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方向音痴少女の夏休みの始まり


 あれから一週間が経ち、期末テストが始まった。初日は現国・数学・世界史・科学の四教科が実施され、さっき二時限目の数学が終わった。私は、柊さんに教えて貰った分もあって、結構すんなり解くことが出来た。

 

 修くんは、隣で突っ伏している。もしかしたら危ないのかも知れない……と観察していると、華ちゃんとさっちゃんが世界史の教科書を持ってやって来た。突っ伏している修くんの背中をさっちゃんがバシンと景気の良い音を響かせて叩き、どこか遠くへ行こうとしていた修くんをこっちに戻して四人で確認を始める。分からない所や、少し忘れた所をなんとか詰め込んで、世界史のテストが始まり、空欄は三つほど出来てしまったけど、なんとか切り抜けた。


 隣を見てみると、修くんは今度は突っ伏していなかった。そういえば世界史は得意だと言っていたな……とぼんやり思い出す。でも、「次は科学だよ」と、言うとそれを聞いた途端、ガン!と大きな音を立てて頭を机に衝突させ、


「科学なんてなくなっちまえ科学なんてなっくまっちまえ科学なんてなくなっちまえ科学なんてなくまっちまえ科学ぶつぶつ……」


と呪詛の様に呟いている所で、またさっちゃんが景気の良い音を響かせた。


 確認と少し問題を出し合ったりして、備え、世界史より空欄は多くなってしまったけど、多分大丈夫だと思う。


 その後、すぐに先生が来て「明日も頑張ってください」と言って、期末テスト初日は終わった。


「みんな、問題解けた?」


 先生の質問にまるで生命力の全てを使い切った様な状態の修くん以外、私たちは頷いた。


「そう……明日からも頑張るのよ?修輔くんは……不安だけど、なんとかなるでしょ!うん」


 それは私たちも同感だ。


 先生はもう一度「頑張るのよー!」と、手を振りながら言って元気に戻っていった。それと入れ替わる様に柊さんが来て、修くんを叩いて覚醒させてからみんなで学校を出た。今まで全く触れてなかったけど、私たちが今のメンバーで校内を歩いていると、道行く生徒がみんな怯えた様な声を出したり、露骨に目をそらしたりしていた。


 もちろん今も。


 コソコソと何か言っている人達もいるけど、私たちの誰一人そんなものは気にせず明日の予習を復習も同時にやりながら、それぞれの家に帰った。




 翌日からのテストも初日同様に過ごして、最終日も無事終了し、後日帰ってきたテストはどれも平均を上回る点数だった。修くんは、科学が赤点ギリギリだったけど、なんとかなった。


 ちなみに二十九点未満が赤点で、修くんの科学は三十点。


(ホントにギリギリ……)


 


 その後、なんやかんやで終業式も無事終わり、一学期は終わった。




 余談だけど、華ちゃんは学年一位でさっちゃんは学年二位と二人でトップツーを飾り、柊さんは学校全体で三位と言う結果を出した。






 

「菊ちゃん……残念だけど、貴女の夏休みは始まる前に終わっているわ」


 テストを返却する時、先生が重い口調で言った。


「え?それはどういう……」


 何も言わず差し出された答案を受け取り、そっと表に返して点数の所を見てみると、




「っ!?」




28、と赤い字で書かれていた。





「いやあああああ!!!」

「にゃ!」


 嫌な夢に、ガバリ、と体を勢いよく起こすと上で寝ていたモモちゃんを驚かせてしまい、凄い早さで床にちゃくちした。


「あ、ごめん!モモちゃん。って!答案!」


 モモちゃんに謝り、慌てて机の引き出しを開けて数学の答案を引きずり出し点数を確認する。


「はあ~~……良かったあ……」


 そこには確かに、76と赤い字で書かれていた。


 安堵した私はもう一度モモちゃんに謝り、抱きかかえて下に降りた。


 歯磨きと洗顔をし、リビングに入って母さんと父さんに挨拶をしてソファに座ると、母さんが「さっき悲鳴は何だったの?」と聞いてきた。


「赤点取った夢を見ちゃって……」

「ふふ。それで、あんなに悲鳴を上げたの?」

「だってぇ~……」

「まあ、確かにね。わたしも偶にあったわ……懐かしいわね」


 言いながら、母さんはオムレツを仕上げて更に移した。モモちゃんを頭に乗せて台所に向かい、手を洗って、そのオムレツをテーブルに運んで、モモちゃんのごはんを銀皿に出して私たちも朝食を始める。食べ終わって、片付けをしている時に母さんが後で少し散歩すると言ったので、私とモモちゃんもついて行くことにした。



 白いワンピースに着替えて、髪を一つに束ね帽子を被り外に出ると暑い陽射しが突き刺さってきた。


 暑いね~、と言いながら母さん、モモちゃんと一緒にゆっくりと歩く。


 犬の散歩をしている人や、ジョギングしている人等、すれ違った人達に挨拶をしながら歩いていると向こうから水色ツンツンさんが歩いてきた。眠いのか、目が閉じられている。


(よく歩けるな……私は絶対すぐ迷うよ)


 なんて思いながら挨拶をすると、


「お~……」


となんとも眠そうな声が返ってきた。


「あれでちゃんと目的地まで着けるのかしらね?」

「大丈夫なんじゃない? 体が覚えてるのかも知れないし(実際ちゃんと真っ直ぐ歩いてるからね)」


 その後、適当な所で引き返そうとすると声を掛けられ、振り向くと華ちゃんと柊さんがいた。どうやら家に来ようとしていたらしく、そのまま一緒に家まで帰ることにして、途中華ちゃんに、


「似合ってる」


と言われて、嬉しかった。

 

 柊さんは何も言ってくれなかったけど……。


 家に着いて、みんなで中に入りまずは手洗いうがいをする。夏風邪なんか引きたくないからね。お茶を飲みながら、テレビを見たり課題をやったりしながら過ごしていると、


「千同達も呼ぶか」


と柊さんが言って、修くん達を呼び出した。二人はすぐに来るらしいけど、先生は補習を任されているからお昼過ぎにならないと来れないらしい。


 二十分程経って、まずは修くんが来て、それから十分程でさっちゃんが来た。でも、修くんは遊ぶ気満々で課題を持ってきていなかったから、柊さんに取りに帰らされ、戻ってきた時は汗だくだった。


(別に走って行く必要は無かったと思うんだけど……)


 お昼頃になって、母さんが昼食の準備を始めると、修くんと華ちゃんも手伝いに行った。


「今日は何作るんッスか?」

「夏だから、シンプルにそーめん。だから、ゆっくりしてていいわよ?」

「そうッスね。あ、器だけ出しておきますよ」

「ありがとう」

「いえいえ」

 

 器を出しながら答え、華ちゃんは台ふきを軽く洗い、絞ってからソファの方のテーブルを拭いた。


「ねえ、さっちゃんは料理出来るの?」

「ん? ああ、少しならな? 弁当も手作りだし、それくらいは」

「え! あのお弁当自分で作ってたの!?」


 衝撃の事実。


「ああ」

「柊さん……私たちも少しくらい作れる様になった方が良くない?」

「…………だな」


 と言うわけで、夏休み中私と柊さんは料理の練習を始めることにした。

 


『いただきまーす』


 みんなで合掌して、そーめんを食べ始める。


「みんなは、夏休み予定とかあるの?」


 私がそう聞くとみんなは特にないと答えた。


「まあ、何もしないのも勿体ないからなリ……今日ある夏祭りでも行ってみるか?」

「神社であるやつ?」

「ああ。結構楽しいと思うぞ? この面子なら」

「確かに」


 柊さんの言葉に修くんが同意した。私もそう思う。


「それじゃあ、夏祭りに行くことに決定ね」


 と、今日の予定が決まった所で家のチャイムが鳴った。


「こんにちは。今日も暑いわね?」

「こんにちは、先生。ホントですね」


招き入れて、そーめんを食べながら今日行われる夏祭りに行くことを話すと、先生も楽しみにしていたのか喜んでいた。







 で、ここ水連神社で行われる夏祭りに来たはいいけど…………


「迷った」


着いてすぐに迷ってしまった。


(やっぱり、いくら近くにいたからって、手を繋がったのはダメだったかな……?)



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