方向音痴少女の幼馴染み
「些細なことで言い合って、華ちゃんに怒られて、それを見ている母さん達が笑ってて……そんな夢をね? 見てたんだ。……夢ってさ、『自分が寝ている間に考えてること』、『望んでること』とかって言われてるでしょ? だから、私は柊さん達と一緒にいることを望んでるんだと思う」
「あたしもそうなんだろうな……夢に出てくることは、あまり無いけどさ……お前達といたいとは思ってる。最初はさ、ホント『子どもだな』って思ってたんだよ。ちょっとしたことで突っ掛かってきたりするからな、お前は」
「そうだね」
「でも、それが楽しいんだって思った。別に友達なんて望んでる訳じゃ無かったんだけどさ……気付いたら、ずっとお前達といるようになってた。いきなり家に泊まったり、遊園地に行ったり、勉強会をしたり、夏祭りに行ったり。そんで、今もここにいる」
「うん」
目を覚ました後、なんとなく繋いだ手を離すのが惜しい気がして、そのままベッドに並んで座って、私たちは思っていることを話した。私の膝の上では、モモちゃんがお腹を上に向けて寝転がっている。
「ホント、お前ってガキだよな? 少しのことですぐに怒るし」
「ごめんなさいね? まだまだ、子どもな物で」
笑い合いながら、少し言い合ってやがて無言になる。この沈黙はお風呂に入った時も続いていたけど、嫌な気持ちは全くしなかった。近くにいるだけで、安心できる様な、そんな感じがして……。
お風呂を上がって、二人でなんとか夕飯を作り、モモちゃんも一緒に食べて片付けをする。その後、柊さんは、「帰るよ」と言って、玄関に向かったから見送る為に私とモモちゃんも玄関に行く。
「じゃ、ちゃんと寝るんだぞ?」
「うん。華ちゃんによろしくね?」
「ああ」
玄関の扉を開けて、柊さん外に出ようとする。と、そこで私の携帯が鳴った。
「母さん?」
「どうかしたのか?」
「あ、うん。母さんからメールが来て、『今日は華ちゃんの所に泊まるから、柊ちゃんは家に泊まってね? 桜をよろしく』って。どういうことだろう?」
「……まあ、よく分からんがあたしは今日ここに泊まっていくんだな?」
「うん」
「そか」と言って、帰ろうとしていた柊さんはまた上がった。その時の柊さんの顔が、なんとなく嬉しそうに見えたけど、何だったんだろう?
(まあ、私も嬉しいけど)
どうして母さんが華ちゃんの所に泊まるかは分からないけど、それは明日帰ってきてから聞くことにしよう。
「それで、どうする? 何かするならいいが、トランプばかりでもつまんないだろ?」
ソファに座って、柊さんがそう言った。私は少しの間考え、「柊さんと一緒にいるだけでいいかな?」と言った。すると、何故か柊さんの顔が赤くなっていて、少し面白かった。
「最近、柊さんって赤くなることが多いよね? もしかして風邪?」
「違うっつの。鈍いよな? お前って」
「え~……そうかな?」
そんなつもりが無い私としては、そんなこと言われてもな~って感じだけど。
「まあ、可愛いけどさ」
「え?」
*
菊が、何かあたしを見て固まっているが、どうしたんだろうか?
「おい、どうした?」
「……あ、いや、えっと、その……柊さん、今言ったこと覚えてないの?」
遠慮がちにそう聞いてくる菊。
「言ったこと? 鈍い?」
「その後」
「後?(何かいったか?)」
「か、かわいい……って」
言っていて恥ずかしいのか、みるみる内に菊の顔が赤くなっていき終いには真っ赤になった。見ると顔だけで無く腕まで赤くなっている。
(すげえな。人ってここまで赤くなれんのか)
なんてどうでも良いことを考えながらも、あたしは少し混乱していた。この反応からして、あたしが「可愛い」と言ったことは本当だろうが、百%無意識で言ってる。
と、それはどうでも良くて。
「…………」
赤くなっている菊は、
「可愛いな」
ここまで赤くなった菊は見たことないから、どこか新鮮だ。
「っ」
そして、赤いのにまた赤くなる菊。
「はは」
笑って頭を撫でると、菊は横目であたしを見ながら少し怒った様な顔をした。
「もう……からかわないでよ」
そしてそう言った。
「からかってなんか無いっての。可愛いよ、菊は」
「あぅ」
「にゃ~」
モモも同感の様だ。
頭を抱き寄せて、体を密着させると菊はだんまりになった。借りてきた猫とはこういうことを言うのかも知れない。
(まあ、あたしの家じゃないけど)
あたしも菊もモモも何も言わず、暫く過ごした。
菊の髪はサラサラしていて、さわり心地が良い。シャンプーの匂いもする。
「ひ、柊さん……暑くないの?」
「暑いは暑いけど、殆どお前の体温だろ?」
今の菊の熱を計ったら、かなりの高温になると思う。
「う……だってぇ」
「いいから、今はこうさせてくれ」
「…………うん」
(やばいな。マジで可愛い)
普段と違う菊がここまで可愛いとは思わなかった。
菊の頭をそっと撫でていると、インターホンが鳴った。お袋さんは家に泊まってくるらしいから、帰ってくるのは明日。近所の誰かが来たのかも知れない。菊もそう思ったのか、「私がでるね?」と言って、玄関に向かった。
「くそ。もっと撫でたかったのに」
「にゃ~」
『晴ちゃん!』
と、菊の嬉しそうな声が玄関から聞こえてきた。次いで別の声も聞こえる。
『やあ、菊! 元気にしてた?』
『うん! 久しぶりだね! いつ戻ってきたの?』
『ついさっきだよ。上がってもいいかい?』
『もちろん』
どうやら、幼馴染みの「晴」という娘らしい。だが、あれだな……会うだけであそこまで喜んでもらえると言うのは、羨ましいな。
「ん? 君は?」
リビングに金髪ショートカットの女の子が入ってきた。後ろには菊もいる。
「私の友達。『海野柊』さん。柊さん、この人が前に話した私の幼馴染み」
「双葉晴だよ。よろしくね? 柊」
「ああ。よろしく」
モモのことも話したりして、それから三人で話をしていたが、途中からは菊と双葉の二人だけが盛り上がった。
(あたしは、ここには入れ無いんだろうな……)
話に夢中になっている二人には何も言わず、あたしは菊の部屋に戻って、ベッドに入った。今更遠慮するつもりはない。
「にゃ~」
「モモ。なんだ? 菊といなくていいのか?」
抱き上げて聞いてみると、今度は少し悲しそうに鳴いた。こいつもあたしと同じことを思ったのかも知れない。「二人の間には入れない」。
(あの中に入ることが出来るのは、お袋さんくらいだろうな)
二人のことを知っているお袋さんだけ。
「ま、寂しい者同士慰め合うか?」
「にゃ~」
あたしはモモを抱いて、毛布を被り目を閉じた。
まだ練るには随分と早いじかんだったが、不思議と眠気はすぐに来て、あたしは眠った。
*
「それじゃ、また明日ね?」
「うん。ばいばい」
晴ちゃんは走って家に戻っていき、私はその背中を見えなくなるまで見送り家に戻った。途中、柊さんがいなくなっていて、どこに行ったのか不安になり探しに行こうとしたけど、晴ちゃんから逃げられず動けなかった。
玄関の鍵を閉め、リビングの電気を消して、部屋に入り電気を点ける。
「ん……んん」
「良かった」
ベッドで寝ている柊さんとモモちゃんを見つけて、私は何故か凄く安心した。その後、私もベッドに入りリモコンで電気を消して目を閉じた。
後ろから柊さんに抱きついて。
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