方向音痴少女の入浴
「どうして、一緒に入るかな?」
「広いんだから良いだろう? ケチケチすんな」
「だからって浴槽に三人で入ることはないと思う」
「「………………」」
私がお風呂に入ろうとしたら、何故か先に柊さんと、柊さんに引っ張ってこられたであろう華ちゃんがいた。流石に修くんはいなかったけど。
まあ、結局流れで一緒に入ることになり、順に体を洗ったのは良いけど、その後、何故か三人一緒に浴槽に入った。
(いくら広いって言ってもね?限度はあるんだよ)
「三人は、狭い」
全く以て華ちゃんの言うとおり。
「だいたい、柊さんは考えが単純なんだよ……普通に考えれば三人は狭いこと位分かるじゃん」
「ハッ。学校にもまともに辿り着けないお子ちゃまに言われたくないね」
「それはすいませんね? なにぶん、そちらより少しばかり子供な物で」
「ホントに子供だな? 出るとこは出てないし」
「なによ!」
「なんだ!」
「二人とも、わたしを挟んで怒鳴らないで。うるさい」
「「あ、すいません」」
立ち上がってすぐ華ちゃんに言われて、私と柊さんはゆっくりと、また湯船につかった。学校でもそうだったけど、華ちゃんってハッキリスッパリ言うから、反論の余地がないんだよね。と、考えていると視線を感じ、見ると柊さん私を睨んでいた。
その目は、お前の所為で怒られただろ、と言っており、その目にお互い様でしょ、と返すと先に吹っかけてきたのはお前だろ、と返ってきたから、また、乗ったのはそっち、と返す。
「(て、なんでこんな目で会話してるんだ私たちは……)あ、華ちゃん、私たちのクラスの先生ってどんな人?」
職員室に行った時も離したのは教頭先生だけだったから、担任どころか他の先生すら分からないんだけど。
「黒いスーツを着た女の人。自己紹介で、友達がいないから仲良くしてください、と言っていた」
(……どうなんだろう、それは。先生として、というかそんなことを自己紹介で言うのは)
「貴女と千同くんがいつまで経ってもこないから、何かあったのかと終始心配していて、最後は半泣きだった」
「うん、来週はまず謝りに行こう」
修くんに引っ張って貰って。
「全く、なにやってんだかな?」
「そういえば、柊さんの担任はどんな人なの?」
挑発っぽいことを言われたけど、乗るとまた華ちゃんに怒られるから話しを変えた。華ちゃんがいない時ならいつでも受けて立つけど。
「ん? まあ、普通の奴なんじゃないか?」
「知らないの?」
「興味もないからな…………それに、教師だろうと何だろうとあたしに近づく奴なんて、物好きはいないよ」
「そうかな?」
確かに言い合ってばかりだけど、この人は一緒にいても嫌な気分になる人じゃない。出会いはあんなだったけど……うん、それはおいておこう。思い出すと少しむかつくから。
「私は柊さん、別に嫌いじゃないけど?」
気を遣う必要がないし、華ちゃんのお姉さんで先輩ということしか知らないけど、なんかそんなのどうでも良いとも思うし。
「あたしのことを知ったら、すぐに嫌いになるさ」
「ならないよ」
「どうして言い切れる?」
「勘」
なんだよそれ、と柊さんは吐き捨てる様に言って立ち上がった。続いて私と華ちゃんも立ち上がる。蓋をして、脱衣所でまた少し話しながら、体を拭いてパジャマを着る。柊さんは私のパジャマを着て貰って、華ちゃんは母さんの服を着て貰った。
脱衣所から出ると、そこではモモちゃんが座って待っていた。私を見て、すぐさま頭に飛び乗る。まさか一足飛びとは……流石猫。でも、すぐに降りた。
「にゃ~」
「濡れているから」
「あ、成る程」
納得して、抱きかかえると、すっぽりと腕に収まった。リビングに入ると、母さんと修くんが楽しそうにおしゃべりをしていた。
「母さん、上がったよ?」
「あ、ええ。修輔くん、先に入る?」
「いえ、オレは最後で良いッス」
「そう? じゃ、先に頂くわね?」
「はい」
それから、母さんはリビングを出て行った。テーブルに座り、何を話していたのか聞くと、私の小さい時の話しなんかを聞いていたらしい。そんなの聞いても、なんの得にもならないと思うけど。
「中学ん時に、二駅離れた隣街まで行ったんだって?」
「そうなんだよね……晴ちゃんがいたから良かったけど、一時はどうなるかと思ったよ」
「ある意味すげえな。あ、そういやさっき、お袋さんにこの髪が地毛かどうか聞かれたんだけど」
急に話しを変えて、修くんはそう言った。多分、準備をしていた時だろう。何か母さんが修くんに聞いていたし。
「あ、それ私も気になってた。地毛なの?」
修くんは頷いた。
「オレの一家は、どういう訳か親父もお袋も白髪なんだよな」
家とは反対だ。
「最初は、染めてんのかと思ったぞ?」
「その所為で、小中は面倒なことが結構あったんだよ。だから、喧嘩も少しくらいならできるが、人を殴るってのは余りいい気分じゃねえな」
「それは至って普通の感情」
「…………だな。なあ、トランプかなんかねえのか? ずっとおしゃべりってのは、疲れるんだが」
「私はそれでも良いけど」
別に色々話すのは苦じゃないし。まあ、お友達のリクエストには答えましょう。
ちょっと待ってて、と言って、私はトランプを取りに自室に向かった。流石に家の中では迷子にならないから、数分でリビングに戻ってくることができた。
「なんだよ、また迷うかと思ってたのに」
「ご期待添えなくてすいませんね」
「全くだ」
「まあ、来週からは、絶対迷うからもし遭遇したら案内してくださいね~」
「会わないことを祈るよ」
それからトランプをして、華ちゃんが無双した。
「こいつにカードゲームとか、させたら絶対に勝つんだよ」
華ちゃんの意外な一面を知った瞬間だった。
その後、上がった母さんと入れ替わりで修くんがお風呂に入り、上がって来た所で五人でトランプをした。うん、まあ…………強いね、華ちゃん。