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方向音痴少女の外出

「おはよう~」

「にゃ~」

『おはよう(おう)(おせえよ)』


 起きると、既に華ちゃんも柊さんも起きていて、布団の上で寝ていたモモちゃんを抱えて降り挨拶をすると、母さんと華ちゃんは普通に返してくれた。修くんも、まあ、普通だと思う。でも、柊さんの「おせえよ」はどうかと思う。


(まあ、いいや)


 修くんは、また母さんの手伝いをしてくれている。華ちゃんは本を読んでおり、柊さんはテレビを眺めている。

 私は椅子に座りながら言った。


「遅いって言っても、まだ七時だよ?」


 休日にしては早いと思うけど。


「遊ぶ時間が少なくなるだろうが」

「遊ぶって?」

「今日は、わたしたち全員で遊園地に行くことになった」


 聞き返すと、華ちゃんは簡潔に説明してくれた。


(それは、良いけど……遊園地か、私にとっては危険な場所だな。可愛い物も結構あるから、それに気を取られてあっちに行ったりこっちに行ったりしちゃうし。前に三人で行った時も、何度迷いそうになったことか)


 詳しく聞くと、発案者は母さんらしい。

 高校生は一生に一度しかできないんだから、休みはの日は家にいるんじゃなくて楽しいことを見つけて思いっきり遊びなさい、と。


「勉強は最低限やっていればいいわ。わたしも高校の頃は、いつも修くんに連れ出されて色んな所に行ったから……楽しいことは沢山経験しないとね」


 確かに。

 私が産まれた後も、父さんのそのアグレッシブな所は変わらず健在だった。私も母さんも休みの日はいつも父さんに起こされて、眠い目を擦りながら準備をして、でき次第引っ張って行かれた。

 何も知らない人が見たら誘拐に見えてたと思う。


(今では良い思い出だけど)


 父さんの遺影を見ながらそんなことを思う。



 行き先は、この辺ではメジャーな「マリンゴールド」と言う遊園地で、水を使ったアトラクションが全体の約七割くらいを占めている。だからなのか、普通に園内を歩いているとどこからか突然水が飛んでくることがあるため、雨具を持ってくることを、園側も勧めている。


 それなら入り口で配れば良いのに、と思うけど、要らないと言う人もいるからね。

 ちなみに私たちは要らない方です。


 父さんがね、


『いつ飛んでくるか分からないから楽しいんだろう!』


なんて言っていたからか、私も母さんもそう思うようになった。


(うん、何度ずぶ濡れになったことか……)





「到着!」

「うるせえ」

「あいた」


 遊園地に着いて、声を張り上げると柊さんに叩かれた。なにげに力が強く、結構痛かった。

 後頭部を押さえながら、鞄のチャックを少しだけ開けると、そこからモモちゃんが頭だけをひょっこりと出して、辺りを見回す。可愛いな~。そして、私と目が合うとにゃ~と鳴き、また中に引っ込んだ。


「モモってさ、オレ達の言葉分かってるよな?」

「うん。そうとしか思えないよね?」

「世の中面白い猫ってのはいるもんだな」

「そうね……大人しいし、意思をハッキリ表現するものね」


 母さんの言葉に、昨日風呂上がりに頭に飛び乗ってきてすぐに降りたモモちゃんを思い出す。華ちゃんの言ったとおり、濡れていたからだろう。

 今の所、私が知っているモモちゃんの意思表示は、これと、もう一つは昨日の朝にモモちゃんを降ろそうとした時。降りるのを明らかに嫌がっていた。


「ほら、モモについての考察は後にして、早く中に入るぞ?」


 柊さんに言われて、私たちは入場券を買い中に入った。休日と言うこともあってか、やはり中は外よりも多いに盛り上がっていた。

 懐かしい感覚に浸っていると不意に右手首を握られて、見るとそれは修くんの手だった。面倒をお掛けします。

 それを見て、母さんが若いって良いわね……なんて言っていたけど、母さんも十分若いと思う。とりあえず、絶叫系を先に済ませようと柊さんが言って、私たちはジェットコースターから乗ることにして、その後も色々乗りまくった。


 で、その結果



「……」



修くんが限界を迎えました。


「だらしねえな……あれくらいでダウンしやがって」

「お前な! あれで、ダウンしない方がおかしいだろ! なんだよあれ! 一回機体が宙に浮いたぞ!」

「それくらいで一々騒ぐなよ」

「『くらい』、で片付けられるか! もし落ちたらどうすんだ!」

「落ちる訳ねえだろ? ちゃんと計算とかされての設計なんだからさ」

(うん、確かに)


 というか適当にあんな物を作られたら、その遊園地は信用を一気に失うと思う。


 言い合っている修くんと柊さんはとりあえず置いておいて、


「お昼どうする?」


私は華ちゃんと母さんに聞いた。

 今、関係ないことだけど、この二人並んでると姉妹に見える。


「ハンバーガーか何かで良いんじゃない? この後に乗るのは、そんな叫ぶ物じゃないし、少し重い物食べても大丈夫でしょ?」

「そうだね。華ちゃんもそれでいい?」

「いい」


 という訳で、お昼はハンバーガーに決定した。けど、修くんと柊さんがまだ言い合っていたから、私たちはベンチに座って終わるのを待つことにした。



「空が青いわね~」





昼食を済ませてからは、メリーゴウランドやコーヒーカップと言った大人しい乗り物に乗って遊んだ。陽が傾いて来た所で、最後の占めに観覧車に乗ることにして、私と修くん、母さんと華ちゃんと柊さんで分かれて乗った。


「楽しかったね」

「ああ。……昨日の夜さ」


 答えた修くんが急に話題を変えた。


「柊が下に来たんだ」

「え、そうなの?」

「ああ、なんか眠れなかったらしい。それで、テレビを見ながらお前のことどう思ってるかって聞いたんだ……なんて言ったと思う?」

「え~……柊さんでしょ? う~ん…………生意気?」


 言うと修くんは、自覚してたんだな、と笑いながら言って答えを教えてくれた。


「『子供っぽい』ってさ」

「え?」

「意外か?」

「うん……もっとむかつくこと言われるかと思った」

「はは。なんかさ、自分が言ったことに一々突っ掛かってくる所とかが、そう思うんだとさ」


(そんなの向こうだって同じじゃん)


そう思ったのが、なんとなく分かったのか、修くんはまた笑った。


「似たもの同士だって、海野が言ってただろ?」

「うん。不本意だけど」

「向こうもそう言ってたよな? でもさ、本心は分からないだろ? 今はそう思ってても、いつかは二人とも素直にそう思う様になるんじゃねえか?」

「ならないと思うけど」

「まあ、いいじゃねえか。そんでさ、そう言った時、あいつ笑ってたんだよ。無意識かどうか知らねえけど。だから、本心ではお前のこと、嫌ってはないんだろうな……それに、少しでも嫌ってたら、昨日の時点で家に帰ってるだろうし」


 そう言われると、確かに、って思う。


「…………」

「オレ達さ、昨日会ったばかりだろ? それなのに、今はこんなに近くにいる」

「あ、そっか」

「これも、柊と話したことだけど……面白いよな?」

「…………そうだね」


 外を見ながら言った修くんの言葉に、私も外を見て答えた。




 私たちを乗せた観覧車は、その後もゆっくりと廻っていた。




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