2話目
子蛇を選択すると、続いてオスかメスか選んで下さいと出たのでメスにした。
理由?
俺の体が今は女だから、同性にしとこって思っただけだ。
そして性別の選択を終えると、お次は名前を決めて下さいと出た。
名前か……どういう名前にしようかな。
蛇にちなんだ名前が良いな。
そうだね、エキドナと言うのはどうだろうか?
確か蛇の怪物の名前である。
ゆくゆくはそれぐらいの存在になって貰いたいという願いも篭ってる。
他にはあまり思いつかないし……よし、エキドナで決定!
「……っ」
全ての選択を終えると、
精神的疲労感が押し寄せて来た。
おそらく魔力を消費しているのだと思う。
ステータスの所に魔力操作だの許容だのあるのだから、魔力は間違いなくこの世界に存在しているだろうし。
まもなくして、淡い光と共に30cmくらいの蛇が目の前に現れた。
赤と黒のしましま模様の小さい蛇である。
子蛇なんて表示があったからあまり心配はしてなかったけど、それでもちょっと安堵。
大きくて太いのが出て来たらどうしようって少しは思ってたし。
ともかく、こいつがエキドナちゃんの様だ。
エキドナちゃんはするすると俺の腕に絡みつきながら登ってくると、顔をこっちに向けた。
蛇は苦手と言えば苦手なんだけど、自分がこいつを召喚したんだなと思うと、どことなく可愛く見えてくるのだから不思議なものだ。
模様も何かお洒落に見えてくる。
頭を撫でると目を細めて満足そうな顔をした。
はははっ、こやつめ。
さて……少し愛でてみた所で、エキドナちゃんのステータスを見てみよう。
鑑定眼的なスキルを俺は持ってないが、配下もとい自分の召喚獣のステータスくらいは見れるでしょ。
多分。
――――――――――
名前:エキドナ
性別:メス レベル:0.1
次のレベルまで:0/50
動体視力0.50
基礎筋力0.35
身体操作0.88
持続体力0.50
魔力操作0.62
魔力許容0.75
成長水準0.65
スキル 暗視0.50 毒牙0.65
経験値配分 均等
――――――――――
よし、見れた。
良かった。
しかし、
「うーん。どう見ても俺以下だなぁ」
別にそこまで強いとは思っては居なかったけど、数値的には明らかに俺以下で、1を超えてるステータスが一つとして無い。
まあでもその代わりなのか、
スキルがちょっと面白そうではある。
まず暗視だ。
これは文字通り暗闇での感知能力で、
数値が高い程詳細に見えるらしい。
で、もう一つが毒牙。
これは、毒、麻痺、眠り、出血の中からランダムに選ばれた状態異常を敵に与えるらしい。
成功率はスキル値に依存で、つまりスキルの数値が高い程成功率が上がると。
暗視は探索に、毒牙は対魔物に効果を発揮するスキル。
使い方によっては有用かも知れないね。
ステータスが低めって所に関しては、
今のところ目を瞑るしかない。
レベルが上がれば改善される事を願おう。
……少しは俺の前途に希望が見えてきた。
「おーい! 全員、ステータスの確認は終わったかー!? そろそろ探索始めるぞー!」
ゴリの威勢の良い声が響き渡る。
どうやら皆でこの洞窟を探索する気らしい。
確かに……いつまでもジッとしても居られない。
この洞窟内は薄暗いけど、壁には等間隔で火の灯った松明が掛けられていて進めない程真っ暗って程でも無いし。
そういえば人の出入りもあまり無さそうなのに、この松明の火って誰が管理してるんだろうか?
いや、考えたら負けか。
スキルなんてある世界だし多分魔法的な何かでしょ。
クラスメイトが徐々に集まり、列を作り始める。
俺も服の中にエキドナちゃんを隠しながら倣って並んだ。
クラスメイトの視線を浴びたくないので一番後ろに。
まあそれでもチラ見されたけれど……無視だ無視。
ところで、エキドナちゃんを服の中に隠したのには理由がある。
説明を見る限りでは召喚獣を異空間にしまったり出したり出来るようだけど、その場合魔力を使う可能性がある。
さっきエキドナちゃんを召喚した時に少し消費した感じがあった。
もしも気づかない内に魔力が枯渇してしまったら大変な事になるかも知れない。
定番なのは気を失うとか、
異常な体調不良にみまわれるとかだけど……。
酷いのだと死の危険がある場合も考えられる。
まだ能力値が低いうちは節約出来る所は節約しておかないとね。
「おーい勇気! 前とか真ん中に並べば? 今のお前は女の子なんだしその方が安全だろ」
「だなー。その方が尻とか揺れるおっぱい見れるしな」
チラ見だけじゃ飽き足らなくなったのか、
クラスメイトが直接的に女を意識する言葉を掛けて来たので、
俺は取り合えず威嚇する事にした。
エキドナちゃんと言う召喚獣を手に入れたからか、
ちょっと俺も気が大きくなってきたかも知れない。
「ア゛ア゛!?」
「ひぃーこえー」
はっ。
「……ん?」
クラスメイトのあまりのアホさ加減を鼻で笑っていると、ふと近くに並んでいた一人と目が合った。
確かアイドルオタクの男の子だ。
もじゃっとした頭で名前は……なんて言ったっけ。
覚えてないな。
モジャ男でいいか。
「あ、あの、小桜くん、何か大変な事になったね」
「そうだね。異世界に転移なんてどこのWEB小説だよって話じゃん」
「それもなんだけどそれよりほら、小桜くん体が……」
モジャ男の視線が俺の胸と顔の辺りを行ったり来たり。
あぁそう……。
俺が呆れ眼でモジャ男を見ていると、
モジャ男の顔が一瞬でぼうっと真っ赤に染まった。
おいおい……。
モジャ男は大人しそうで害は無さそうな男だけど、念のために牽制しておこう。
「言っておくけど、今は体が女かも知れないけど俺は元男だからね?」
「ご、ごめん」
「それともしも変な事しようとしたら……毒持ちの蛇をけしかけるよ? ――エキドナちゃん」
服の中に隠してたエキドナちゃんを呼ぶ。
すると、背中から脇腹を通り腹筋の辺りから上に進んで来て――エキドナちゃんは胸の谷間からぴょこんと顔を覗かせた。
どっから出て来てんの。
それは駄目でしょ。
くすぐったいし。
「ひっ」
モジャ男の顔がひくついた。
でしょうね。
「俺が蛇を服に隠してた事に気づかないとは……注意力が無い。ここは異世界で突然何が起きるか分からないんだから、周囲に気を配らないと。女の顔とか胸とかジロジロ見てる場合じゃないよ。……ってか元男の俺だからまだ良いけど、普通の女の子だったら顔と胸を執拗に見られたらドン引きしてる」
「……気をつけるよ」
モジャ男がしゅんとする。
ちょっと言葉でつついただけでこれか……。
ったくこれだから童貞は。
まあ俺も童貞だけどね。
いや今は童貞じゃなくて処女か。
さて、モジャ男への牽制が終わった所で再び行進に気を向ける。
あいも変わらずクラスメイトがチラッチラこっちを見てくるが……しっしっと手を振ると顔を逸らすのでまあ良い。
ところで……歩き始めて分かった事が一つある。
なんで女がブラジャーなんてモノをつけてるかって事だ。
無いと胸が揺れる……。
今の自分がそれなりに巨乳な事もあってか、ぶっちゃけ気になる。
しょうがないので、ジャージの上着を脱いで胸の下辺りで結んで見る事にした。
すると揺れは少しマシになったんだけれど……逆に胸を強調するような形になってしまったような……。
まあ揺れないようにって言うのが目的だったから、結果おーらいではあるけど。
……うーん。
取り合えず、恥ずかしいけど女性用の下着欲しいね。
何言ってんだって話だけど、これ案外本気で重要事項だよ。
主人公、文句を言いつつも、意外と順応力が高いようです。