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26話目

 しばらく進んでいると、

 ふと、エキドナちゃんが服の中でもぞもぞし始めた。

 良く分からないけど、

 何かを伝えたがっているのかな?


「ぎぅ」


 ひょこりと、胸の谷間からエキドナちゃんが顔を覗かせる。

 何だか服に隠れてて貰う時、

 ここがエキドナちゃんの定位置になりつつあるような……。

 まあ気にはしないけどね。

 エキドナちゃんはメスだし。


 そんな事よりも、


「どうかしたの?」

「ぎぅぅぅ」


 エキドナちゃんはぴくりと首を動かすと、

 通路脇の壁を凝視し始めた。


 ……何か不審な点でもあるのかな?


 思わず俺の歩みが止まる。


「どうした。急に立ち止まって」


 俺が止まった事で、隣に居た二段の脚も止まった。


「……いや、ちょっとあれが気になってさ」

「ただの壁だろ」


 うん、俺もただの壁にしか見えない。

 でもでも、エキドナちゃんの様子がおかしいんだ。

 なので、俺は取りあえずその事を二段に伝えて見た。


「その蛇があそこが気になるって言ってるのか?」


 二段が首を捻る。


 どうでも良いけど、

 胸の谷間からエキドナちゃんが顔を出してるのに、

 特に動じないその姿勢、嫌いじゃないよ。


 確かにエキドナちゃんを俺が囲ってるのは、

 もうクラスメイト達にはバレたけど、

 それでも驚いたり、頬を真っ赤にして胸を凝視するような性質の連中が多い。

 だから、その中でこの態度はあっぱれだ。


「うん」

「人間には分からない事が分かるとか見えるとか、そういうのはありそうだな」

「ちょっと確認しても大丈夫だよね?」


 ちょいと気になるのですよ。

 エキドナちゃんには事前に、

 宝箱とかありそうな場所あったら教えてと伝えてたから、

 もしかしたら、それに準じる何かがあるのかも知れないし。


「……今はやめたほうが良いだろ。気持ちは分からないでも無いけどよ」

「少しずつ最後尾に下がったし、少しくらい消えても多分大丈夫だよ。クラスメイト達にはバレないと思う」


 実は進軍が決行された段階で、

 俺が再び真ん中に居なきゃいけない感じになったから、

 ひとまず最初は真ん中に陣取っていた。

 ただ、やっぱり何か嫌だったから、

 バレないように少しずつペースを落として、

 現在は見事に最後尾に確保しているのであった。


 だから、何も問題は無い。


「そういう事でもねぇんだが……。つうか、何か歩くの遅ぇなと思ったらそういう理由か」

「気づいてたの?」

「まあな。俺だけじゃなくて、気づいてるヤツは多分他にも結構いる」


 えっ……。

 そんな、馬鹿な……。


「ただまあ今は小林の事が優先だから、軽いノリ出来ねえって考えてるヤツも居るだろうし、あと田中の件を見て、お前に絡むにもタイミングを測ろうとしてるのが増えたってのもあるな」

「……ふーん。あれ、そういや田中ってだれ?」

「お前が子豚とか言うあだ名つけたヤツ」


 あいつ田中って言うのか。

 初めて知ったよ。

 でも子豚の名前か……別に知らなくて良い情報だったよ。


「子豚の名前ねえ。どうでも良い」

「……そうか。そいつは悪い事教えたな」


 悪い事教えたな、か。

 そういう言葉が出てくるなんて、二段は普通に良いヤツだよね。

 強面と屈強な肉体のせいで印象で損してそうだ。

 でも、大多数のクラスメイト達には無い気遣いが出来る、

 それが出来るだけで満点花丸あげても良い――


 ――って、待て待て。


 何か今の俺の思考おかしくなかった?

 まるで女みたいな物の見方してなかった?


 いけない。

 体に精神が引きずられるとか、

 ありえないから。


「また百面相か。飽きねぇな」

「別にそんな顔してないけど。それより本当にちょっと見てみるだけだから」

「……分かった」


 はあ、と二段がため息をついた。

 何だか悪い事したかなあ。

 まあでも仕方がない事だから、

 重要な事かも知れないから、

 しょうがないんだよ!


 俺は自分の行動にそんな風に言い訳をしつつ、

 エキドナちゃんがじぃっと見ている壁に近づいて、

 そこに触れようとして――、


「――えっ! うそぉおおおおお」

「は? ちょ、おい!」

「ヤバいヤバい!」


 俺の手が、壁の中にするりと入って抜ける。

 そして、当然に壁があると思って手を伸ばしていた俺の体は、

 見事に重心を崩してしまい、その壁の中に吸い込まれて行った……。



■□■□



「ぐえっ」


 重心が崩れたまま吸い込まれてしまったので、

 俺はその勢いのままに思わず前のめりに倒れてしまい、

 潰れたカエルみたいな声が出てしまった。


 俺は呻きながらも立ち上がる。


「ううっ。……え、えーと、ここは」


 目の前には一本道があった。

 ただ、先ほどまでの通路とは違い、

 壁に掛けられている焔の色が青白い。


 何か、入っちゃいけない類の部屋見たいな、

 そんな雰囲気がひしひしと伝わって来るんだけど。


「ぎぅ」


 いつの間にか外に飛び出ていたエキドナちゃんが、

 首を通路の奥へと向かって振る。


「先に進めって事?」

「ぎっ」


 首肯された。

 どうやら、進めって事らしい。

 多分エキドナちゃんがそう言い切るからには、

 きっと何かがある。


 正直すぐに進んで見たくなった。

 けれど、脚が中々すぐに動いてはくれない。

 何か雰囲気的に嫌な予感が地味にするのも事実だから。


 ……一応、行動する前に、念のためにエキドナちゃんに確認して見よう。


「ねえエキドナちゃん。危険とか無い?」

「……」


 反応が無い。

 肯定とも否定とも伝えて来ない所から察するに、

 断定は出来ないって感じかな。


 うーん。

 そこはかとなく不安を煽ってくるね。


「おい、大丈夫か――」


 そんな言葉が後ろから聞こえてきた。

 二段の声である。

 どうやら、いきなし姿を消した俺を追いかけてきたらしい。


「――よ? ……ここ、何だ?」

「さあ? ただ、奥に何かあるっぽいんだよね」

「っぽいってお前なあ、はあ。……しかし、結構奥まで続いてそうな道だな。どこまで続いてるか分からねぇ。これは、ちょっと見るだけじゃ済まなさそうだな。残念だけど、一旦戻ろうぜ。……完全にクラスの連中とはぐれると、また面倒な事になるかも知れねぇぞ」


 それはその通りでございます。

 でも確かにそれは分かるけど、個人的には正直DQNの事よりも、

 この先に何があるのかの方が気になる。


「……ほら、戻るぞ」


 二段から再度帰還を促される。


 俺は無駄な抵抗と知りつつ、

 取りあえず頬を膨らませて見る事にした。


 二段は強そう――っていうか、

 ケダモノとの争いを見た限り普通に強いから、

 協力して進んでくれれば心強いんだけど。

 駄目か。


「……あ?」

「どうしたの?」


 突然、二段が素っ頓狂な声を上げた。

 何があったんだろうと俺が近づくと、

 二段は俺たちが入ってきた壁をペタペタと触っている。


「戻れねぇ」


 ぼそり、と二段が呟く。

 そんな馬鹿なと思い、俺もそこに触れて見る。

 すると、そこあったのは確かな土壁の感触のみであり、

 入ってきた時のようにすり抜ける事が出来なくなっていた。


 ……んーと、つまり。


「これ、先に進むしか無いんじゃない?」

「マジかよ……」

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