表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/58

16話目


 起き上がったモジャ男がエキドナちゃんを見る。

 そして泡を吹いて倒れる。

 再び起き上がったモジャ男がもう一度エキドナちゃんを一度見る。

 やっぱり泡を吹いて倒れる。


 ――コントか何かかな? と思うくらいに、モジャ男が何度かそれを繰り返した所で俺はようやく理解した。

 このままでは話にならないのでは無いか、と。

 うーん。

 これは一度エキドナちゃんをしまう他に無さそうだ。


 モジャ男には直接エキドナちゃんに感謝を伝えて欲しかった。

 でも、これじゃあ仕方無い。

 俺はため息を付きつつ、エキドナちゃんを異空間にしまった。


「――う、うぅ……。蛇……おえっ。居ない……?」


 再び目覚めたモジャ男は、

 起き抜けに嘔吐いて見せてから、きょろきょろ辺りを見回した。

 どうやら、エキドナちゃんの有無を確認している模様。


「エキドナちゃんにはちょっと待機して貰ってるから、今は居ないよ」

「……そうなんだ、良かった」


 だから、命の恩蛇に対してその言葉は無いでしょうに。

 居なくて良かっただなんて。


 仮に自分自身がエキドナちゃんの立場だったとしたらどう思うかとか、そういう事を考えないんだろうか。

 今回モジャ男のした事は、

 例え話で分かりやすく説明するとこんな感じの事だよ。


 その壱。例えば、モジャ男が女の子を助けたとする。

 その弐。例えば、その女の子が目覚めた瞬間に自分の顔を見て気絶したとする。

 その参。例えば、最後に「あなたの顔見ると吐き気がして失神するの」と言ったとする。


 以上。

 ね、こういうのってされたら嫌でしょ?

 最低な人間のする事だよ。


「ごめん。何かトラウマになったっぽくて、蛇を見ると……。居なくて良かった」


 その言葉に、ぴくりと俺は眉をひそめた――けれど、抑える事にした。

 モジャ男とは、もはや分かり合う事など出来なさそうだからだ。

 分かって貰おうと思うと、その思考自体が俺にとってもストレスにしかならない。


「……それで? お礼はエキドナちゃんに伝えておいたよ。もう用が無いならあっち行ってて」

「あっ、いや。用はまだあるんだ。その、これ……」


 おずおずとしながらも、

 モジャ男は革で出来たポーチを差し出して来た。

 無骨な感じのする羊羹色のポーチだ。


「何それ」


 どこから持ってきた。


「その、僕も探索班だったから。C班なんだけど」

「うん?」

「途中で宝箱見つけて、これが入ってて。助けて貰ったお礼にどうかな。班員からは了承得てるから、受け取って貰えたら嬉しいんだけど」


 ああっ、なるほど。

 探索した時に見つけた道具をお礼にって事か。

 ……何だ、なかなか殊勝な心がけじゃないか。


 俺は迷わずポーチを受け取った。

 魔石を入れるのにも使えそうだし、今の所あって困るものでは無いし。


 別に俺がガメついわけじゃない。

 裏が無さそうなのであれば、受け取るのもやぶさかでは無いだけだ。

 確か謝礼って、きちんとそこに理由があった場合、

 受け取らないのは逆に失礼に当たるんだ。

 前にネットか本のどっちかで見た。


「……ありがと」


 まあとにかく、少しだけ溜飲が下がったよ。

 モジャ男にしてはやるでは無いか。

 これ、何か効果とか付いてるのかな?

 後で施設で鑑定して貰おう。


「受け取って貰えて良かったよ」

「変な見返りを求めて来たりしないのであれば、ありがたく受け取るよ俺は」

「ずぶといね……」


 ん? 馬鹿にしてるのかな?

 いやいや、駄目だ駄目だ。

 こんな事くらいで怒ってしまってはな。


 ……そういえば、俺ってこんなに怒りやすかったっけか?

 この世界に来る前までは、そんなでも無かったような気がする。

 ああ、そうか。

 俺だけおかしい状態で転移されてるし、きっとそのせいだな。

 自分自身の気づかない所でも、多分精神的な負担があったのかも知れない。


 はあ……。

 どうなるんだろ。


 これから先を思うと、どうにも不安な気持ちが沸き起こる。

 そして、そんな俺の視界の前で、

 モジャ男はクラスメイト達に連れ去られ、脇腹を突かれてた。


「やめてっ、やめて」

「高田、てめー渡すだけって言ったろ。何お喋りしようとしてんだよ」

「そうだよ高田君! 僕が最初にあげる気してたのに、感謝とかいう言い訳で抜け駆けなんて……。さっきの出来事のせいで勇気君が棘々しい雰囲気になっちゃったから、空気読んでそっとしようと思ったらこれだよ!」


 クラスメイト達はどうにも騒がしい。

 こいつらは変わって無い。

 転移前からこんなだ。


「もう駄目だ。僕も渡さないと」


 何だろう。

 突然、茶メンが何かを握り締めてこっちに来る。

 よく見ると握っているそれは短剣だ。


 危ないわ何する気だよ……。


 俺はぎょっとして身構える。

 しかしどうやら、俺に害を為すつもりは無いらしい。

 茶メンはおもむろに跪くと、その短剣を俺に差し出した。


 ……何のつもりだ?


「気にしなくて良いよ。決めてたんだ。お宝が出たら勇気君にあげようって」


 そ、そう言えばそんな事を呟いておりましたね。


 でも、これは貰えないな……。

 本人が決めてた事だとしてもだ。


 自分でも理屈は分からないけれど、

 茶メンの目の奥底に、不思議と邪な気配を感じてならない。

 拒否しないと嫌な予感がする。


「それは良いよ。自分で見つけたものでしょ?」

「高田君のは貰えて、僕のは貰えないって事なのか……」

「いやそうじゃなくて、モジャ男は俺に助けて貰ったからそのお礼って事だと思うけど」

「……この世界に来てから、僕だって勇気君に実は助けられている」

「は?」

「勇気君、君は自分がどれだけ凄い美少女になっているか自覚ある? 目の保養になっているんだ。そのお礼じゃ駄目かな?」


 凄い爽やかな口調で、

 凄い淀んでる内容。


 俺が怒りやすくなってんのって、

 多分こういうのも原因の一つだと思うな。


 俺は取りあえず、のーせんきゅー、と短剣を押し返した。


 いらねぇからやるよ。

 見たいに言われてたら多分受け取ってたと思うけど、

 さすがに、いくらなんでも今回の茶メンの行動は気持ち悪かった。


「なんでぇえええ! おかしいじゃないかあああ!」

「勇気をビビらせてるんじゃねぇよ!」

「いい加減にしねぇと、お前の喉にスライム詰まらせるぞ!!」

「顔は良いのに、なんでこういう性格になるかねぇ。いやでも女にはモテるんだろうけどさ」


 クラスメイト達もさすがに気持ち悪いと思ったんだろう。

 茶メンはどこかに連れ去られて行った。

 もう戻って来なくて良いよって思うけど、

 多分そのうち戻って来るんだろうなあ……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ