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学生たちの戦場




「おかしいだろ」

少年は握りこぶしを机に叩きつけて叫ぶ。

「おかしい! おかしい。こんなの間違っている!!」

少年は如月学園に通う高校二年生、寿(ことぶき)(かえで)

学園でも一、二を争う空操師である。

無論、学生の身であり、いまだ戦闘経験の無いひよっこではある。が、疑似ゲードやエネミー襲撃の際の疑似シミュレーションなどの実習を行えば、常に最高の成績を弾きだす。いわゆる、天才と呼ばれていた。

今後は最高の空操師と呼び声高いミントの次代を継ぐ存在になるだろうとも噂されていた。

だから、彼は許せなかった。だからこそ納得できなかった。

「なんでオレは普通のクラスで、あの女が特務なんだよっ!!」

自分は戦える。あの白野梓月よりもやれる。

成績は底辺。授業態度は不真面目。いつだってやる気があるのか無いのかまったく分からない顔をしているあの女よりも、うまくやれる。

それなのに、なぜ。


特務クラスに空操師が行く事は無いとされていた。

生徒の間では、もしも空操師が特務に行く事があったのなら、その空操師がその時点での最高の空操師であるだろうと噂されていた。

もっとも、今回の梓月の移動理由はまったく違うことだったのだが。


『場』は空操師の心を映す。反映する。

未熟な者や心の弱い者がその強い想いで創られた『場』に触発され、『場』に込められた想いに振り回されてしまう事があると報告されている。

彼女は先日、とんでもないことをしでかした。

空操師見習いである彼女は、学園での疑似ゲートの中でのシミュレーションで『場』を創り、柄創師見習いを暴走させるほどの想いを籠めた『場』を創りだしたのだ。

誰かに影響を与えるほどの『場』を創れるのならば、戦場でも使えるのではないか。

ミント達の上司、館石(たていし)は実戦でも使えるかを先日の第一襲撃班とのゴブリン討伐を使って調べていたのだ。


とにかく、梓月を普通のクラスに居たままにしては、また『場』の影響で生徒を暴走させてしまうかもしれない。

その為、すでに柄創師として討伐にでている実戦経験があり、すでにプロと認められている者のいる特務クラスに移動させたのだ。

二年後期からは柄創師三人、空操師一人の四人チームでの実習が増えて来る。

その為の処置だ。


その事を知らない寿はただ苛立ち、周りに当たり散らす。

部屋の中は荒れていた。

自分の『場』を見事にコントロールし、柄創師に合わせていける寿は実は教師たちにすでに認められ、そろそろ実戦に向かわせてもいいのではないかと相談されていたのだが、それを知る術はない。

コントロールをしているのかしていないのかわからないが、他の生徒に害を与えてしまうために梓月は特務に移動させられる。

彼は既に一人前と認められていたのというの一人前ではないがゆえに特務に移動させられる梓月を怨む。なんとも皮肉なすれ違いだった。




第一襲撃犯との討伐の二日後、梓月は正式に特務クラスに移動が決定した。


「……めんどう、だな」

梓月は学園の校門で、ため息をついた。

少数のクラスになればなるほど、話しかけられる可能性が高くなるという事。

昨日の様子から視て、絶対あのコユリとクロム、リクは話しかけて来るに決まってる。

はっきり言って、私の事は構わないで欲しい。

と、言ってもいられない。

彼等にとって、梓月は唯一の空操師で、此れから彼等と訓練を、授業を受けなければならないのだろうから。

憂鬱だ。

ため息をつく。

それでも現実は変わらない。


「あっ、おはようしっちゃん!」

特務の教室、いつものように遅れて入るといきなり声を掛けられた。

先生を含めて五人の教室は少人数用のせまい部屋だ。その中でコユリは手をぶんぶんと振って隣のリクの顔を打っていた。

「いたっ、いたいよコユリさんっ」

「あ、ごめん」

しっちゃん、って誰に向かって言っているのだ。

と言っても、自分しか可能性は無い。

だが、思わず固まりながら、考え込む。

しっちゃん……。

顔がこわばっているのが自分でわかる。

「ほら、こっちの席、さっき準備したんだっ」

「てか、遅くね? しょっぱなから遅刻かよ。こっちは待ってたのによー」

彼等は歓迎しているらしい。

それが、とても

「五月蝿い。私に関わらないでって言わなかった?」

本当に苛立たしい。

と、思っていたら、突然後ろから頭を叩かれた。

「こらっ、心にもないことを言ってはいけませんっ」

「……」

この声は聞き覚えがある。

なんで彼女がここに……いや、そういえば昨日ここに来ていたと思いだす。

「なんであなたがここに居るんですか」

あの第一襲撃班の空操師、ミント。

金髪碧眼、女子に嫉妬されてしまうような美貌をもつ討伐部隊のエース。

空操師ならば一度は憧れる女性、が後ろに居た。

ただ、左腕の包帯が痛々しい。

その原因を思い出してしかめっ面になる。

「な、なんでミントさんがっ?!」

「うわ、生ミント様……」

どうも話し好きらしいコユリとクロムの二人はワイワイガヤガヤと話している。

対する他の生徒、リクは二人の会話をにこにこと笑いっぱなし。トーマに関しては爆睡している。

先生は苦笑中。

これがこのクラスの常なのかとため息をつく。

少人数になったと言うのに、いつもの教室と変わらずうるさい。

「お久しぶりです、綺堂先生。これより四月まで、よろしくお願いします」

どうやら、綺堂と言うらしい。特務クラスの担任なのだろう。

たぶん何度か授業を受けた事があると思うが、記憶しようと思っていないので覚えていなかった。

「うん。久しぶりだね、オーバード君。とりあえず、白野さんは席についてもらえるかな?」

人の良さそうな、にこやかな笑顔。

どこにでもいそうなおじさん。でも、教師だと言われると納得してしまうような人だ。

会話を聞く限り、ミントの教師でもあったようだ。

見た目も名前も外国人だが、日本に長いのだろう。

「さてと、みんなも知っていると思うけど、今日から白野さんがこのクラスに移動になりました。それに伴って、あの有名なミント・オーバードさんが副担任になります。いろいろ経験豊富な子だからね、みんなおもいっきりいろいろなこと聞いちゃいなさい」

昨日もミントの事を聞いて来たコユリはどんどんテンションが高くなっている。

「で、白野さん。自己紹介を」

「……白野梓月だ」

「短っ! もうちょっと、好きな物と趣味と上からの数値を! ちょっと小さめだけど、着やせするタイプですか?!」

「クロム……なんの数値のことかな。内容によっては白野さんの代わりに僕が殴るよ?」

「ひぃっ、す、すみませんでしたああっ!!」

「あっ、私の好きな物は魚。趣味はルアー釣りで、あと数値は上から――」

「あ、ペッたん子ちゃんには聞いてないぜ」

「なんですってぇっ?!」

ほんと、賑やかなクラスだ。

跳び上がったコユリのかかと落としが炸裂する。

それを教師陣は注意もしない。リクとともにほほえましそうに見ている。いい笑顔だ。

いや、ダメだろ。

さらにコユリは見事なアッパーをかます。クロムは沈んだ。

「これ、大丈夫なんですか」

思わず近くに居たリクに聞くとにこやかに言った。

「大丈夫、じゃれあってるだけだから」

「……」

さすが柄創師。

身体を鍛えているだけあるということだろう。

普通の人が喰らったらただじゃすまないような攻撃も、彼等にとっては児戯とは。

今度からなるべく離れるとしよう。

決意するその様子を、リクはにこやかな笑顔で見守る。

はっきり言って、裏がありそうな笑顔で近寄りがたい。

こちらの様子に気づいたのか、リクはにこやかな笑顔のまま首をかしげる。

「どうかしました?」

「……別に」

油断できない気がする。

人を見た目と印象、話しかたで判断するのは早急だとよく言われるけど、それでも彼は近寄りがたい。

こういう人間は苦手だ。

「さて、来て早々の白野さんには申し訳ないけど、明日から普通クラスとの合同演習がある。その時の為に、白野さんの『場』を知りたいのだが、いいかな?」

キドウ先生の言葉に、何も答えなかった。

どうせ、見せることになるのだろうから。



疑似ゲート研究棟。

昨日、トーマを始めとする特務クラスの面々と会う事になったあの施設に来ていた。

無論、特務クラス全員で。

前では引率するキドウ先生とミントが談笑している。

鬱陶しいことこの上ない特務の二人組、コユリとクロムはとりあえず黙って欲しい。

リクは現状維持で微笑したまま。なんとなく恐い。

そして、トーマは……私から離れた場所にいた。

何を考えているのか知らないし、こっちに寄ってこない方が清々するから嬉しい。

そして、目的の場所に来た。


シミュレーションルーム。昨日の小型の疑似ゲートルームとは違う、実習、演習用の大型の施設だ。

その部屋に入ると同時に、ミントが『場』を発生させた。

金の粉が舞うような、視る者によっては幻想的とも言える世界が広がって行く。

横ではコユリがしきりにすごいと連発していた。

守りを重点的にした『場』だ。私の攻撃特化の『場』とはまったく違う。正反対。

此処まで正反対だと、嫌気がさして来る。

「さすが、現代最高峰の空操師……ですね」

リクが前で呟いていた。

確かに、すごいのだ。それが、言葉にできないのが辛い。

『場』と言うものは、その人の思いで変わる。例えば、「守り」に特化した『場』だったとしても、その人の思いの強さで「守り」の強さが変わってくる。

ミント・オーバードの『場』は、「全ての人を守る」『場』である。その防御力はあまりにも強固で、油断さえしなければ下位のエネミーなら無傷で殲滅させることができるらしいと噂である。おそらく同じ願いを持った人が創ったとしても、ここまでの威力はでないだろう。それは体感しなければわからない。

実習で見せられた、教師の『場』とはまったく違う。

本当の人の生き死をめぐる戦場で幾度となく展開されて来た『場』。ミントの想いも、空操師としての責任の重みも、桁違い。

人々を守るために思い続ける意志がそこにはあった。

それが……羨ましいと少しだけ、思ってしまった。

「これが私の『場』護法陣。腕が完治するまではこのクラスのみんなと一緒に実習に行ったりすることもあるので、馴れてもらえると嬉しいかな」

人を思わず微笑ませるような笑み。

一部のファンの間では聖母なんて呼ばれている意味が良く解る。

本当にこの人は……。

「で、梓月さんの『場』は?」

消えていくミントの『場』に、コユリが残念そうな顔をしている。

その横で、リクは笑顔で聞いて来た。

「そうだな、特務に来るぐらいなんだから、すごいんだろ?」

「あっ、お姉ちゃんからちょっと聞いたけど、実戦じゃぁすごかったらしいよ」

「まじかっ? えっ、ほんとどんな『場』なん?!」

この二人、本当に五月蝿い。

彼等を黙らせる意味でも、『場』を発生させることにする。

暗い、ミントと比べたら本当に暗くて淀んだ『場』を。

小さく自分の『場』の名前を呟く。

その瞬間、少しだけ残っていたミントの『場』の余韻を吹き飛ばすように、暗く息苦しい様な空気があたりを満たして行く。

「へー、これが、しっちゃんの『場』かぁ……」

黒い球体が梓月の周囲に浮かび上がると、面白そうにそれをつつきはじめる。

コユリの物怖じしない様子に、少しだけ驚いた。

「ミントさんの奴とは違う意味ですげぇな」

コユリだけでなくクロムは持ち前の好奇心で『場』を観察し始める。

普段ならこの暗い『場』にみな一様に顔をしかめ、嫌悪を示すのだが……珍しいと思った。

「二度目だけれど、見事に攻撃特化にされた戦闘の為に創られたような『場』ですね」

しみじみとしたミントの声。

その通りだ。守りなんて考えていないから。

戦う最中はただ傷ついていくだけ。守りも回復もない。

それが私の願いだから。

「っと、じゃあ、このまま実技をしてみましょうか」

「は?」

突然のミントの提案に、思わず声が出てしまう。

「いいですよね、綺堂先生?」

「うん、そうだね。明日の合同実習では本物と戦うところを見せることになってるしね」

ちょっ、そんな話、初耳だ。

明日の合同実習で戦う?

このメンバーで?

考えをまとめる前にミントは実習用の模造エネミーの要請を早々に行ってしまう。

「そう言う事だから、みんな準備はいいかな?」

準備も何も、こちらは何にも答えていないにもかかわらず、どんどん話は進んでいく。

柄創師四人はと言えば、各々の柄を持ち出してすでに自分の得物の形に最適化させていた。

コユリは鎖で繋がった二つの剣に。クロムは珍しい銃のような物。リクはシンプルな大剣。そしてトーマは自身の身長よりも長めな槍に。

準備万端だ。というより、動きが早い。

まだ一回しか実戦をしていないこちらと比べて何度も実戦に立っているからだろう。

ミントの言葉が終わると同時に動きはじめていた。

こっちは心の準備も何も無い。さすがに、『場』が少しだけ揺らぐ。

そして、何も無かったはずの壁が二つに分かれて奥の空間から数体のエネミーに似た物が現れた。

さすがに本物ではない。ただの偽物(レプリカ)だ。しかし、その動きや姿は本物その物。デモンストレーションにもよく使われている奴だ。

ミントとキドウ先生は既に後ろに下がっている。

やるしかない。といっても、空操師は戦闘に参加しないのが常だが。

武器を持っている訳じゃない。ただ、自分の世界を創るのが空操師のお仕事だから。

「行くぞ」

リーダーなのか知らないが、トーマの令と共に四人が一斉に飛び出した。


戦いが始まる。基本、後方支援の空操師は後ろで待機な為、彼等の様子を観察する事が出来た。

さすが、特務クラスにいる友人なだけある。

まだ第一襲撃班に比べれば雲泥の差だけどもかなり強い。そして、連携が取れている。

普通クラスの実戦経験皆無の同年代とは全く違う動きだ。

戦い慣れしているのだ。

なにより、この『場』に振り回されていない。

ちょっと前にやった時、同じクラスの男子が『場』に振り回されていろいろ大変だったが、この人達はきっと大丈夫。この『場』に影響されない。

そんな確信があった。


今回、相手として出てきた偽物(レプリカ)は以前戦ったゴブリンを模した物だった。

だが、あの時のゴブリンとは違う。

剣のような物、つまり得物を持っているゴブリンや杖のような物を持っているゴブリン。

ゴブリンロードとゴブリンソーサラーだ。

ゴブリンには変わりないから、そこまで強くは無いのだけど。

ただ、ゴブリンソーサラーは厄介だ。空操師の居る場所まで魔法を打って来る。


ゴブリンソーサラーを常に気をつけながら、彼等の戦いの一歩後ろでその様子を見ていた。

ゴブリンロードは五体。ゴブリンソーサラーは二体。対するのは柄創師四人と近距離戦には混じれない空操師一人。

人数的には不利だ。

ちなみに、空操師は戦えないからお荷物。なんてことはない。

居るだけで様々なステータスのアップが見込めるから、プラマイゼロどころか、プラスだからこそ、大抵のパーティには空操師が一人入るのだ。


小柄で、どこまで強そうに見えないリクが大剣を振り回す。

小回りが利かない代わりに威力だけは無駄にあるらしいそれは、ゴブリンロードの横っぱらに当たると相手を吹き飛ばす。

狙ってなのかしらないが、吹き飛ばされたゴブリンロードは後ろで何やら魔術を打とうとしていたゴブリンソーサラーを巻き込んで壁に達する。

その横ではコユリが双剣と鎖を使って上手く攻撃をさばいていた。

対しているゴブリンロードの持っていた得物を鎖で弾き飛ばし、懐に入ると素早く切り刻む。そしてバックステップ。

素手で殴りかかって来たのを難なくかわす。

クロムは銃で持って対戦しているが、ただの銃ではないらしい。

弾丸で相手を威嚇し、接近戦へ。

銃なんだから離れないと危険なのではという考えはすぐに消える。

銃口あたりに刃が伸び、銃剣のような形態に変形したのだ。

そのまま普通に接近戦。時折、遠くに居るゴブリンソーサラーの魔術を止めるために射撃する。

そして、トーマは二体のゴブリンロードを相手取って善戦していた。

リーチの長さを味方に取り、二体のゴブリンロードを翻弄する。

時に突き、時に薙ぎ、時に斬る。


「さすが、特務クラスというだけありますね」

後ろから、ミントの声が聞こえる。

その声は真剣そのものだ。

偽物とはいえ、戦いは戦い。命は落さないまでも、危険なことには変わらないから。


特務クラス、か。

ふと、梓月は戦闘中にもかかわらず考える。

確かに、学生としては強い。

それが、たまらなく苦しいのだ。

胸を焦がすその感情は、たぶん羨望。

とても、羨ましくて。

「――っ、白野!!」

トーマの声が聞こえた。

戦闘中だというのに自分は一体何を考えているのだろう。

慌てて頭を切り替えた時、目の前にゴブリンソーサラーがいた。

クロムが対応していたはずのゴブリンソーサラー。それが、魔術を打つことが出来ないからと無防備な空操師の元まで来ていたのだ。

如何に魔法に特化しているとはいえ、ゴブリンはゴブリン。

その、持っている杖に殴られればただじゃすまないだろう。

だけど……馬鹿なことを。

「シヅキちゃんっ、逃げろ!」

クロムの声が聞こえる。が、別に意味は無い。

逃げるなんてこと、する訳が無い。

「無防備、な訳ないでしょ」

殺してやる。

殺意をもって『場』を操る。世界を変容させる。

周囲の闇――周囲に浮かぶ球体が集まっていった。さらに変形して――一瞬のうちにゴブリンソーサラーを貫いた。

レプリカだというのに、断末魔の叫びをあげる。その声が耳ざわりだった。

さらに、クロムの追撃、というか銃弾が命中。

ゴブリンソーサラーは呆気なく倒れた。

梓月は――そのゴブリンを無感動に見つめて、興味を失ったようにすぐにいまだ行われている戦闘へと視線を向けた。



空操師は戦えない。それが常である。

だが、時折――その理に外れた空操師が現れることがある。


ミントは、ゴブリンが倒される瞬間を見て――やはりとため息をついた。


『場』はその人の空想で出来ている。

ずばっと言ってしまえば、妄想の産物でもある。

戦場に立つ空操師は、その能力を戦闘に特化した形にして『場』を展開いるが、学生や戦場に出ていない空操師見習いのような存在は自分の願いが反映されすぎた『場』を創ってしまう。

例えば、お菓子の『場』。結構前に学園で話題になった少女の『場』には、大好きなお菓子が周囲に漂っていた。

このように、様々な『場』の能力がある。

『場』で無から有を生み出す事はかなりのめずらしく、その能力を持つ『場』を創れても攻撃や防御に使えるような人はあまりいない。事実、お菓子の『場』で出来たお菓子は食べられないし、何ににも使えなかったらしい。

梓月の『場』の先ほどのモノは、あまりにも攻撃に特化しすぎたものだと聞いている。

……それが心配になる。

攻撃に特化しすぎたというよりも……自分の手でエネミーを殺したいと思っているのではないだろうかと。

「すごっ。妙に攻撃特化の『場』だとは思ってたけ……」

クロムの呆気に取られた声が聞こえて来る。コユリたちと騒いでいる。

白野梓月は、エネミーを自分の手で殺したいと願った結果がさきほどの『場』による攻撃なのだが、そのことに彼等は気付いていないだろう。そもそも、空操師は戦わないことを前提とした存在だから。

出逢ったばかりのミントでは、この『場』からそれ以上のことは読み取れない。けれど、それだけではないと直感が訴えている。こんな、暗い負を抱えた『場』は、見たことが無い。

「……深いわね」

白野梓月の闇。それが、とてつもなく深い。

梓月のこの『世界』に込められた願いと思いは、いつか梓月を押しつぶしてしまうのではないか。いつか……壊れてしまうのではないか。

ミントはこれからの少女の未来を想い、憂えた。


そんな中、偽ゴブリン討伐は終了した。



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