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34話目

「って言うワケでして」

「ははぁ……。中々面白い見つけ方したのね。それにしても固有スキルが召喚士って珍しい」

「そうですかね」

「そうよ。少なくとも、私がここに来た時に一緒だった同級生達の中で、そんなスキルを持っている人は居なかったわ。凄いじゃない」


 説明を一通り終えると、

 なぜか私のスキルが褒められた。

 もしかして召喚士ってレアスキルなのかな?

 喜んで良いのかな?


「一時的な使役とかならまだしも召喚って凄いわよ。半永続的に従属させる事が出来て、自由に出し入れ出来るってどれだけ凄いか分からない?」


 そ、そこまで?


「そうよ。今はまだ一匹だけだそうだけど、召喚出来る魔物の特性を考えて増やして行けば、あらゆる状況に対処出来るわ」


 それは確かに、

 言われて見ればそうだよね。


 どうやら私のスキルはレアのようだ……。

 嬉しい。

 純粋に、素直に嬉しい。


「……何だか貴方見てると、心配になって来てしまうわ」

「別に心配される程の事は何もないかと……」

「自覚無いの? 貴方って大事な所が抜けてそうなタイプに見えるけど。……後ろの彼も色々性格に難がありそうだし、ほんとう大丈夫かしら」


 自覚無いのって……。

 そんなに抜けてるかな?

 なるべく隙とかは無いようにしてるつもりなんだけど、

 自己評価と他者評価は一致しないものなのかも知れない。


 一応念のために、

 今言われた事は頭の隅っ子にでも留めておこう。



 ちなみに性格に難がありそうと評された二段は、

 私達から少し離れた所で、腕を組んで目を瞑っている。

 会話に参加し辛いのは分かるけれど、

 それはそれでどうなんだろうか。


「しょうがないわね。ここまで与えるつもりは無かったんだけれど、まあ最後だし良いか。――ちょっと我慢してよ?」


 人型スライムの彼女は私に近づくと、

 その指先でそっとおでこに触れてきた。

 少しだけビリッとするような、

 軽い電流が走った見たいな痛みが頭の中を駆け巡る。


 いつつ……何したの?


「後で自分のステータスを見てみると良いわ。さて、そろそろお開きにしましょうか。特典もあげたし、いつまでもお話してるわけにも行かないでしょう」


 ちょっと待って、

 だから何したの?


 私は大慌てで自らのステータスを確認して見た。

 でも、特に変わっている点が見当たらないよ……。


「もしかしてステータス見てる? だから後でって言ったでしょ。すぐには生えて来ないわ」


 もしかして何かスキルが生えるような事をしてくれたのかな?

 むむっ。

 変なのじゃなきゃ良いけど……。


「不安にならなくても大丈夫よ。多分あなたには丁度良いスキルだと思う。きっとちゃんと使えるわ」


 ふふ、と笑うと人型スライムの彼女は手招きをしてくる。

 本当にお話はもう終わりのようだ。

 術を解いて、来た道から戻れるようにしてくれるとの事だった。


 少しだけ名残惜しいけれど、

 確かにいつまでもいられない。


 私と二段はいそいそと帰る準備をし始めて――


 ――ふと、机の下の階段の先にあった石の事を思い出した。


 そう言えばこの石持って来ちゃってたけど、この人のだよね?


 この人とは最初の出会いがアレだったけれど、

 後半は本当に色々教えてくれた良い人だったし、

 それを考えると何だか罪悪感が出てきて……、


「あのー」

「……どうしたの?」

「実はこれ、あの部屋の中の隠し扉にあった梯子の先にあったんですけど、お宝なのかなって思って持って来ちゃって」


 自己申告する事にした。

 もんもんとするより、暴露する方がずっと良いよ……。

 終始一貫して悪い魔物だったら、

 絶対自己申告しなかったけど、

 この人は違うもの。


「……何それ、私知らないわ」


 え?


「そもそも隠し扉なんてあそこには無いのだけれど」

「机の下に隠し扉があって、そこに梯子が掛かってて降りれるようになってたんですけど……」

「ありえないわ。私がここに巣食い始めた時にはそんなの無かったハズ……。あっ、そうか。ポップしたのかも知れないわ」

「ポップ?」

「出現するって意味よ。この迷宮では魔物は当然の事ながら、お宝とかのアイテムの類も湧くのよ」


 そんな現象があるんだ……。


「確かにあの部屋も迷宮の中を勝手に私が部屋にしただけだし、出来ても不思議は無いけれど……。でもいつの間に。はあ、約束が違うじゃない約束が。干渉は最低限って話だったじゃない。そうねえ、それは好きにして良いわよ」


 何か良く分からない事をぶつぶつ呟いていたけど、

 つまりは自分とは関係無く出現したお宝だから、

 気にしないで持って行って良いとの事だった。


 何も問題は無かったのだ。


 良かった。


 しかしお宝も湧くって、何だかこの迷宮生きてる見たいだね……。



■□■□



 さて、私と二段は人型スライムに見送られながら、

 入り口となっていたあの壁の所まで戻ってきていた。


「うわ、本当に壁が無くなってる」


 人型スライムの彼女が術を解いてくれたお陰で、

 一方通行の通り抜け出来るあの壁は既に姿を消していて、

 入る前の通路と繋がっている。


「……それじゃあね」


 そう言って彼女は微笑む。

 どこか寂しげに映る表情で、

 けれど、

 その時だった。


「最後に一つ聞きたい事がある」


 今まで黙っていたままだった二段が口を開いた。

 視線はこちらにあわせず、

 相も変わらずバツが悪そうな表情をしながらも、

 どうしても気になっていた事があるようだった。


「実は俺らの同級生が人型スライムを発見したらしくて、色々あってそいつの所に向かってる最中だったんだ。あんたも元は人間とは言え、今は人型のスライムなんだよな? 何か関係あるのか?」


 その言葉で私はハッとして思い出す。


 そう言えば元々はDQN小林が人型スライムを見つけて、

 それがボスなんじゃないかって話で、

 一人で倒すのがなんちゃらとか言い出したとかで、

 それを助けに行くって流れだったね。


 ごめん忘れてた。


「それは私ね。この階層にいる人型のスライムはそもそも私しかいないわ」


 まさかの同一人物との回答が来る。

 でもそれなら、

 ここに彼女が居るって事がおかしいような気がするんだけど……。


「……どういう事だ? あんたは小林を殺したか、もしくは逃げるかしてきたって事か?」


 二段もさすがに私と同じ事を思ったらしい。

 疑問符の乗った口調で問いかけている。

 すると、人型スライムの彼女は嫌な顔一つせず、

 その疑問に丁寧に答えてくれた。


「どちらも正解じゃないわ。それは私の三つ目の魔術【不完全なもう一人】によるものよ。この魔術は劣化した自分の複製を作れるの。それで、次の階層に続く階段がある場所にそいつをポンと置いてただけ。まかり間違ってもクリアさせたくないって思ってたから」

「なるほどな。……だがその言い方だと、複製したあんたを倒してもクリアにならないようだが、それで次の階にいけるのか?」

「いけるわ。クリア判定を受けないと次の階やエリアに進めないのは、その必要性があるような所だけよ。この迷宮はゲームの中みたいだけど、ゲームでは無く現実なのだから、クリアしなくても次に進める階も当然あるの。ただ、そういう所でもクリア出来るならクリアした方が良いのも事実だけどね。私がこの子にあげた錫杖見たいなクリア特典が無いとも限らないわ」


 クリアしなくても先に進めるけれど、

 出来るならクリアした方が良いらしい。


 まあ普通に考えても、

 そりゃあそうだよね。


 でもクリアって何を基準にして決めているんだろう?


「何がクリアの基準かはそれぞれ違うでしょうね。でも別にクリアしなくても先に進めるのだから、出来なさそうだったら諦めるのも手だし、そもそもスルーするって手もあるし」


 クリア基準がそれぞれに違うとか果てしなく面倒くさそう。

 倒してハイ終了じゃ駄目なんだ。

 そういうのでOKなのもいるんだろうけどさ。


 まあでもクリアしなくても次に進めるなら、

 今の所そこまで深く考える必要も無いかな……。


 考えなきゃいけないとしたら、

 クリアする必要性があるとか言う、

 そういう所にぶち当たった時だろうし。


 ところで、この階のクリア基準って何だったんだろう。

 光輝とか言う男を助けられそうなら助けるって言う、

 確約すら無い約束のお礼っては言ってたけど、

 本当にそれだけかな?


 ちょっと緩すぎませんかね……。


「次の階への階段がある場所は、ここを右に真っ直ぐ行った所よ。途中の脇道とか小道にそれたら駄目だからね。……その、約束忘れないでね?」

「はい。光輝さんですよね?」

「ええ。出来る範囲で良いから。……助かるわ。魔物になってしまった私の頼み事なんて、普通は聞きもしないものだから」


 そうかなあ?

 案外ちゃんと話せば分かる人も多いのでは?

 それともこれって楽観視し過ぎかな?


「ふふっ、最後に普通に人と話せて私も嬉しかったわ。……それにしても、最初は本当に敵同士みたいな出会いだったけど、意外な結末になった感じ。本当にありがとう。それじゃあ――さようなら」


 彼女がそう言い切った瞬間。

 強い振動が起きる。

 がごごごご、と地鳴りのような音が聞こえて、

 先ほどまで通ってきた、彼女の部屋まで至る道のみ(・・・・・・・)が急に狭まり、

 ぐちっとグミでも潰したような音と共に完全に密着した。


 私と二段はあっけに取られて、

 ただただその事象を呆けて見ていた。


 壁はもう完全な壁だ。

 そこに最初から道なんて無かったかのようで。


「これが魔術なのかな……」


 これが認識阻害の魔術なのかなと、

 私がそう思っていると、

 足元に緑色の液体が流れて来るのが見える。

 その液体の色は、

 人型スライムになってしまった彼女の眼の色と同じ。


 つまりこれは、彼女の破片と血だった。


 私は拙いながらにすぐに理解する。

 彼女が今さっき、元々は偽者を配置してでもクリアはさせないようにしていたと、

 そう言っていたその理由を。


 つまる所、クリア達成してしまうと、

 ボスは死ななければならないのだろう。

 きっと彼女はクリアを認めた為に、

 あの道ごと、あの部屋ごと、

 全て押し潰されてしまったのだ。


 思えば、だからこそ頼みを言ってきたのかも知れない。

 

 正直なところ、私には色々な事が分からない。

 特に一番の疑念は、

 こうなると知っていたのなら、

 なぜ彼女は私達をクリア扱いにしてくれたのかって事だ。


「……」


 悲しさを感じつつもひとしきり悩んで見る。

 けれど、答えが出る事はとうとう無かった。


 答えを出すには、あまりに短すぎる付き合いだったと思う。


「……行くか」

「……そう、だね」


 何か煮え切らない思いを抱えつつも、

 この場に留まり続けるワケにも行かないと言う二段の言葉はその通りで。


 だから、私達はクラスメイト達を追って、

 次の階への階段がある場所へと進む事にした。



 ……さようなら。

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