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方向音痴少女のお姉さんは・・・


 ぺちぺちと顔に柔らかい物が触れる感触で目を覚まし、見るとやはりモモちゃんだった。「おはよう」と言って起き上がり、眠い目を擦りながら下へと向かい歯磨きと洗顔をすませる。リビングで少しの間ボ~ッとして、目が覚めるのを待ち目玉焼きを作る。


 今日は割れなかった。ソファの方に運んでモモちゃんのごはんを用意して食べ始める。食べ終わって片付けを済ませ、ソファにモモちゃんと一緒にごろんと寝転がる。


 暫くしてインターホンが鳴り、出ると柊さんだった。リビングに招き入れて、一度部屋に戻り着替えてまた戻る。


「なんでワンピースなんだ?」

「いいじゃん。動きやすいし」

「まあ……つうか、短くないか? 前はもっと長かったろ?」


 前と言うのは、夏祭りに行った日の散歩中に着ていたことのだろう。あの時のは、足首辺りまであったけど、今回のは膝よりも上にある短いやつ。家の中だし、どこにも出かける予定なんかも無いからこれでいいと思った。


「あれは外出用。これは家用」

「分ける必要性は?」

「ない。なんとなくだよ」


 答えてソファに座っている柊さんの隣に腰を下ろすと、モモちゃんが膝に飛び乗ってきた。丸くなって早速眠る体制なっていて、すぐにその背中が規則正しく上下し始めた。


「よく寝るな~。あ、そう言えば、今日は一人なの?」


 少し疑問に思って聞いてみた。


「ん? ああ、なんか用事があるらしいんだが、何の用事かは教えてくれなかったよ……」

「そうなんだ。なんだろうね?」

「なんだろうな? 話は変わるが、課題、進んでるか?」

「あ、うん。昨日、数学と国語が終わった」

「そうか。じゃあ、他の課題で分からない所とかあるか?」


「ある」と答えると、「それを持ってこい」と言われたけど、モモちゃんを仕方なくソファに降ろして部屋に取りに行き、リビングで柊さんに教えて貰いながら課題を進めていった。


 どうせなら一気に片付けようということになり、テレビを見たり、途中お昼ごはんを食べたりして課題を進め、三時過ぎ頃に全部終わった。


「よく頑張ったな?」

「ふぁ」


 頬笑みながら言った柊さんに頭を撫でられ、少し気持ちよくて声が出た。


「お姉ちゃん……」

「は?」

「え? あ! いや、違うの! なんでもないから!」


 自分の発言に慌てながら、課題を纏めて抱え部屋に戻り鞄に詰め込みベッドに倒れる。


(お姉ちゃんって……何言ってるんだろう? 私。うわあ…………顔熱いよぉ)


 その後暫く、私は枕に顔をうずめてひたすら足をバタバタとさせていた。





『お姉ちゃん……』


 菊の言った言葉を思い出す。


「たく……不意打ちにも程があるっての」


 血が集まって熱くなった顔に手を当てながら、横にいるモモを見てみると一声鳴いた。菊の髪と同じ黒い体を撫でると、抜け毛の季節だからか何本も毛が抜ける。抱きかかえると、腕にすっぽりと収まる小さな体。


「お前はいいな……毎日菊といられて」

「にゃ~」


 肯定する様に鳴き、喉を鳴らすモモ。今更ながらに、黒猫に「モモ」と名付ける菊のネーミングセンスはどうかと思う。安直に「クロ」とかだったとしても、「どうなんだ?」と思うかも知れないが。


(しかし、なんだろうな? 確かに、こいつにピッタリな気はする)


 暫く撫でていると、上からバタバタと音が聞こえたが、すぐに収まった。何かあったのか、と思い立ち上がると、モモが先に走っていく。後に続いて二階に駆け上がり、


「菊!」


少し開いていたドアを思いっきり開けて中に入る。


 聞こえてきたのは、


「にゃ~」


と言うモモのいつもの鳴き声と、


「すぅ~……すぅ~……」


菊の寝息だった。


 何もなかったことに安堵して、息を吐く。


「って!」


 冷静になり、改めて見てみると、ワンピースがはだけて下着が見えていた。また顔に血が集まり、熱くなるのを感じながらワンピースを戻してベッドにベッドに背を預けて座る。モモは菊の横で丸くなっている。やはり、菊の近くが落ち着くのだろう。初日は頭に乗っていたし。


 菊の方を見てみると、随分と安らかな寝顔をしていた。


「課題、頑張ったもんな? ゆっくり休めよ?」

「ぅ……うぅ」


 そっと頭を撫でると、そう声を洩らして、菊は身動ぎした。そして、あたしの手を取り寝ているとは思えない程、ぎゅっと握った。


「ひい……らぎ、さん」


 小さな声で、あたしを呼ぶ菊。


 もしかしたら、今見ている夢にあたしが出ているのかも知れない。


(きっと、会ったばかりの頃みたいにギャーギャー騒いでるんだろうな)


 でも、菊の寝顔は柔らかい笑みを浮かべているから、もしかしたら違うのかも知れない。それとも、菊にとってあたしとの言い合いが楽しいのか……それを確かめる術は無いが、それなら嬉しいと思う。

 

 最初は、ホントに「子どもっぽい奴」だと思っていた。


 次は、「面倒を掛ける奴」。


「方向音痴」と「可愛い物好き」という、ある意味最悪の組み合わせを持つこいつは、中学生の頃に二駅も離れた街まで迷って行ったらしいと言うのは、千同から聞いた。その時は、「晴」と言う奴が通り掛かったお陰で帰ってくることが出来たと言うことも。


 でも、一緒に過ごしていく内に、気付けば「もう一人の妹」みたいな存在になっていた。多分だが、これはあいつ等も思っていると思う。みんな、菊が外に出るといつも迷わないか心配しているし、同時に手を焼かされることを楽しくも思っている。嫌っている奴は、誰一人としていないだろう。


 学校では、華達以外の奴といる所を見たことは無いが、菊も華達もそのことに何一つ不満は持っていない様で、毎日笑って過ごしている。


「あたしもそうだけどな……」


『なんかさ……高校って、もっと退屈な所だと思ってたけど、意外とそうでもないんだな?』


 目を閉じて、初めてこの家に来た時の夜、千同が言っていたことを思い出す。


「ホント、その通りだよ。お前が、同じ高校に来てくれて良かった」




「私も――柊さんと同じ学校で良かった」




 声が聞こえて目を開くと、手を握ったままの菊と目が合った。




「「おはよう菊(柊さん)」」



 

 あたしも菊も、頬笑みながら同時に言った。




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