーか効いてなさそうっていうか」


 そりゃまあ、そうだろうね。

 壁にヒビが入るほど二段に叩きつけられても、

 喋る余裕があるようなのが本体なので、

 分体がある程度劣化している存在だとしても、

 その手の特性の強みはあったんじゃないかと。


 ……そう言えば、人型スライムの事はクラスメイト達に伝えた方が良いのかな?


 いや、やめた方が良いか。


 彼女の話をするのであれば、一連の流れを説明しなきゃ駄目になる。

 そうすると二段と彼女の戦いについても話が及ぶのであって、

 二段はあまり良い気はしないだろう。

 後悔していることを掘り起こす事になってしまう。


 何のかんの言って、

 用心棒見たいな事してくれたわけだし、

 そんなあいつを追い込むような真似は出来ないや。


 私はとりあえず黙っている事に決め、

 話の続きを促した。


「うん。それで?」

「それでさ、ちょっと時間掛かるんじゃないかなこれはーと思ってたんだけど――戦ってる途中でいきなりスライムが溶けた」


 クラスメイトはそう言いながら、

 頭の上に疑問符を乗っける。

 何でそうなったのか真剣に分からない見たいな表情である。


 確かに事情を知らなければ、

 それは突然に思える。

 しかし私はその理由に見当がつくので、

 ああなるほど、と心中で納得した。

 きっと彼女が消滅してしまったから、

 彼女の魔術で構成されていた劣化人型スライムも、

 その時に一緒に朽ちたんだ。

 それ以外は考えられないので、間違ってはいないと思う。


「……そっか」

「おう。んで後は……そうだ。そうそう、ボスの間に扉が二つあるって話があっただろ? その二つの中をさっき全員で見てみたんだ」

「中に何かあったの?」

「片方が更に下に降りる為の階段で」

「もう片方は?」

「魔石が詰まった宝箱がひとつあるだけだった。蹴飛ばして倒せるようなスライムから出てくる感じの魔石が数百個くらい? ……これ多そうには見えるけどさ、独り占め出来るならまだしも、全員で割ったらかなり少なくなる。まぁまだ一層目だし、こんなもんかなって気もしないでも無いけど」


 何となく何でショボいのか分かる気がする。

 多分「適当にこういうの置いておけば、クリアした気分にさせられるでしょ」とか、

 彼女は考えてたんだと思う。

 偽者のボスと、偽者のクリア特典だけれど、

 何も無しでスルーさせるよりマシだと考えたに違い無い。


 分体とお宝、それが片方だけしか無いとなれば、

 アレがボスなのかって疑うようなのが出て来ないとも限らないし、

 そもそもがボス狙い見たいなのが居れば、

 何も置かないと探しに来られそうだし。


 まあ何にしろ、

 今となっては聞く事すら出来ない。

 もう会えない人だからね……。


「クリアボーナスでアイテムとかもあったら良かったんだけどなあ」


 それ、私が貰いました。

 何か揉め事の種になりそうだから、

 黙っておくけど……。

 うーむ。

 ボロが出る前に話を少し変えようか。


「ところで、結局DQNとその仲間たちは別行動取る事になったの?」


 よしよし、上手い具合に話題転換出来たぞ。

 ついでに状況把握も出来て一石二鳥だ。


「それ実は今でも揉めてる。まあ俺も首は突っ込んで無いから詳しくは知らないけど、お前らが戻ってくるまでの間、ゴリが小林に説教かましてはいたぜ?」


 ゴリが?

 だいぶグロッキーだったと思ったけど、

 多少は回復したのかな。

 でもそれだと空中分解は回避した感じなのかね……。


 と言うか、DQNが面白くなさそうな面してたの、

 もしかして床ペロだけじゃなくて、

 ゴリに説教された事も関係してるのかね。


「ぶっちゃけどうなるかは分かんねーな。今はひとまずボス倒してクリアしたから皆落ち着いてるけど、やっぱどこかピリピリしてるし」


 いずれにせよ、遅かれ早かれか。

 いつまでも皆で手を取り合って協力しあって何てのは、

 ただの幻想でしか無いしね……。


「――で、お前は結局アレなのか? 鉄とヤッたの?」


 何で話が突然そこに戻るのか。

 マトモそうなモブを選んだのに、

 ブルー○スよお前もかって言いたくなってくる……。


 色々ありながらも第一層が終わったと言うのに、

 こんな調子では、これから先どうなるんだろう。


 変な事とか嫌な事が起きなければ良いのにっては思うけど、

 多分起きるんだろうなぁと、

 それを考えて、私は盛大にため息をついてしまった。

何とか一層目の終わりまで書けました。

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