1話目
突然だが俺の名前は小桜勇気と言う。
そして俺は、総勢40名からなる、男子校の一クラスの中の一人だった。
特に容姿が良いワケでも無ければ勉強が出来るワケでも無く……これは非常に月並みな言い方だが、俺は平凡な一生徒だったのだ。
そう過去形なのだ。
長々と説明をしても分かり辛いだろうから、端的に状況を説明しよう。
およそ、以下の二点の出来事が起きたのである。
①1年1組40名+教師1名=41名 体育の授業中に異世界の迷宮らしき所に転移。
②そして、その中でなぜか俺だけ女になってた――つまり女体化した。
なんでこんな事になったのか。
その理由は分からない。
■□■□
この世界にはどうやらステータスなるモノがあって、ここは異世界迷宮らしいと言う事が判明してから、にわかにクラスメイト全員が色めき立っていた。
ここが異世界迷宮なら魔物とかも出るかも知れないけど、ステータスあるし、それって大体チート能力な事多いし、いけるんじゃね、と。
俺はこいつら頭の中がお花畑だなって思ったけど、口にはしなかった。
クラスメイト達はいま現在、自らのステータスを確認しつつ、各々が個別に持っているらしい固有スキルとやらを試していたりしている。
ゲームとかWEB小説っぽい展開だからかな、どことなく楽しげな雰囲気が漂っている。
ただ、全員が全員楽しげと言うワケでも無く。
その中でたった一人だけ、対照的に沈んでいるヤツもいて。
俺だ。
だって、異世界転移以上のショックだったんだ。
俺だけ女体化した状態で転移って……。
髪は伸びるし背は縮むし、胸も出来ちゃうし、男の大事な部分が消えるし……。
正直泣きそうだった。
でも泣いてもどうにもならなさそうなので、
俺はジャージの裾をぐっと伸ばして、
体育座りになって自分の顔を隠していた。
……夢なら覚めてくれ。
■□■□
体育座りのまま丸まっていると、不思議と時折クラスメイト達からの視線を感じた。
最初はこんな体になった俺を気遣ってくれてるのかなと思ったけど、よくよく見ると何かねっとりした目つきで、視線が顔とか胸とか尻に向いてるのが分かった。
なんと言うかその……女を見る目だった。
異世界転移と言う状況に対して楽しげな雰囲気を出しつつも、何故かクラスメイト達は合間合間にそういう視線をこちらに向けて来た。
正直……何か気持ち悪くて吐きそうだ。
「おい、勇気、元気出せ」
うぅ、と呻いていると、話しかけられた。
顔を上げてみると、ゴリの愛称で親しまれる体育教師(40歳)が居た。
あだ名にふさわしい程に筋肉まみれの肉体で、非常に毛深く、背も高くて何かこう暑苦しい。
まあ面倒見は良い人だし、悪い人では無いのは間違い無い。
よく生徒の悩み相談を受けていたり、尻を叩いて激励するような男だ。
特に視線がねっとりしてないので、
俺を見る目に生徒に向ける以上の感情は無さそうに見える。
「ゴリ……俺、どうしたらいいんだろう」
だからか、俺は思わず弱音を吐いてしまう。
「随分美人な女になったんだし、別に良いんじゃないか?」
「え?」
「鏡が無いと分からないか。お前、凄い綺麗な女になってるぞ? 出るとこ出ててスタイルも良さそうでよかったじゃないか」
何言ってんだよ。
おいおい待てよ、まさかゴリまで実はそういう目で……?
「ちょっとゴリまで、やめてよそういう目で見るの……」
「客観的な事実を述べたまでだ。俺は女『には』興味が無いから、特に変な目で見てないぞ?」
……安心した。
どうやらゴリは俺の事を女としては見ていないようである。
もっとも、女『には』興味が無いとか言う、聞いてはいけない言葉を聞いてしまったような気がするけど。
「とにかく、全員で協力して行かなきゃならん。お前も自分のステータスくらい確認したらどうだ。ゲームみたいでワクワクするぞ。じゃあな」
それだけ言うと、ゴリはさっさと他の生徒の所へと行った。
しかし、ワクワクって……とてもじゃないが四十路のおっさんの言葉とは思えない。
が、まあそれはひとまず置いておいて、
ステータスの確認は確かに必要かも知れない。
何せここが異世界なら間違いなく魔物も出てくるだろうから、
どの程度戦えるか事前に把握しておかねばね。
ステータスの確認方法はクラスメイト達の会話を盗み聞きしてたから分かる。
ステータスと念じると出てくるらしい。
で、試しに念じて見ると出てきた。
――――――――――
氏名:小桜 勇気
性別:女 レベル:0.1
次のレベルまで:0/60
動体視力0.91
基礎筋力0.45
身体操作0.72
持続体力0.66
魔力操作0.93
魔力許容0.78
成長水準3.65
固有スキル 召喚士2.00
――――――――――
うーん。
小数点刻みの数値で表しているのか。
細かくて良いと見るか、面倒くさいと思うか。
つか、性別が女……。
体準拠か……。
まあ性別に関してはどうしようもないから、それはともかくとして、俺のこのステータスは高いのか低いのかどっちなんだ……?
「――うっわ、お前本当に動体視力2.5もあんの!? 高くねぇ? 俺1.3だぞ? ウソついてねぇよな?」
「――ウソついてねぇって。それよりお前の身体操作2.1って方が信じらんねぇよ。俺1.01だぞ? こっちこそウソにしか聞こえんわー」
周りからそんな声が聞こえた。
駄目だこれ絶対低いわ。
女になった影響か?
くそっ。
何か無いか、何か。
聞こえてくる周囲とのステータス格差に苛立ちつつ、俺は改めて自分のステータスを見つめる。
すると……スキルの所に召喚士と言うのがあるのに気づいた。
「……召喚士?」
何だろうと思い、説明出て来い説明出て来いと念じて見ると説明が出てきた。
――――――――――
召喚士
幻獣や魔物――召喚獣を召喚し使役する事が出来る。
召喚獣は最低ランクから始まる。
召喚獣のレベルを上げる事によって、進化させる事が可能である。
スキル値が2増える毎に使役召喚獣を一体追加出来る。
経験値の配分の決定権は召喚士が持つ。
※、召喚獣は異空間に待機させて置く事も可能。
――――――――――
なんか使えそう。
明らかに数値的に非力な俺にとって、召喚で魔物やら何やらを使役して使えるのは願ってもない事である。
強いクラスメイトに頼るって方法もあるけど、
その手段は取りたくない。
ねっとりした視線から察するに、
何を要求されるか分かったものではないでしょ。
「しかし……スキル値が2毎に一体か」
今の俺は召喚士スキルの値が2しか無いから一体しか呼べないね。
最初から沢山呼べれば便利だったのに……。
まあ贅沢は言うまい。
「……とりあえず一体召喚獣を召喚してみよう」
俺は早速召喚獣を一体召喚しようと思い、一覧を出す事にした。
先ほどまでと同じ要領で念じて見ると、ずらっと名前が並ぶ。
かなりいっぱいあるようだった。
しかし、大半が×印になっている。
何でだろうと思い、×印の召喚獣についての詳細を見ようしたら……『条件を満たしていない為、召喚不可』と出た。
どうやら条件を満たしてからじゃないと、召喚出来ない召喚獣がほとんどって事らしい。
幼竜とか言う、いかにも進化のさせ甲斐のありそうな名前も見えたけど、やっぱり条件を満たしてませんって出る。
あの……ただでさえスキル値が2毎にしか召喚獣を一体追加出来ないってのに、これは少し厳しくないですかね?
小数点まで数値があるのを見るに、レベルが上がったからって数値がポンポコ上がるワケじゃないだろうし。
何か俺だけハードモードな感じが……。
うぐぐ……。
ま、まあ仕方ない。
選べる中から選ぶしかない。
ちなみに、今選べるのはこの三種類だ……。
①子犬
②子猫
③子蛇
う、うん。
何だろう。一言で言うなら……しょぼい。
い、いやでもまあ説明には進化ってのもあるし、育てればワンチャンあるかも知れない。
きっとそうだ。
そうじゃなきゃやってられない……。
俺はそうして無理やり自分を納得させると、少しの時間悩んでから、
「よし、子蛇にしよう」
子蛇を召喚する事に決めた。
理由としては、子猫とか子犬だとクラスメイトに舐められるような気がしたからだ。
だって傍に置いていてもただ和むだけじゃん。
あるいは進化していったら凶悪になるのかも知れないけど、そこまで今は待てないよ。
俺は男だらけの中に一人女の体で放り出された事に危機感を抱いている。
だからこそ今回は子蛇一択しか無かった。
もしも仮に襲われそうになった場合、イザと言う時にこいつを出せば怯むくらいするだろうと言う考えなのである。
蛇って男性の象徴らしいですね。