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32話目

 二段に俺が知る限りの事を説明した。


 あの門の内側の部屋で見つけた日記の、

 俺が見たまでの所の、そこに書かれていた内容を。


 あの人型スライムが恐らくは元人間で、


 俺らと同じようにこの世界に転移してしまった学生で、


 男に襲われて女としての酷い辱めを受けて、


 耐え切れなくなって逃げて、


 そこから何があったか分からないけれど、

 今に至るのだって事を。


「本当なのか? それは」

「……大切そうに日記を抱きしめて、好きな男の子の名前を呼び続けてる現状を見て、疑えるなら」


 人型スライムは嗚咽をもらしながら、

 今では体を丸めて、顔を伏していた。


 二段は苦い表情を見せる。

 多分、自責の念にでも駆られているのだろう。

 事情を知らなかったとは言え、

 悲哀的な背景を持つ元女性に対して、

 理不尽な暴力を振るったのだから。


 いくら今は魔物だと言っても、

 二段はそこをすぐには割り切れるようなヤツでは無い。

 短い付き合いだけど、

 コイツが義憤に駆られるタイプだってのは分かるもの。


「知らなかったんだもん。仕方ないよ」

「いや、だが俺は――」

「――よしよし」


 背伸びをして、手を伸ばして、

 俺は二段の頭を撫でてやる。

 誰かが許してやらないと、

 このまま放っておくと、一人で思いつめてそうだ。

 なので、しょうがない。

 役不足だろうけれど、俺が許してやる事にしよう。

 効果があるかは知らんけど。


「……何のつもりだ。そんな事はしなくて良い」


 二段は口ではそうは言うものの、

 決して抵抗をしようとはしなかった。


 俺が女になってしまったから、

 手を出すのは駄目だと考えて抑えてるだけなのか、

 あるいは許しが欲しいのでは無いかと言う、俺の予想が当たったのか。


 まあ、どちらでも構わないよ。


「……」

「まあ、しょうがないよ。先に有無を言わさずに奇襲してきたのは向こうだし、姿も魔物だったし」

「それでも俺は女性に対して――」

「――ほーらほら、よしよーし」


 何かまたウダウダ言いそうになったから、

 強制的に頭をわしゃわしゃ掻いてやった。


「……好きにしろ」


 それだけ言うと、二段は何も言わなくなって、

 俺のなでなでを受け入れていた。



■□■□



 しばしの間を置いて、

 人型スライムは色々と落ち着いたらしい。

 泣きはらした眼を擦りながら、

 ゆっくりと俺らの方を向いた。

 初対面の時にあった敵意のようなものが、

 不思議な事に今は感じられない。


「……何か勝手に持ってきちゃって、すみませんでした」


 取りあえず俺は謝って見た。

 考えても見れば、勝手に部屋に入って私物漁った事に変わりは無い。

 俺のやった事は盗人そのものだ。


 相手が真性の魔物なら、

 ぶっちゃけそんな事は全く気にはしないけど、

 今回はちょっと……。


「勝手に人の部屋に入るなんて、失礼にも程があるわ」

「ご、ごめんなさい」

「でも、それより先に、あなた達を殺そうとしたのは私の方だもの。……私の方こそ、ごめんなさい」


 ちょっと予想外の反応が返ってきた。

 敵意が薄れたと言っても、

 多少は辛辣な事を言われるんじゃないかと、

 そう思ったんだけど……。


「何よその顔」

「いやあ、てっきり殺してやるとか言われるのかなと」

「……そうね。言って欲しいなら、言うけど?」

「言って欲しくないです」

「なら最初から言わない事ね。……ところで、一つお願いがあるのだけれど」

「お願い、ですか?」


 突然何だろうか。


「ええ、そうよ。受けれてくれる?」

「うーん。内容次第ですが」


 変な事じゃなければ、

 お願い事を聞くのもやぶさかでは無い。

 後ろめたさもあるしね……。


「別に難しい事では無いわ。……と言うか、今ちょっと疑問に思ったんだけど、あなた自分の事を俺って言うの? 男の子みたいよ」


 実際もともと男です。

 でも、何となく言いたい事は分かる。


「女の子なら私で良いじゃない。男まさりだとしても、アタシとかそういう言い方あるでしょう。折角美人なんだから、もっと女の子らしい振る舞いを心掛けたら良いんじゃない?」


 美人ねえ。

 言われて嬉しいような、嬉しくないような。


 まあともあれ、女の子らしい振る舞いか。

 やっぱり、見た目と言動がちぐはぐだと違和感強いよねえ。

 そういう所も気にした方が良いのかな?

 今まであえて気にしないように努めて来たけど、

 それにも限界あるよね……。


「あなたもそう思うでしょ? 乱暴くん」


 人型スライムは二段にも話を振る。


「いや俺は別に……」

「自分の彼女は女の子らしい方が良いでしょ。違う?」

「それは……」


 二段が口元を歪ませる。

 どうやら二段は罪悪感のせいか、

 この人型スライムさんとの接し方が分からないようだ。

 その上その前提に加えて乱暴くんなんて追加口撃が被さってきて、

 余計に居た堪れない感じである。


 でもね、二段。

 気持ちは分かるけれど、

 せめて彼女って所だけはちゃんと否定してくれよ。

 事実関係を誤認させてはいけない。


 ……と言うか、このままだと話が本題に入らないような。


「えっと、それじゃあこれから先、私なりに(・・・・)気をつけますので」


 なので、さっさと自分の事を私と表現する事にした。


 ほら、これで良いでしょ。

 だから早く話しを続けて。


「うんうん、それで良いのよ」


 人型スライムはどこか満足気だ。

 話を進めてくれるなら、もう何でも良いよ。


「それで、お願いと言うのは?」

「何も特別な事では無いの。……あなた、日記の中は見たのでしょう?」


 うっ、それは聞かないで欲しかった。

 正直誤魔化したいけど、ここでウソはついたら駄目だよね?

 ぐぬぬ……。


「……その表情。そう、見たのね」


 答えなくても表情でバレました。


「ええっと、その、すみません……」

「別に謝らなくて良いわ。あなた分かりやすいのね。表情見るだけで何だか分かってしまう」


 そういや、二段からも百面相みたいだとか言われた事あったね。

 俺――いや、私って(・・・)そんなに分かりやすいのかな。

 って、考えるまでも無い。

 悔しいけど多分、分かりやすいんだ。

 

「そんな顔しなくても良いと思うけれど? 表情豊かって良い事よ。何を考えているか分からない人より、ずっと魅力的。それは他人から好かれる美点よ。それも特に異性から、ね。……あなた凄く男からモテそう。見た所、結構胸も大きいようだし。……かわいそうに。襲われそう」


 男からモテてもあんまり嬉しくない。

 ついでに見た所の理由でモテる場合って、

 それ性欲とか肉欲が原動力でしょう。

 最悪でしかない。


 そう言えば、良く聞き取れなかったからだけど、

 言葉尻に何か呟いてなかった?

 気のせいか。


「少し話しが脱線してしまったわね。それで、お願いなんだけれど」


 うん、早く続き話して。


「もしもこの迷宮内である男の人を見つけたら、その時にその人が困っていたら力になって欲しいの」

「ある男の人ですか? あっ、もしかして日記の……」

「そうよ。光輝って言う名前の男なんだけど……別に全てに優先してそれをやってとは言わない。もしも見つけたら、出来る範囲で良いからってお願い」


 そう言って人型スライムは私に頭を下げる。

 光輝と言う人名に、ああ、なるほどと私は理由を察した。


 大変な時に来てくれなくても、

 助けてくれなくても、

 途中でおかしくなってしまっても、

 目の前から逃げてしまっても、

 それでもきっと、やはりこの人は光輝とやらが好きで仕方が無いんだろう。

 だからこそ、助けになりたいのだ。


 何とも一途でいじらしい乙女心だこと……。


「もちろん生きているかどうかなんて分からない。もしかしたら元の世界に戻れたのかも知れないし、死んでいるかも知れない。だから、あくまで見つける事が出来たらって話」

「まあそのくらいなら……」


 特に断る理由は無いので私は受ける事にした。

 絶対見つけろとか、何が何でもとかそういう話なら断ったけど、

 あくまでこのお願いはもしも見つけたらだし、

 特別な負担にはならない。


「ありがとう。それじゃあ、受けてくれたお礼をしないと行けないわね。……そうね、お礼はこの階層のクリアで良いかしら? 言ってなかったと思うけれど、実はこう見えて私この階層のボスなのよ。何でこうなったのか自分でも良く分からないけれど、気づいたら……」


 ちょっと待って……え? 

 ボス? 

 マジで……?


 確かに他のスライムとは格が違う感あったけれど、

 それでもまさかボスだとは思いもしなかったよ……。

ナデポって実際は男が女にするよりも女から男にする方が効果ありますよね。

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