13話目
さて、迷宮に戻った俺らA班だけど。
先頭にゴリ、俺と二段が最後尾で、残り三人が真ん中と言う、最初の頃と全く同じ陣形にて進んでいた。
まあもっとも、全く同じと言うのは班員にとってと言う意味で、俺からすれば全く同じと言うわけでは無いけれど。
あの時は経験値の為に放していたエキドナちゃんを、今は出さずに異空間にしまっているからだ。
勿論、これにはちゃんと理由がある。
その、何やら俺が不在の間に残りの班員で色々話をしたらしく、エキドナちゃんを一応は出しても構わない、と言う流れで意見は一致したらしいんだけど……自分でも揉めた原因の一つだとは思うので、個人的に少し自重していた。
とは言え、こんな風に気を使う素振りを見せるのは最初だけで、
後でまたエキドナちゃんを解き放つ予定だ。
だって、ずっと自重してたら俺のレベル上がらないし。
お金も手に入らないし。
うん、取り合えず、現在の進行方向について話を戻そう。
これはひとまず、新たな探索をするよりも戻ろうと言う事で決まったよ。
ゴリの提案であり、判断だ。
やっぱり、あの施設についてクラスメイト達に報告したいらしくて。
全員が使えるようになれば、心の余裕も産まれるだろうからって理屈だった。
俺から見れば、正直今のところはクラスメイト達に結構余裕がありそうには思えるんだけどねぇ。
後々はどうなるか分からないけどさ。
うーん。
先んじて手を打ちたい、と言う事なのかな?
黙っていれば、有利な手札になりそうな場所だとは思うのに勿体ない。
まあゴリが何考えているかなんて、
本人じゃないから分からないや。
……しっかし、エキドナちゃんを出してないとなると、やる事が無いね。
暇つぶしに自分のステータスでも眺めて見よう。
今の所はこんな感じになってたよ。
――――――――――
氏名:小桜 勇気
性別:女 レベル:0.2
次のレベルまで:10/120
動体視力1.01
基礎筋力0.75
身体操作0.87
持続体力0.86
魔力操作2.18
魔力許容1.98
成長水準3.65
固有スキル 召喚士2.45
――――――――――
筋力とかはまだ低いけど、魔力関係は結構上がり幅が大きい。
最初から気づいてたけど、ステータス的に俺は前衛タイプじゃないよね。
■□■□
「ん? スライムだ」
来た道を戻ってしばらくすると、スライムと出くわした。
俺が前に見たのよりも少し大きくて、色が赤色だ。
そいつは、にちょにちょと地面を這うように動いていた。
さて、俺やエキドナちゃんは手を出さないから、今回は見てるだけだけど、誰が戦うんだろうか。
そう言えば他の班員の戦い方とか、スキルとか見た事が無い。
丁度良いし、この機会に観察して見る事にしよう。
スキル使ってくれると良いけど。
「俺がやる」
ふん、と鼻息を荒くしながら、前に出張って来たのはケダモノだった。
こいつはチビだし、力が強そうにも見えない。
二段からアイアンクロー食らって、持ち上げられる程に貧弱だったけど、
大丈夫なのか……?
いやまあ、今の俺よりは力あるだろうけどさ。
ともかく、周りも頷いているので、ケダモノが戦うようだ。
騒いで喚いて揉めたのはコイツが発端だったし、戦わせて少しは溜飲下げさせたいって所かな。
俺としてはゴリか二段にレベル上げして欲しいんだけど、
今回は我慢しよう……。
「おらっ」
ケダモノはスライムを豪快に蹴っ飛ばした。
しかし、蹴り飛ばされたスライムは壁にあたって、
ぐにぃんとしなった後、またすぐに元の位置に戻って来た。
うーん。
赤スライムはいくらかダメージを負ったようだけど、一撃とまでは行かないようである。
スライムと言うだけあって、意外と打撃には強いのかも知れないね。
もっとも、ケダモノとしては今ので決める予定だったようで。
随分と不満そうに赤スライムを見ていて――
――おっと、突然、赤スライムが何かを吐き出した。
ごうっ、と一瞬舞ったそれは炎だった。
それは、火炎放射とかに例えられそうなほどに強力には見えず、
例えるなら、火の息とか言った感じの勢いだった。
なんと言うか、凄い威力では無いように見える。
けれど、それは確かにまごう事無く炎だった。
俺は離れてたから問題は無いけど、ちょっとこれは驚く。
「マジかよコイツ……はっ、ここはスキルの出番だな」
しかし、そんな赤スライムを相手にケダモノは妙に嬉しそうになる。
多分こいつ、スキル使いたくてしょうがなかったんだろうなあ……。
いきったケダモノは、仁王立ちのように赤スライムの前に立ちはだかると、大きく口を開けた。
そこから飛び出たのは、響くような咆哮。
俺は思わず耳を塞ぐ。
他の班員たちも俺と同じようにしていた。
何をしたんだろうか。
そう思っていると、突如として赤スライムが痙攣を始めた。
ぴくぴくしてる。
状況を正確に把握しているであろうケダモノは、鼻をこすりながら近づくと、赤スライムを再び蹴っ飛ばした。
これで勝敗がついたようで、
赤スライムはただの液体へと戻り、地面の染みと化した。
勝者ケダモノは満足げに地面に残った魔石を拾う。
「へへっ、一発目で効果あったか。運が良いな俺」
「何したんだ?」
聞いたのは魚人だった。
仲が良さそうな魚人に、ケダモノは自分のスキルをまだ教えて無かったようだ。
うーん、こいつらの友情って案外薄いんだろうか。
そういえば、ケダモノが二段にアイアンクローかまされてる時、
驚いていたのもあったかも知れないけど、助けてなかったしね。
いや、人の事情なんてどうでも良いか。
「おっと、そうだな教えてなかったな。俺のスキルは【災禍の咆哮】ってんだけど、一定確率で相手を状態異常に出来る。今はまだ一つ、麻痺だけな上に低確率だがよ、スキル値が上がれば確率上がって状態以上の種類も増えるっぽい」
なんと。
こいつ、案外良スキルを持ってるのか……?
いや、そうでも無いか。
状態異常を無効化出来る敵とか装備とかあったら、何の意味も無いもん……。
まあ、本人が嬉しそうだから放っておくか。
ケダモノのスキル考察よりも、今はスライムの方が気になる。
色が赤だから火を使ったのかな?
うむむ、と魔物の性質を考えつつ、ふと俺は思った。
そう言えば、俺の見えない所で先刻はエキドナちゃんには頑張ってて貰ったわけだけど、こういうスライムも多数相手にしてたんだろうな、と。
そう思うと、エキドナちゃんに対する感謝ゲージが微増していくのを感じた。
と、まあ、こんな感じで俺らは帰路についた。
ちなみに、元の場所に戻るまでに、スライムは都合五匹くらい出たかな。
そいつらの相手は全てケダモノがしていた。
本人は随分満足そうだったけど、チームで動くとしたら、これが許されるのは今回限りだろうけどね……。
■□■□
待機班の待つ場所が見えてきて、
俺らA班が合流を果たそうとした所で……妙な違和感を感じた。
戻ってきたは良いのだが、何やらクラスメイト達が騒がしいのだ。
「おい、高田! 大丈夫か!?」
「かひゅ、かひゅ……」
「なんでこんな事になってんだよ……」
「知らねぇよ! ピンク色のスライムが襲ってきて、そいつが高田の口ん中に入っちまったんだ」
「小さくてすばしっこいスライムだとは思ったけど、まさかこうなるとは……」
どうやら顔色が悪く、呼吸さえ困難そうになっている男が一人居るようで。
なんと、そいつはモジャ男だった。
今にも死にそうなモジャ男だが、周りの話から察するにスライムが体内に入ってしまったらしい。
そう、スライムが……って、え?
モジャ男=高田。