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10話目

 ――女性用の下着。


 それを聞くのは少し恥ずかしくもあったけれど、聞かないわけにも行かない。

 どうしても必要なモノなワケで。


 自分でも、自身の頬が微妙に朱色に染まっているのが分かる。

 まだ幸いだったのは、初老の男性が普通の応対をしてくれた事かな。


「女性用の下着ですか。ある事はあるかと」


 平易に応えてくれる、この優しさ。


 まあ、とにもかくにも、どうやら女性用の下着はあるようです。

 無いと困るものではあったから、一安心だね。

 恥ずかしくなんか無いもんね。


「この中にある衣類店で販売していると思いますよ」


 初老の男性はそう言うと、掌を使って横にあった看板を指した。

 どうやら案内図の様で、この施設にある店の場所や名前が載っている。

 俺は顎に手を当てて、ふむふむと食い入るようにこの施設の全体図を確認した。


「……なるほど」


 見た所、この施設の全容は以下の通り。

 まず、今居る所が入り口だ。つまりエントラス。

 で、その両脇に一つずつ少し幅の広い通路があって、

 その通路の道なりにテナントの様に色々とお店がある感じ。


 武具店や防具店などが複数あるし、道具や薬屋、

 他にも治療院と飲食店……八百屋や肉屋なんてものもあった。


 そして、これらの店を抱えた両脇の道は、

 突き当たりで繋がり同じ場所に出るようになっていたようだ。

 突き当たりのそこは宿泊施設の受付と書いてあった。


 ……うーん。

 なんだろう、この商店街を凝縮しました感。


「まあ良いか。おっ、あった」


 指先でなぞるようにして案内図を確認すると、ようやく衣類店の文字が見えた。

 目的のお店である。

 ひとまず、さっさと買い物を済ませてしまおう。

 俺は魔石を再び両手に抱えて――、


「それでは、少々ご不便ではありませんかね」


 ――初老の男性から呼び止められた。


「でもこれが無いと買い物出来ない……」

「通貨に換えられますが?」

「えっ、でも最初の時、魔石を金銭として扱っているとか何とかって」

「魔石を金銭としてもお取り扱いしている、とは言いましたが、通貨が無いとは一言も言ってませんよ?」


 初老の男性は、薄く口角を上げる。


 えー、何そのトラップ。

 まあ確かに突っ込んで聞かなかったのはこっちだけどもさ。


「もちろん、私の言った事はウソではございませんよ。魔石でのお支払いも可能な店舗もあります。設備維持に使いたい、新しい商品の開発に使いたい、と言った場合に特殊な魔石を代金の代わりに、と望まれる事もあります。逆に、探索者様方が魔石を使うべく欲する時もあるでしょう。……まあ、とかく、通貨に換えられますか?」

「うーん、何か騙されたような気分が……」

「騙してないですよ。悲しいすれ違い、勘違いがあっただけなのです」


 この人、何か楽しんでる様な気がする。

 優しそうな顔して、あんまり優しくないのかも知れない。

 聞かれなかったから答えない、見たいな所が特に。


 うーん。

 なんとなく、まだ聞かれなかったから答えてない、って事がありそうな気がする。

 ひとまず魔石を通貨に換えて。

 それから、何か一つくらい少し突っ込んで聞いてみようか。


「それじゃあ、ひとまずこれを通貨に換えてください」

「はい、承りました。……それと、私が承れるのは魔石の通貨への換金のみですので。武器防具、道具類などの売買は、直接店舗にてお願い致します」


 初老の男性は、説明をしながら机の下から盆を取り出すと、

 魔石を乗せてカウンターの奥に入っていった。

 多分、鑑定か何かをしているんだろうね。

 初老の男性は数分程で戻って来ると、黒いカードを乗せたキャッシュトレイをカウンターの上に置いた。


 え? カード?


「あの……」

「こちらの数字が、現在のあなた様の通貨資産になります」


 カードには、白い文字で「3,480」と書いてあった。

 

 あー、うん。

 つまり、アレだね。

 これってデビットカードとか電子マネー見たいなものなワケだ。

 通貨を増やしたければ、何か売ったりしてチャージすれば良いと。


 入ってる金額が表示されるとか、

 謎技術のカードだけど、異世界の迷宮だもの。

 こんな事ぐらいじゃもう驚かない。


「ちなみに、この文字をなぞると数字が消せます。本人以外にこの機能は使えないように設定しておりますので、ご安心を。……数字が表示されたままですと資産が丸見えですから、上手くない事もあるでしょう。こちらは現在未登録となっております。登録はなぞるだけですので、どうぞ」


 言われて、スッと文字をなぞってみる。

 パチッ、と音が一瞬したかと思うと、次の瞬間に数字は消えていた。

 試しにもう一度なぞってみると、今度は数字が現れて。

 もう一度なぞると、数字が消えた。

 パチッとしたのは最初だけだったので、恐らくそれが登録だったのかな。


「念のため、ご確認も兼ねて私もなぞって見ます」


 初老の男性が俺のカードをなぞる。

 しかし、変化は何も無かった。

 本当に俺以外は使えないようである。


「以上でございます。それでは、どうぞ当館をご利用下さいませ」


 と言う所で、さて続いて、少し話しを聞く事にしよう。


「……ん? どうかされましたか。お買い物は宜しいので?」

「その前に色々と聞きたい事もあるので」

「なるほど。どうぞお訊ね下さい」

「このお店ってまた来れますよね? 一度出たら扉が消えて、次また来れるのは時の運みたいな事無いですよね?」


 微妙に気になった事を聞いた。

 思い出したんだけど、ダンジョンもののゲーム何かで、そんなのがあった様な気がする。

 階段を降りるとランダムでお店に出くわすヤツ。

 ここもそれと同じで、扉を出たら、次に使えるのはまた扉と出会えた時だけって言う可能性は無いだろうか。


「……半分当たりで、半分外れですね」

「え? それはどういう意味……」

「一度出たら、扉が消えるのはその通りです。ランダムで扉が出来る事があるのもまたその通りです」


 げっ、やっぱり。


「しかしこちらを使えば、任意で扉を出す事が出来ます。これは、初めて来られた方には必ずお配りしております」


 初老の男性は、指輪を一つすっと差し出してくる。


「あなた様はお買い物をするつもりの様でしたので、お帰りの際にでもお渡ししようかと思っていましたが……」


 本当かな?

 さっきケダモノとイザコザ起こしちゃった所見られてたし、こいつら面倒くさそうな客だから二度と来ないでくれとかって思って、聞かれなかったら渡さないつもりだったのでは?


 いや、疑うのは良くないよね。

 この初老の男性――オジジで良いか、オジジは、聞かれなかったから言わないって事はあっても、ウソをついたり騙したりはしない様だし。

 あくまで自称だけど、まずは信じる所から始めよう。


 よし、と俺は指輪を受け取って……どの指に嵌めようか迷った。

 大きさ的には中指当たりが丁度良さそうだけど。


「どの指に嵌めても、丁度良い大きさになりますよ」


 オジジからの助言が入る。

 大きさが変わる、か。

 もしかしたら、これは何か魔道具的な扱いなのかも知れない。

 俺は真意を確かめるべく、ブカブカになるであろう小指に嵌めて見る。

 すると、するすると指輪は小さくなって、言葉通りにピッタリとなった。


「おー」

「……驚かれている所を悪いのですが、指輪には注意事項が一点ございますのでお伝え致します。それで扉が出せるのは、周囲に魔物が全く居ない事が条件になります。魔物がいる、気配がある、そんな時には扉は出ません。そういう風に造られております。……魔物がこの中に入って来ても困りますので」


 そりゃそうだ。

 つまり、完全な安全地帯のみでしかこの施設は使えないワケね。


「さて、他に何かお訪ねになりたい事はございますか?」


 問われて俺は一瞬唸る。

 もう一つくらい何か聞こうかなっては思ってたけど、また必ずここに来れるって分かったし、焦る必要も無いような気がする。


 うん、そうだ。

 変に思う事があれば、その都度ごとに聞けば良いや。


「特には。あればその時にまた聞きますので。……色々教えてくれてありがとうございます、オジジ」

「オ、オジジ……まあ、そう言われてもおかしくはない年齢ですが」

「んじゃっ」


 ひらひらと手を振って、俺は早足で衣類店へと向かう。

 このお金で足りると良いんだけど……。


ようやく次話で主人公の手に入りそうです。下着。

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