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方向音痴少女のモモとの一日

「それじゃ、行ってくるわね?」

「うん。行ってらっしゃい」

「にゃ~」


 夏休みが始まって一週間。今日は、母さんは近所の人とお出かけに行くから、家には私とモモちゃんだけになる。玄関で見送り、見えなくなった所で入り鍵を掛ける。ソファにモモちゃんと転がって、数分過ごし、


(誰か呼んだら来るかな?)


と思い、みんなにメールしてみた。


 でも、今日はみんな用事があるようで来れないらしい。


『お前の家に行きたくないとかじゃねえぞ? そこは誤解すんなよ? 今日は華と買い物に行くって決めてたからであってだな……明日は絶対行くからな? 家にいろよ!』


 以上、柊さんからのメール。


「そこまで説明しなくても……誤解なんてしないのに。ね、モモちゃん?」

「にゃう」


 モモちゃんに言って、「心配しなくても、誤解なんてしないよ。待ってるからね?」、と返す。返信は来なかったけど、ちゃんと届いただろう。


 それから暇になり、課題を少し進めようと思って、部屋から持ってきてテレビを見ながらちょこちょこと進め、三時間程すると、国語と数学の課題が終わった。早すぎるけど、二学期当日に忘れないように鞄に入れて、下に降りてお昼ごはんを作る。


 まだ、簡単な目玉焼きくらいしか出来ないし、


「う……」


今回も黄身が割れてしまった。


 それをお皿に移してソファ側に持って行き、モモちゃんの銀皿にごはんを入れて昼食をテレビを見ながら食べる。平日のお昼と言うのは、どうにも夢中になれる番組が無くて結局暇だった。


 食器を片付けて、モモちゃんと一緒に部屋に行き、窓を開けて桟に腰掛ける。


「…………………」


 膝に乗っているモモちゃんの背中を撫でながら、ボ~ッと空を眺めて面白い形の雲を見つけたら写真を撮ったりして時間を潰した。暫くそうして過ごして、暑くなってきたからベッドに転がりモモちゃんと戯れる。


 耳をペタンとしてみたり、前脚を手に乗せて「お手」とか「おかわり」とか、高い高いしたりとか。


(もし、将来私に子どもが出来たら、こんな風にして毎日を過ごすのかな?)


 モモちゃんにしながら、そんなことを思う。


(未来のことなんて分からないけど、そんな平和で小さな幸せが溢れる未来だったらいいな)


 机の引き出しに入っていた紐を出して、モモちゃんの前に垂らすと右で猫パンチを繰り出した。次に左。次は右二連発から左一発で右と左で一発ずつ。少し休憩しながら、またパンチをしてきて、偶に噛みついたりもしていた。


 お腹の上で激しく動く小さな体を見て、その可愛さに悶えたりする。


「くぅ~……くぅ~……」


 暫くすると、飽きたのか疲れたのか眠ってしまった。背中をそっと撫でながら、窓の外に目を向けると、さっきより見える量が減っていて青い部分が殆どだった。


 紐を枕の下になんとか差し込んで天井を見ていると、次第に瞼が重くなってきた。


 お腹の上で丸くなるモモちゃんを見ていると、なんだから余計に眠くなっていつの間にか私も眠ってしまった。





 顔にぷにぷにと何か柔らかい物が触れている気がして目を開けると、そこにはモモちゃんがいた。そういえば寝てたんだ、と思い出しモモちゃんに「おはよう」と言うと「にゃ~」と鳴く。


 頭にポンと手を置くと、喉を鳴らしてすり寄せてくる。背中に滑らせて、また頭に戻して背中に滑らせる。そうすると、抜け毛の季節の為、手に黒い毛が大量に付く。窓を開けてパンパンと叩いて落とす。

 

 窓を閉めて、モモちゃんを抱きかかえ部屋を出て下に向かう。


 時計を見ると、時刻は四時少し過ぎを指していた。


「結構寝ちゃったね?」

「にゃ~」


 夜はあまり眠れないかも知れない。


 テレビを点けて適当なチャンネルでストップし、後はなんとなく眺める。五時頃になった所で、母さんから電話が掛かってきた。


「もしもし?」

『菊、ごめんね? 帰るの明日になったの』

「え、そうなの……?」


 母さんが言うには、一緒に行った近所の人が酔いつぶれてしまい車を運転出来る人がいなくなってしまったらしい。どうやら、待ち合わせ場所までは徒歩で向かいそこから車で向かった様だ。


「ごはんは何か出来る範囲で作ってね?」と言われ、「分かった」と返し、少し話をしてから通話を切る。


 お風呂の準備をして、リビングに戻ると携帯が光っていて誰からからメールがあったことを告げていた。モモちゃんも隣で鎮座している。


 見てみると、それは柊さんからで、


『明日、絶対行くからな? 待ってろよ?』


とだけ、短く書かれていた。


『ちゃんと待ってるよ』


 私も、短く返す。


 朝の様に返信は無かったけど、


(柊さんが相手だとこれが普通かな)


って思う。


 テレビをモモちゃんと見ていると、またうとうとしてきてしまったけど、丁度お風呂が溜まったことを告げる機会音声が響いたので、なんとか眠らずに済んだ。


「モモちゃん、待っててね?」

「にゃ~」


 それからお風呂に入って、レトルトのハンバーグを食べた。食器を片付けて、歯磨きをして、テレビもつまらない物しか無いから、部屋に引き上げてまたモモちゃんと戯れる。


 夏とはいえ、夜になると少し冷える為薄い毛布を掛けると、その中にモモちゃんが潜り込んできて、俯せの状態で前脚と頭だけを出した。余りの可愛さに思わず携帯で撮ってしまった。早速待ち受けに設定する。


 今更だけど、夏祭りの時の写真は二枚とも机に飾っている。見る度にその時のことを思い出して、笑ってしまうけど、それは良いことなんだって思う。


「不思議だよね……見るだけで、温かくなるんだもん」


 仮にこの場に、モモちゃん以外の誰かがいても聞き取れない位の声で呟いて、いつも寝ている時間の十一時より一時間ほど早いけど、余計なことをしてモモちゃんを起こすのも憚られるから私も寝ることにした。


 電気を消して、毛布の上からそっとモモちゃんを撫でて目を閉じる。


 昼間に結構寝てしまったことで、眠れないかなとは思ったけど、すんなりと意識は闇に落ちた。



(おやすみ。モモちゃん)



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