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二重世界の修正3


こんな圧力、あの頃に比べたらなんでもない。

そう、鼻で笑った。

眼前で飛ぶ黒い鳥。異質なエネミー。それを、嗤った。


見つけた。


この圧力。この異様な力。

これは、あの時の龍と同じだ。

思わず笑みを深める。


殺してやる。


どうしてそう思ったのか、実は良く解らない。

仇を討ちたいのかもしれない。強くなったことを証明したいのかもしれない。

ただ、目の前のあのエネミーは、死んだ後も許せないあの龍と同じ雰囲気を纏い、同質の力を持っていることが重要だった。

もう、自分はあの頃の自分では無い。

先ほどの会話を聞く限り自分にはアレが使える。本当は忘れたいものだが、それでも勝てるならば使えるものはなんでも使ってやる。

どんな手段を使っても、あのエネミーに勝ちたかった。


一番の理由は、目の前で理郷戸朱を殺された再演をされたからだったが。





ミントは電話を切ると戦局を見る。

現在、戦闘は互角を保っていた。エネミーが元々弱っていたおかげだ。

しかし、それもどうなるか分からない。

なぜなら、あの水晶の様な身体に攻撃が通らないのだ。ミントは守護に特化した支援しか出来ない。攻撃力をあげることが出来ない。

「mint」

自分を呼ぶ声が聞こえて、ミントは思わず身体をこわばらせながら、振り返った。

そこにいたのは、先ほど再会したばかりの兄だ。この戦場には場違い過ぎる。

「な、なんでこんな場所にっ。You must take shelter!《早く避難をしてください》」

場が、揺らぐ。

「Do you think that father died why?《どうして父が死んだと思う?》」

世界が、消滅を始める。

彼は、何を言っているのか。

「そんな、そんなこと、今は関係、ない……」

「You are all bad.」

黒い水晶の凶鳥が、羽ばたく。

「ミントちゃん、どうしたっ?!」

結城の声に、正気に戻る。今は戦闘中なのだ。

空操師である彼女が心を揺らぎ、『場』を消してしまっては結城達も、避難中の住民たちも、危険だ。

慌てて自分を保とうと意識を向ける。

もう一度見た先に、兄は居なかった。

おそらく、幻覚。さきほど左近堂陸から伝えられたばかりだと言うのに、簡単にひっかかってしまった。

頬を叩いて気を引き締め、支援に徹しようと意識を向けた。


羽ばたいたエネミーは若干浮き上がると、一騎達を煩わしそうに睨む。

そして、一瞬の溜め。突如、大きく羽ばたくと鋭利な刃物のように変化した黒水晶が一騎達に襲いかかる。

黒い雨にも似たその攻撃に、柄創師達は動けない。いや、動いたら一瞬のうちに死ぬ。そう判断していた。

今、助かっているのはミントの護法陣のおかげなのだ。普通にしていても守備力が上がるが、さらに光の盾が現れてその黒水晶から守る。

慌ててミントは護法陣から守護法神に『場』を変化させる。

あまりにも攻撃力が高い。普通のエネミーの数倍以上だ。

もしもここにいた空操師がミント《最高の空操師》でなければ――そんな嫌な空想を美津於は抱く。

おそらく、何もできずにこの攻撃で死んでいた。

それほどだった。

弱っているのにこの攻撃力。認識を改めなければならない。

ようやく凶器の雨が降り止むと、エネミーは疲れた様子で地面に落ちる様に着地した。

そこを迷わず結城が反撃に出る。

スタンダードな剣でその翼を壊そうと振るって――弾かれた。

むしろ、その衝撃で結城は手を押さえる。

かなりの硬度。想定していなかった事態に結城はすぐに距離をとろうとするがその翼が震えて結城を吹き飛ばす。

「おいおい。それってありですかっ? 硬すぎだろっ!!」

飛ばされた結城の元に駆け寄ると、美津於は彼を守る様にエネミーと対峙する。

そこまで怪我は無いらしく、結城は起き上がる――が、その身体にはエネミーの身体を触った際に出来た切り傷が出来ていた。あの鋭利な水晶が、ミントの『場』の守護を破って傷つけたのだ。

後ろで支援に徹するミントが息を飲む。

誰かが傷ついた。それはミントの思いが負けた、と言う事だ。

空間の空気が変わる。ミントの世界が、変わっていく。

さらに守護を意識した世界に、光が世界に満ちていく。


が、それだけでは意味が無い。


「くそっ、攻撃が効かねぇとか……なんなんだよっ」

美津於が攻撃を繰り出しながら叫ぶ。

守護だけでは、勝てない。攻撃が通じない。

『こちらクルハシ。別に出動していた第二部隊がそちらに合流します。その後、第三部隊、第四部隊が援護に周ります』

通信から久留橋の声が聞こえて来る。それは、ありがたいことなのだが、それでも攻撃が通じないのでは意味が無い。

また、黒い水晶の鳥が羽ばたく。慌てて回避する彼等の元に、第二部隊として出撃した万由里とガーメント、他の柄創師たちが合流する。

「こんどは、一体どんな攻撃をしてきやがる……?」

ガーメントが槍を構え、守りの姿勢に入った。先ほどの攻撃を遠目から見ていたからだ。他の柄創師達も同じように攻撃に備える。

が――、その攻撃は彼等に向かう事が無かった。

突如、身体を回転し、旋風の如く風を巻き起こしていく。そのまま、周囲を一層。

言葉にするとそれだけのこと。それだけのことで、周囲に在った建物が根こそぎ吹き飛んでいく。潰れていく。破壊されつくしていく。

その衝撃と激風に、柄創師達は吹き飛ばされていく。どうにか自分の武器を地面に刺して抗おうとする者もいたが、飛んでくる破壊された建物の破片に攻撃を受けていく。

残ったのは、一面が瓦礫に覆われた戦場だった。

どこからともなく、人々の呻き声や叫び声が聞こえて来る。

「……そん、な」

自分の身を守っていた光の盾が消え去り、無傷で姿を現したミントは、ただその現状に絶句をしていた。

自分の『場』が、まったく役に立たなかった事は無いだろう。それでも、この惨状は――。

先ほど合流したばかりのはずの柄創師が、ボロボロになりながらも立ちあがり、元凶を見上げる。


黒い水晶の鳥。それは、悠然と太陽を背に、ミント達のはるか上空を飛行していた。

届かない。ああ、あのエネミーに、敵わない。そう、誰かが――


「絶対に勝利する。負けなんて許さない。なぜなら、それが確定された未来だからっ。確定され、完結された未来が変わることなんてないっ」


「白野さんっ?!」

ミントが振り返った先にいたのは、すでに臨戦態勢を整えている陸と冬真。そして――梓月。

空操師である彼女が、ここに来るのは非常に危険だ。

ここにはすでに空操師――ミントがいる。それなのにっ。

「ミントさんの『場』のおかげでどうにか戦える相手に、お前が来ても意味ないだろっ。おい、白野っ」

冬真が梓月を止めようと説得していたらしいが、どちらにしろここに来てしまった。

陸がすみませんとミントに謝る。

「でも、このままじゃ勝てない。さっきみたいな攻撃が直撃したら、全滅」

「だからって、お前の『場』じゃ瞬殺だろっ」

「なら――二つの『場』はっ?!」

「は?」

空操師の二つの『場』は、同じ場所で創りだす事は不可能である。

しかし、それに否を唱えた研究者がいた。

すなわち、多重世界の展開ハーモニクス理論。

「そんなっ、一度も成功していないのにっ?」

それどころか、試した事は一度しかない。それを、今、この戦場で行う。そんな事をしたら、どうなることか分からない。

もしも失敗したら? もしも、どの『場』も消えてしまったら?

どうすればいい? 

そんなミントの叫びも似た問いかけを、梓月はばっさりと切り捨てた。

「いいからっ、やるの? やらないの?」

「私は……」

揺らぐ。心が揺らぐ。

このままでは勝てないかもしれない。でも、だからといって、ハーモニクス理論が成功するとは限らない。

むしろ……。


『ミント……父が、死んだ』


フラッシュバックする。

あの厳格な父は、何時もなんと言っていた?


『お前に人の生き死にを任せることなんてできない。さっさと辞めてこちらに戻ってこい』


「……できま、せん」

この状況なら、まだミントの『場』だけでも、乗り切れる。

ミントの『場』なら、まだ。

守護法神の中で、人が死んだことは無い。それが、この世界に込められた願いだから。

だから、今回も。

「なに言ってんのっ?! ふざけないでっ!!」

梓月がミントの腕を掴んで、引き寄せる。

顔をあげたミントの目の前に広がっていたのは、戦場。見渡しの良くなってしまったそこで繰り広げられる死闘。

誰もが、傷ついていた。

普通なら、ありえない。

なぜなら、ここは傷つくことをよしとしない世界だから。

なら、なぜ傷ついている?

あのエネミーの強さ、そして……ミントの心が揺らいでいるから。

「わたしは……わたし……私は、誰かが死んでほしくないっ。だから、そんな危険なこと、できませんっ」

それでも、ミントは首を振った。

「ミント、さん?」

冬真が、問いかけた。

おかしい。

目の前のミントが、なにかおかしい。そんな、気がして。

ミントは、こんな人だっただろうか?

こんなことで、心を乱すような人だっただろうか?

「私は、自分勝手なんです。自分のために、誰かが死ぬ場所を見たくない。誰かが傷つくのを見たくない、よわいひと、なんです」

「そんなの、誰だってそうでしょ? 自分のために世界を創って何が悪い? 私は、自分のためにこの世界を創る。誰だってそうじゃないのっ?! 自分のために強く、自分のために殺しつくす結末をっ、自分のためにっ」

ミントの腕を放して、梓月は冬真に目を向けた。

「てことだから、支援して」

「は? え、ちょっとまて、なんだ、その話の流れ?!」

「だ、か、ら、今から守護法神に私の『場』を創るから、それをどうにか調律しろって言ってんの。そういうことしか出来ない『場』でしょ」

「訳わかんねぇよっ?!」

そういいながらも、『場』を創る様子を見せて居る冬真は、なんだかんだいっても分かっていた。

二つの世界を重ねる。それはこれまで成功した事は無い。

なぜなら、二つの『場』は反発しあい、消えるか暴走するかが常だったから。

しかし、それを変えた存在がいる。――矢野冬真。

不安定ながらも、誰かの『場』の支援をする、『場』。

実は、梓月以外の空操師とも行って成功している。

イレギュラーなその『場』はハーモニクス理論とは少々違うが、二つの『場』をその場所に創りだす事に成功している。

「『場』を支援するなら、あんたの『場』で私達の『場』が消えるのを止められる。かもしれない」

「……それで、おれに力を貸して、か」

先ほど言われた意味がようやく分かると、冬真は仕方が無いとばかりに笑った。

「その代わり、成功しろよ」

「誰に言ってるの」

「出来ることを出来ない出来ないって言ってた白野梓月に」

「……」

無言で梓月は明後日の方角を見る。

そして、小さく呟いた。

「ありがと」

「……っ?! お、おう?」

それを、ミントは静かに見て居た。

梓月は、変わった。

そう、最初の頃とは違う。


暗い世界が広がった。


死をひたすら望む、死神の様な世界が、展開していく。


それが、真逆な性質の守護特化の世界と、反発していく。

慌てたのは戦場の柄創師だ。

空操師の『場』が二つ。それが意味する事は、消滅か暴走か、ミントの『場』がその『場』を消すか。

どちらにしろ、『場』の支援が消えるのは今、まずい。

慌てた結城はミントを見るが、ミントは新たな『場』を創りだす白野梓月を止める様子もなく見て居る。

おそらく大丈夫だ。あのミントが何も言わずにいるのなら。

そう、判断して敵へ向かう。

今は、この巨大な敵の一動に注意を向けなければ――死ぬ。

彼等の戦いは、まだ始まったばかりだった。



世界が、変わる。

暴走、消滅、侵蝕、侵略、それのどれでもない異変。


ありえないことを実現する。

幻想を、現実に。虚実を事実に。

守護と攻撃。相反する世界が、重なる。多重の世界が創られていく。

無論、それが歪む。ありえないことを実現にするなんて、そう簡単にできることではないのだ。

だが、そんなこと、分かっている。以前だってそうだった。

でも、今回は違う。

隣には、可笑しな『場』を操る空操師がいる。

「……ったく、マジでやるのかよ」

そう言いながらも、その『場』を創りだした。

名前のない、小さな世界がその歪んで消えかけている二つの『場』を支えるために創られていく。

あるのかないのか分からないほど、効果はじみだ。が、それでも本人達は分かる。



二つの世界が、戦場を覆う。




騒がしい部屋に、奇妙な白衣の青年がいた。明らかに場から浮いていた。

周りは誰も彼も忙しそうに作業を行っていると言うのに、彼はモニターを食い入るように見つめている。その後ろには、彼に付き添う少女が一人。

「ふふっ。あははははっ。なるほどねっ。まさか、本当に実現できるなんてっ! 私の理論は間違っていなかったっ!」

人々が忙しい忙しいと言っている中で、奇声を発しながらテンションをあげていく。もう、周りは一斉無視である。彼にかまっていられるほどの余裕はない。

ただ、五月蝿い。

「よしっ、しかしまだまだ改善のよりはありそうだねっ! それにしてもあの半端君が意外と役に立つなんてっ。ふふっ、このぶんならさらに発展して理論を展開できそうだねっ!!」

「そうですね、きょうじゅ」

それを、愉しそうにリコリスは見て居る。

時折合いの手まで入れる始末だ。

オペレーターとして五年、もう六年になるか、古参といってもいい久留橋がしょうがなく動く。

「……教授さん」

「おや、どうしたのかね、オペレーター君」

「私は久留橋です。それより、今はここから出てって下さい」

「え」

なにやら抗議の声が上がるが、問答無用。

助っ人として呼んだ数人が外からやってきて、彼を外に追い出す。

とりあえず、静かになる。

外から抗議の声が聞こえて来る気がするが、先ほどの様に五月蝿くは無い。

とりあえず、自分の仕事に各々戻っていった。

たしかに『場』が二つ出来るなんて言うびっくりな現状。興奮するのは分かるが、戦場で戦う彼等を支援する者たちとしては、そんな事はともかくアンノウンのエネミーをどうにかしないといけない。別に変化した『場』が柄創師達に不利になるような物でもない様なので、放置である。

そんななか、実は静かにしていたために見逃された存在がいた。

そう、教授の助手リコリスである。

静かに、移り変わっていくモニターを見上げて居る。

黒水晶で出来た鳥型のエネミー。様々な角度で写される戦場。幾つものモニター。その向こうで行われる戦闘。戦いの衝撃で壊れたカメラから送られてくる黒い砂嵐。

そして、一人の女性。否、エネミー。

「……ミリアルズとシェイド、か」

普段見せない笑みを見せて、彼女はそっとその部屋から立ち去った。己の親愛なる教授の元へと、足を進めた。

そして――


「そろそろ、頃合いだろう? アルカディア。さっさとこの状況を治めてくれ」


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