黒曜石
この作品は独自の解釈に基づいて制作されており、時代考証は必ずしも正確なものではありません。あくまでもローファンタジーとしてお楽しみ頂ければ幸いです。
比較的短い作品ですので、お暇な時にでもお試し下さい。
なお、冒頭の【黒陽石】に関しましては、後ほど作中にも出て来ますので、お急ぎでしたら幕の壱からお読み下さい。
黒曜石という石がある。
産地は限定され、火山地帯の水辺で見つかる岩石の一種だ。
脆く割れやすいが、その断面は波打ち、光を受けて艶やかに輝く。
硝子質を示す鋭利な欠片は、金属製品が容易に加工される様になるまでの時代、木製品の加工や弓矢の鏃の材料などに、突出した性能を持っていた。
その生成過程は特殊で、火山活動により流れ出た溶岩が、海などの水辺に達する事が一つの条件となる。
この時、大量の冷水による急激な冷却によって凝固した溶岩の一部には、『結晶構造』が構築されず、硝子質を示す岩石が現れる。
これを【黒曜石】と呼ぶ。
それは結晶構造を持たぬがゆえに、固体でありながら『水』と同様に流体の特性を保つ石。
人の認識には、色も形も手触りも、半透明の黒い石。
しかしもし千年が、一万年が一瞬であるならば、緩やかに形を失い、流れ落ちる石を見る事ができるだろう。
黒曜石、
それは言わば、時を越える永遠の流体。