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11話目

2500字くらいで収めるつもりが、収まりませんでした。

 きょろきょろと辺りを見回しながら、

 俺はゆっくりと進んでいた。

 煉瓦で出来ているお店や、石畳で出来ている地面にどことなく風情を感じた。


 いらっしゃいませー、なんて言葉と共に手を振るお店の人たちの姿が見える。

 けれど不思議な事に、俺以外の客と思われる人の姿が見えなかった。


 何とも言えない違和感。

 ちょっと不気味である。


 後でオジジに理由を聞いてみた。

 すると、今の所ここを使えるのは俺たちのみっていう返事が帰ってきた。


 今の所だなんて、まるで後から人が増えるようにも聞こえる返答だったけど……、


「何事も、可能性はゼロではありませんので」


 とか言われた。

 上手く避けられた感がある。

 まあ、オジジも断定出来ない事なのかも知れない。


 俺は案内図にあったお目当てのお店を探した。

 そんなに広いわけでは無いからか、

 衣類店はすぐに見つかった。

 エマ衣類店と書かれた看板が見える。


 ここだね。


「すみませーん」


 扉を押し開けながら、来訪を知らせた。

 中は当然に客なんて居なくて、がらんとしている。

 

 店に入った俺を見て、

 ぱたぱらとこちらへ駆け寄ってくる少女が一人。

 

「いらっしゃいませ」


 見た所10歳くらいに見える。

 顔立ちはそれなりに可愛らしいけど、

 どう見ても高学年の小学生くらい。

 まさかと思うけど、店員さん?


「店員さん?」

「えっと、店員って言うか、店長のエマですけど……」


 こんな小さい子が店長とは……。


「そ、そうなの?」

「そうなの」


 ころころと笑顔になる、店長もといエマちゃん。


「……でも、初めて会う人からは、だいったい、お店の人の子どもか何かと間違えられるんだよねー。失礼しちゃう」


 実年齢は分からない。

 けど、間違えられても仕方ない気はする。

 背も低いし、起伏に乏しい見事なまでの寸胴ボディ。

 顔立ちも幼さしか無い。

 この見た目で、小さい女の子じゃなくて普通の女だって思う人、ほぼ居ないでしょ。


「それで、お姉さんは当店に何をご所望で?」


 そうだった。

 余りの衝撃に用事を忘れかけてました。


「えーっと、下着を買いに来たんだけど」

「ふーん、そこそこデカそう。んっ」

「――ひゃっ」


 いきなり、胸を鷲掴みにされる。


 えっ?


 エマちゃんの突然過ぎたその強行に、俺は一瞬唖然とした。

 小さい指ながらも非常に乱暴で力強い手つきで、

 ぐにぐに、ぐにぐにと俺は自分の胸を揉みしだかれて――


「痛っ! 何するんだっ!」


 ――エマちゃんの頭の上に拳を落とした。


「ぐぇ」


 潰れたカエル見たいな声が出てきた。

 表情も似たような感じになった。

 ……そこまで強くしてないから大丈夫だとは思うけど。



 エマちゃんはしばらく悶絶していたが、

 そのうちに回復したようだ。

 涙目になって頭をさすりながらも、立ち上がってくる。


 ……何するのか。

 普通に痛かったんですけど。


「ふぃー、何もげんこつ落とさなくても」

「痛かったんだけど」

「かなり乱暴に揉んだので」

「何でそんな事すんの?」

「だって巨乳ムカつ……いや、予行演習のお手伝いしようと思って」

「何の?」

「お客さん、彼氏とか旦那さんになる人が優しいって限らないよ? 見た目は優しそうでも夜は野獣タイプかも知れないでしょ? だから激しいの慣れてた方が……げっ、顔やばっ。はい、ごめんなさーい」


 取りあえず、謝ってくれたから水に流そう。

 同じ女の体だし多少は情状酌量もある。


 ちなみに、俺がどんな表情してたかだけど。

 ご想像にお任せします。

 

「下着だったよね? はいはーい、じゃあ、試着室行こっか。サイズ測るから、脱いでー」

「うん。お願いね」

「んっ、良い返事。って、あれっ、ノーブラ……つかやっぱデカっ」


 試着室にエマちゃんと一緒に入り、上着を脱いで俺も気づいた。

 大きさはともかくとして、確かに今は下着をつけてない。

 いやでも、それは仕方ないんだよ。

 男が女に突然変わるとか言う、ワケが分からない事情があるんだからさ。

 面倒だから説明しないけど。


「痴女?」

「違う! 色々あったんだってば」

「……あっ、もしかして盗まれた? お姉さん綺麗だし、おっぱいも大きいもんね。そりゃ盗まれるよねぇ。今頃盗んだ男はきっと匂い嗅いでると思うなあ」


 メジャーを手にしたエマちゃんが急にニヤニヤしだす。

 その意味不明な妄想にイラッと来たので、拳を握るフリをしてみた。

 黙った。


「……えーと、アンダーが64……トップが90……嘘っ、Gじゃん……爆乳と言うには足りず、しかし巨乳と言うには少し大きい……いや、無い胸のあたしから見たら爆乳の類だわこんなん」


 何かブツブツと言っているようだけど、

 何を言ってるのかよく分からない。

 取りあえず、待つ事にする。

 すると、そのうちにエマちゃんが測り終わった。

 ようやく終わった。


「じゃあ、次はこっちねー」

「こっち……?」

「女性用の売り場」


 エマちゃんは俺の手を引くと奥の方に進んで行った。

 右の隅の方に「女性専用」と書かれた部屋があり、迷わずにそこに直行だった。


 中に入ってみると、そんなに広くは無い。

 けれど、そこかしこに隙間無く女性用の衣類等が陳列されていた。


「んーと、お姉さんのサイズだと、ここらへんの商品だね」

「……んー、ちょっと種類が少なくない?」


 下着売り場の場所の中でも、俺に合うサイズがある場所を案内される。

 けど、何か品数が少ない。

 すぐ隣の棚に陳列されている下着はいっぱい種類があるのにも関わらずだ。


 まあ別に着れればなんでも良いけど、

 でも、折角だし種類があるなら選びたいじゃん?

 別に興味があるワケじゃないから!

 ……まあ、お金との相談にはなるけども。


「んー……そうは言っても」


 エマちゃんが露骨なくらいに眉をひそめる。


「何?」

「おっきい人ってあんまりいないんだよ? 嫌味なの? デザインが少ないのは常識でしょ」


 別に嫌味でも何でも無い。

 そんな事情知らないってば。

 まあ知らないって事が分からないのも分かってるけど。


「デカ過ぎて既製品じゃ着けれないっていう人より良いでしょ」

「うっ、そういう人よりは確かにマシかも……って、そんな人居るの?」

「居るとは思うよ。ちなみに、あたしはそういう人見たら、陰でミルクタンクってあだ名つけるかな」

「エマちゃんの心の声は要らない。まず分かった。この中から選べば良いんだね」


 種類が少ない理由は分かった。

 仕方がないので、ひとまずこの中から選ぶ事にしよう。


 しかし、少ないデザインのどれもが……どことなく扇情的なのは意図的なんだろうか。

 この白いヤツなんて、スケスケのレースなんですけど……。

 白って清純なイメージあったのに、全然清楚じゃないよコレ。

 勝負下着ってヤツ?

 でも、勝負する機会なんて未来永劫に来て欲しくない俺からすると、

 こういうのはちょっとな……。


 悩みながらついでにチラリと値札を見ると、「27,200」との数字が見えた。

 思わず吹きそうになる。


 ……うん?

 気のせいかな。

 確か、俺のカードに入ってる金額が「3,480」だよね。

 軽く八倍くらいなんですけど……。


「ん? お姉さんどうしたの?」


 俺の様子を横で伺ってたエマちゃんから声が掛かる。

 どうしようか。

 いや、正直に言おう。

 もしかしたら安いのを見繕ってくれるかも知れない。


「いや、お金足りなくて。高いなあって」

「お姉さんが今手に持ってるのは良い生地使ってるもん。でも、何の効果も無いヤツだからそれと比べればまだ安いよ」

「効果って……そんな下着もあるの?」

「あるある。魅了とか誘惑がうっすらと掛かってるのとか、自動体調補正が掛かってるのとかだと、その十倍は軽くするよ。当然それより上もあるし」


 その効果、多分俺は一生使わないと思うから、どうでも良いんだけど……。


「うーん、今の手持ちがこれしか無くて」


 取り合えず俺は数字を表示させた状態でカードを見せた。

 エマちゃんの表情が少し曇る。


「お姉さん貧乏……」

「うるさい」

「……これだと、何の効果も無い上に女を捨てたようなデザインの一番安いのしか買えないよ。そっかあ……うーん、うーん……うん、分かった!」


 何が分かったんだろうか。


「さっき揉み揉みしちゃったし、そのお詫びも兼ねて一着プレゼントする。代わりにご贔屓にしてね? ……じゃあちょっと待ってて。妖婦のブラって言うのがあるんだけど、それ持ってくるから! ちゃんと上下セットだから安心して」


 そう言って、エマちゃんは足早にどこかに行った。


 プレゼントって……そりゃ、金銭的に助かるから嬉しいんだけど、

 何だか悪い事したような気分になる。

 確かに揉み揉みされてイラッとはしたけど、それはもう水に流してるのに。



 しかし、妖婦のブラ、ね。

 何か不穏な名前に聞こえるのは俺だけ……?


そう言えば昔、頑張って谷間を作る為に盛れるブラを探してるって言ってた知人が居ました。別に盛らなくても良いじゃん、って言ったら「私の気持ちなんてわからないよ」と嫌そうな顔されたのを未だに覚えてます。なので、これ系の悩みを持つ女性がこの手の話題を出したらスルーする事をオススメします。恐らく、触れる事自体がタブーです。友情にヒビが入ります。

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