すれ違う彼等
ずっと、彼女の事が好きだった。
幼馴染の彼女は、自分と彼といつも三人だった。
いや、人間の気にくわないあいつも含めて、四人。
いつの間にかいつも一緒になった、吠えたてる犬のようにやってくる馬鹿を入れて五人。
そうしてどんどん仲間は増えて行く。
そのなかで、ずっと彼女の事が好きだった。
でも、周りの仲間たちに彼女は微笑みかける。
時にはまるで照れたように怒ったり、顔を真っ赤にして逃げたり。
それは、はた目から見たら恋する女の子に見えた。彼には、分からなかった。気付かなかった。
きっと、彼の好きなんだと、すぐに思った。
相手は始めから一緒にいた、幼馴染の彼。
自分よりもずっと強くて、彼なら仕方ない。そう、諦めた。彼女に聞く事もせず。
だが、幼馴染の彼は彼女の思いを彼はまったく気づかない。それどころか、彼は彼女の事なんてまったく無視を始めた。
二人の中はどんどん最悪になり、いつの間にか幼馴染の三人組は会わなくなった。
それが、十数年前のこと。
だから、彼女を殺してしまうのは仕方が無いこと。
なにも考えられない、壊れてしまった彼は思う。
なんで、幸せになってくれなかったのか。なんで、自分を選んでくれなかったのか。
行き場のないぐちゃぐちゃな願い。
なんで、こんなことになってしまったのだろうかとぼんやりと考える。
目の前で胸元から血を流す彼女も、きっと驚いた顔をしている。
でも、その顔すらもう良く見えない。
はたと、気付く。
自分は、彼女に殺されることに。そして、彼女もまた、自分に殺されることに。
なぜ、こんな結末になってしまったのだろう。
「君のことが好きだった」
もう自分は戻れない。
彼等の元には、戻れない。
なぜなら、彼は仲間たちを裏切ったから。
そして、一番大切だったはずの少女を殺すから。
嗤いながら、彼の心は死んだ。
だから、知らない。
「私も、好きだったよ」
小さな最期の言葉は届かない。
彼の思い人が、彼の事を好いていたことなんて、彼は最期まで気付かない。
目の前でそれを見せつけられた聖女と少年は、ただただ、何も言えずに彼等の終わりを見届けた。
仲間だったはずなのに、友人だったはずなのに、なぜ彼等が殺しあわなければならなかったのか。
好きだったはずなのに、守りたかったはずなのに、なぜ彼は彼女を殺してしまったのか。
彼等の様な悲劇は人を変え、場所を変え、様々な形で姿を見せる。
これは、やがて訪れる未来の話。




