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21話目

 きっと、呻き疲れたのだろう。


「……ママァ」


 そんな言葉を残した所で、子豚は気を失った。

 そして、その直前に地面に落ちた子豚の頬を伝う雫が、

 いかにゴリのスキルが堪えたかを物語ってもいた。


 確かに……ゴリのスキルはヤバい代物だったと思う。

 あれは絶対食らいたくない。

 クラスメイトのほとんども、

 ゴリのスキルの恐ろしさを敏感に感じとっている。

 ゴリに送る視線が、もはや怪物に向けるそれと何も変わらない。


 もっとも、驚愕こそしていたものの、

 ゴリを見る目が特に変わらない、

 そんな連中も一部居たようだけど……。


 ゴリの性格ゆえに安心しているのか、

 あるいはイザとなっても、アレをどうにか出来る、

 そんな算段を組めるスキルでも持っているのか……。


「手当てをしてやってくれ」


 治療系スキルを持つクラスメイトにそう頼んだのは、

 この状況を作った当事者であるゴリだった。


 やはり教師として、

 生徒をこんな目に合わせた罪悪感があるんだろうか。

 例えそこに事情があったとしても……。


 ゴリに頼まれたクラスメイトは、

 その頼みに二つ返事で頷くと、


「分かったよ。俺のスキルまだ弱いから、少し時間は掛かるかも知れねーけど」


 そう言って、スキルによる子豚の治療を始めた。


 彼が頼まれた事に反発をしなかったのは、

 生来からの優しさからなのか、

 あるいはゴリが怖いからなのか。

 まあ、どっちでも構わないけどさ。


「――魔石、お金に換えてこよっと」


 俺は子豚の治療を見届ける事なく、

 そっと扉を出すと、施設の中へと入る事にした。

 今のこの場は俺には居辛いものがある。

 だから違う場所に行って、別の事を考えたかった。


 ……そう言えば、俺のレベルどうなったかな。


 エキドナちゃんを戻した段階ではステータスは見てなかったから、

 ちょっと気になった。


 よし、見てみる事にしよう。


 ――――――――――

 氏名:小桜 勇気 

 性別:女 レベル:0.2 

 次のレベルまで:118/120


 動体視力1.01

 基礎筋力0.75

 身体操作0.87

 持続体力0.86

 魔力操作2.18

 魔力許容1.98

 成長水準3.65


 固有スキル 召喚士2.45

 ――――――――――


 レベルはあがってなかったから、ステータスは当然に前のままだ。

 ただ、経験値だけはこんな具合に、後一匹であがる所まで来ている。

 ポーチの膨らみ具合からも察せるけど、

 エキドナちゃんはかなりの数のスライムを倒してくれたようだね。


「ぎぅ」


 よしよし、と俺はエキドナちゃんの頭を撫でた。



■□■□



 魔石をお金に変えた結果、

 今の俺のカード残高は「8,580」となっていた。

 結構増えた気がする。


「これぐらいあれば、泊まれるかな?」


 俺はそんな独り言を呟きながら、

 施設の奥の方へ、つまり宿のフロントの方にまで向かっていた。

 思えば元々エキドナちゃんを戻したのも、

 宿に泊まれるぐらい稼げたかな、って考えたからだし。


「いらっしゃいませ」


 宿のカウンターに到着すると、

 若い角刈りの男が出迎えてくれた。

 凄くニコニコしているフロントマンだけれども、

 何だか営業スマイル感がやばい。


「一泊したいんですけど、これで足りますか?」


 取りあえず、数字を表示した状態のカードを見せた。

 いちいち交渉するよりも、ここはシンプルに行こう。

 明らかにおかしいって状況じゃ無い限り、

 相手の値付けに文句を言っても気分悪くさせるだけだしね。

 クレーマー見たいな認識されるのが嫌だ。


「……うーん。これだと、一番安い部屋ならぎりぎり泊まれますね」

「一番安い部屋ですか?」

「一泊朝食付きのかなり狭いシングルのお部屋なら、8,500で泊まれます」


 わーお、ほぼ全額じゃないですか。

 今日泊まったら、残金80だよ80。


「どうされますか?」

「うーん……。泊まります」


 少し悩んだけれど、泊まる事にした。

 確かにごっそりお金は減るけど、

 あくまでこれは今日、しかも全く慣れていない初日の稼ぎなのだ。

 つまり、そのうちに迷宮に慣れれば、

 自然ともっと稼げるようになるだろうから、

 ここで出し惜しみする必要は無いと思うワケよ。


「ありがとうございます。お支払いは先払いとなっておりますので、一旦カードをお預かり致します」


 フロントマンはカードを預かると、

 手短に支払い手続きを終わらせ、返却してくれた。

 よしよし、これで泊まる所は確保出来たね。


「あっ、そうだ」


 後は泊まるだけとなって、俺は思い出す。

 そう言えば、皆への連絡どうしよう、と。

 ぶっちゃけ個人的に連絡はしたく無かった。


 けど、多分しなきゃ駄目なのだ。


 勝手に居なくなった、とか言われて捜索でも始まったら

 溜まったもんじゃないし。

 でも、俺だけが宿に泊まるとか、

 何かいらない反感買いそうな気もするんだけど……。


 はあとため息をついて、不安な気持ちのまま俺は皆の場所に戻った。

 だけど、意外な事にこの心配は杞憂に終わる。

 ゴリやクラスメイト達に、かくかくしかじか、俺が説明を終えると、



「まあ、良いんじゃないか」

「確かになあ。またわけわかんねぇ事するヤツ出てくるかもだし」

「そっちのが安全だろうし、ひとまず文句は無い」



 うんうん、と皆が頷く。


 全員の顔色や表情が見えたわけでは無いから、

 全員が心の底からそう思ってくれてるか分からないけど、

 ひとまずは大丈夫そうだったのだ。


 俺は、ほっとして胸を撫で下ろした。


 全員が全員そうじゃないって言うのは分かるんだけど、

 さすがに襲われかけた後に、

 寝る時休む時まで一緒は精神的にキツいものがある……。


「……ありがと」


 そう言った自分の声が、

 無意識の内に震えていた事に、

 俺は後になって気づいた。


「――なんて事だ。これは僕の添い寝が必要かも知れない」


 この時、茶メンのふざけた言動が飛んできたけれど、

 本当マジでやめて欲しかった。

 元気づけようとか思ってくれてるのかも知れないけど、

 今の俺にはただの嫌がらせにしか思えなかった。


 まあでも、

 周りからボコボコにされても決してめげない、

 その性格だけは……認めても良いかなって、ちょっと思った。


 ――勿論、悪い意味でな! 良い意味になるワケねぇだろ! ぶん殴りてぇコイツ! 襲われかけた俺に対して出てくる言葉が添い寝ってありえん! さっき出来た俺の心の傷を抉ってくんなよ!


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