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アルカディアの境界 ‐空の奏者‐  作者: 絢無晴蘿
Noblesse Oblige外伝 聖ルキアの後悔と鏡の魔王。そして主人公ローズマリア
77/80

すれ違う彼等


ずっと、彼女の事が好きだった。


幼馴染の彼女は、自分と彼といつも三人だった。

いや、人間の気にくわないあいつも含めて、四人。

いつの間にかいつも一緒になった、吠えたてる犬のようにやってくる馬鹿を入れて五人。

そうしてどんどん仲間は増えて行く。

そのなかで、ずっと彼女の事が好きだった。

でも、周りの仲間たちに彼女は微笑みかける。

時にはまるで照れたように怒ったり、顔を真っ赤にして逃げたり。

それは、はた目から見たら恋する女の子に見えた。彼には、分からなかった。気付かなかった。

きっと、彼の好きなんだと、すぐに思った。

相手は始めから一緒にいた、幼馴染の彼。

自分よりもずっと強くて、彼なら仕方ない。そう、諦めた。彼女に聞く事もせず。

だが、幼馴染の彼は彼女の思いを彼はまったく気づかない。それどころか、彼は彼女の事なんてまったく無視を始めた。

二人の中はどんどん最悪になり、いつの間にか幼馴染の三人組は会わなくなった。

それが、十数年前のこと。



だから、彼女を殺してしまうのは仕方が無いこと。

なにも考えられない、壊れてしまった彼は思う。

なんで、幸せになってくれなかったのか。なんで、自分を選んでくれなかったのか。

行き場のないぐちゃぐちゃな願い。

なんで、こんなことになってしまったのだろうかとぼんやりと考える。

目の前で胸元から血を流す彼女も、きっと驚いた顔をしている。

でも、その顔すらもう良く見えない。


はたと、気付く。

自分は、彼女に殺されることに。そして、彼女もまた、自分に殺されることに。


なぜ、こんな結末になってしまったのだろう。


「君のことが好きだった」


もう自分は戻れない。

彼等の元には、戻れない。

なぜなら、彼は仲間たちを裏切ったから。

そして、一番大切だったはずの少女を殺すから。


嗤いながら、彼の心は死んだ。

だから、知らない。


「私も、好きだったよ」


小さな最期の言葉は届かない。

彼の思い人が、彼の事を好いていたことなんて、彼は最期まで気付かない。






目の前でそれを見せつけられた聖女と少年は、ただただ、何も言えずに彼等の(・・・)終わりを見届けた。






仲間だったはずなのに、友人だったはずなのに、なぜ彼等が殺しあわなければならなかったのか。

好きだったはずなのに、守りたかったはずなのに、なぜ彼は彼女を殺してしまったのか。

彼等の様な悲劇は人を変え、場所を変え、様々な形で姿を見せる。


これは、やがて訪れる未来の話。


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