3話目
しばらく歩いていると行進が突然にストップした。
前の方が何やら騒がしい。
「おい、スライムだってよ」
「小林が殴ってる。あっ、倒した」
スライムが出て、それを小林が殴り倒したらしい。
小林か……どっちの小林だろうか。
クラスに小林って二人居るんだよね。
チャラ男の小林とDQNの小林。
こいつらはどっちも先頭に居そうだからどっちなのかが分からない。
陰キャと陽キャくらいに差があれば、
並び順にも影響出るから簡単に分かるんだけども……。
なんて思っていると金髪の男が飛び跳ねているのが見えた。
こいつはチャラ男の方の小林だ。
○○の××って呼び方は面倒くさいから、以降この小林はチャラ男と呼ぶ事にする。
で、そのチャラ男がスライムを倒した様だ。
ところで、チャラ男にスキルやらを使った様子が見受けられないんだけど……。
素手で倒したのかな?
うーん……。
チャラ男のステータスが分からないからだけど、
案外この近辺のモンスターは倒しやすいのかも知れないね。
スライムらしいし。
まあ序盤だしラスボスの類に出てこられても困るけどさ。
でも……モンスターが弱そうだからと言って油断は禁物だけども。
特に俺はステータスが紙も同然だからね。
取り合えず倒せそうなの見つけたら、
まずはエキドナちゃんに頑張って貰うとしよう。
エキドナちゃんの方が俺よりも更にステータスは低いけど、しょうがないんだ。
「頼むよ、エキドナちゃん」
エキドナちゃんに語りかけて見る。
が、反応がない。
どうしたんだろか。
ちょっと心配になっていると、エキドナちゃんはするすると俺の肩に登る。
それから後方をジッと見つめた。
何か居るのかな……?
思わず俺は立ち止まり、
少しの間待って見る事にすると、ぱよん、ぱよん、と言う跳ねる音と共に、
何か緑色のグミみたいな形の何かが現れた。
いや、何かって言うか多分あれスライムだよな……。
どうしよう?
放置するかもしくはクラスメイトに報告かでもした方がいいかな。
でも、せっかくエキドナちゃんが見つけてくれた相手なんだよね。
それを思うと折角だから自分でって気持ちが湧いてくる。
「まあ、悩む所でも無いか」
思えばスライムはチャラ男ですら勝てた相手だ。
そこまで強敵だってワケでも無いだろう。
それに……魔物とはいずれ戦わなければならない。
こんなのに勝てないようでは、いずれにしろ俺に明るい未来などないのである。
つまり今回の結論は考えるまでも無い。
余談。
もしも敵のステータスが分かれば判断基準になりそうだと思って試して見たんだけど、駄目だった。
やっぱ見れるのは自分と召喚獣のステータスだけか……。
鑑定眼的なスキルが欲しい。
「ええい、ともかく、行けエキドナちゃん!」
俺が指令を下すと、エキドナちゃんはするすると俺の体から降りてスライム目掛けて特攻した。
スライムは狙われた事に気づいたのか、途端に跳ねる回数を増やし始める。
けれど――エキドナちゃんはスライムが着地する瞬間を見事に捕らえ、噛み付いて見せた。
ぐにぐにとスライムは揺れ、エキドナちゃんを振りほどこうと横の壁に自ら激突する。
白熱した戦いとはこの事か。
時折エキドナちゃんから悲鳴のような声が漏れるが、
その牙はいまだスライムに刺さっている。
そこから勝負は案外早く決した。
まもなくして、スライムは――くぱぁと力なく倒れて水になり、地面に溶けて行く。
エキドナちゃんの執念が相手を上回ったのだ!
激戦の後に残ったのは、緑色の染み跡と変な小さなビーズくらいの石ころである。
「石かあ……」
確かこういう石って魔石か何かで、
売れたりするのがWEB小説の定番だよね。
念のために持って行く事にしよう。
俺はポケットに石ころを突っ込んでから、
激戦を終えたエキドナちゃんの背中を撫でる事にした。
頑張ってくれてありがとうね。
大きな怪我も無さそうで一安心である。
さて……戦闘も終わった所で、
一旦エキドナちゃんのステータスを見てみる事にしよう。
レベル上がったりしてないかな……。
――――――――――
名前:エキドナ 性別:メス レベル:0.1 次のレベルまで:2/50
HP 10/13 MP 15/15 ※ 状態異常―無し―
動体視力0.50
基礎筋力0.35
身体操作1.99
持続体力1.50
魔力操作0.62
魔力許容0.75
成長水準1.25
スキル 暗視4.50 毒牙0.65
経験値配分 均等
――――――――――
スライム一匹の経験値が2……いや、経験値配分とやらが均等になっていて、俺自信にも経験値が2ほど来ているようだから、実質は4か。
正直……均等を無しにしたとしても、少なく感じる。
確かにスライムはあんまり強くは無さそうだったけど、でもそれでも、もうちょっとくらいはあっても良いような気がしないでも無い。
だってこれだとレベル上げキツい。
「……はあ」
俺がため息を一つ付くと、
それは静寂の中でひときわ大きく響き渡り、
しかし、俺はそれのお陰である事に気づいた。
待って待って。
静かって事は誰も居ないんじゃ……と。
俺が慌てて周りを見回すと、
案の定クラスメイト達の姿は見えなかった。
置いてかれたか……。
ちょっと熱中しすぎたかも知れない。
誰か気づけよって思わないでもないけど、
俺もこっち見てくるクラスメイト達に対して「こっち見るな」と何度もしっしっと威嚇してしまったからな……。
自業自得ってヤツか……。
まあでもとは言え、
「けど一本道だし」
そう、今のところ一本道だから、
このまま進めばいずれ合流出来るだろう。
別に焦る事じゃあない。
俺はエキドナちゃんを服の中にしまうと、早足で進んだ。
なんで走らないかって?
だから、激しい運動すると胸が揺れるからだよ!