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方向音痴少女の期末対策



「暑い」

「そうね……」


 私が言うと、先生が同意した。今は放課後で、一週間後に迫った期末テストの対策をいつものみんなでやることになったんだけど、まだ私と先生しかいない。早く来ないものか……。


 今の先生の格好は、白い半袖シャツに黒のミニスカートと言う、いかにも夏ですという格好だけど、それでもやはり暑い物は暑いらしい。かく言う私達生徒も、夏服に衣替えしたけど、だからと言って暑さが大幅に減少される訳でもない。


 夏服は、まあ多分他の学校と同じような薄いカッターシャツと少し布が薄くなったスカート。男子も同様で、違いは下がズボンと言うことだけ。


「職員室は涼しいですか?」

「涼しいのは涼しいんだけど……偶に寒いのよね」

「あ、分かりますそれ。でも、切ると暑いんですよね」

「そうなのよ……それに、一歩外に出るとその差がまた激しくて」


 動く気が無くなりますよね~、と言うと、先生はまた同意した。家の中でも、冷房が効いていると外には出たくなくなる。効き過ぎてると、外に出た途端ふらつくこともある。


「あ、そうだ……菊ちゃん、あの屋上の生徒のこと、覚えてる?」

「え? あ、はい。もちろん」


 というか、忘れる訳が無いと想う。屋上でごはんを食べる様になってからは、いつも見ていたし、寝る態勢もいつも殆ど変わっていない。凄いよね。


「あの人がどうかしたんですか?」

「私は詳しく知らないんだけど……あの子、柊ちゃんと同じような存在らしいの」

「てことは、『青鬼』とか呼ばれてるんですか?」


 柊さんは赤鬼だからそう思ったけど、呼び名などに関しては分からないらしい。どうして、その人のことが話題に出たかと言うと、今日先生が三年の授業をしに行って、授業中その人のことを話しているのが聞こえたらしい。


 街の不良を壊滅させたとか、一人で二十人を相手にしたとか……そういういかにもな噂が三年の間では流れているみたいだ。


「じゃあ、授業にも出てないんですかね?」

「多分そうだと思うわ。いつも空いている席があったから……」

「遅くなって悪い……って、まだ二人だけか?」

「あ、修くん。やっほー」


 教室後ろのドアが開いて、修くんが謝りながら入ってきた。手をひらひらと振ってそう言うと、修くんも軽く手を振っていつもの席に着いた。


「何してたの?」

「小腹が減って学食でパン買ってきたんだが、思いの外多くてな。時間掛かっちまった」

「あんまり食べ過ぎないようにね?」

「うい~ッス」


 先生の注意に適当な返事で返して、机から教科書とノートを取り出した。当初の目的を忘れてはいなかったらしい。とりあえず、私たちだけ先に始めておくことにして、私と修くんと先生が座っている三つの机をくっつけた。

 暫くして、今度は華ちゃんとさっちゃんが一緒に来た。図書室で本を探していたらしい。柊さんは、もう少ししたら来るとのこと。


「しかし、暑いな……」


 そう言って、さっちゃんはシャツの第一ボタンを外して下敷きで扇ぎ始めた。修くんもいるけど、大して気にしていないらしい。


(単なる慣れなのか、異性として意識していないのか)

「教室にもクーラーが付けばいいのにね?」

「だよな~……」

(修くんも大して気にしてないみたいだけど)


 華ちゃんは黙々と勉強をしていて、分からない所は先生に聞いて教えて貰っている。そして、すぐに理解して問題を解き、その度に先生は華ちゃんの頭を撫でた。

 

 前に聞いたけど、これはどうやら癖の様なものらしい。気付いたら、そうするようになっていたとか……。


 その話が終わって、数分程してから柊さんがやって来た。何も持ってきていないから、多分勉強する気は無いな。まあ、本人曰く「勉強しなくても点は取れる」らしいし、中間テストも無事クリアしていたから、そうなんだろう。


 華ちゃんに聞くと、昔から勉強は出来ていたらしい。


(はっきり言って信じられなかったな……)


 でも、事実な訳で、


「ん? おい、そこ間違ってるぞ?」


こんな風に少し見ただけで間違いを指摘することが出来る。


「どこ?」


 聞き返すと、わざわざ移動してきて教えてくれた。ついでに解き方も……これがまた分かり易いんだよね。


「柊さんってさ……教える時だけは『先輩』って感じだよね?」

「だけ、は余計だ。他に分からない所とかあるか?」

「えっと…………ない。ありがとね?」

「ああ」


 短く返事をして、さっきまで座っていた席に戻る柊さん。そして携帯を弄り始める。


「教師がいるのに、よくもまあ堂々と」

「クラス委員もいるぞ?」

「今更だろ?」


 修くんとさっちゃんの言葉にどうでも良い、と言う様に答えて、用事が済んだのか携帯を閉じてポケットにしまった。


「柊ちゃん、勉強は大丈夫なの?」

「ああ。大体のことは聞いていれば覚えるからな」


 それがまた本当だからね……。



 五時を回った所で勉強道具を片付け、窓を締めて鍵をかける。確認をしてからみんなで教室を出て、修くんに引っ張られて帰路に着き、みんなそれぞれの家に帰り、私も修くんに送ってもらって家に帰った。


「ありがとう。それじゃ、また明日ね?」

「おう。お袋さんによろしくな?」

「うん」


 手を振って、修くんが見えなくなるまで背中を見送ってから家に入ると、聞こえていたのかモモちゃんがいて、すぐに私の頭に飛び乗ってきた。

 夏になっても、頭にのるのは変わらない。


 リビングでは、母さんが鼻唄混じりに料理をしていた。ただいま、と言うとおかえり、と帰ってくる。


「着替えてくるね?」

「ええ。あ、その前にお風呂の準備お願い」

「分かった。モモちゃん、少し待っててね?」

「にゃっ!」


 返事をして、頭から飛び降りるモモちゃん。それを確認して、私はお風呂に向かい、お湯張りを始めて蓋を閉めた。二階の部屋に行って着替えて下に戻ると、またモモちゃんが飛び乗ってきた。一緒にソファで寛ぐ。


「もうすぐ期末テストでしょ? 勉強の方は大丈夫?」

「うん。先生も柊さんも、教え方が分かりやすいから」

「そう、良かったわね?」

「うん」


 それから、母さんも一緒に寛いで、七時頃に夕飯を食べて、お風呂に入った。


 十時頃になって、そろそろ寝ることにして母さんにお休み、と言って部屋に戻る。モモちゃんは、母さんが寝る時に私の部屋の前に連れてくる、と言うのがいつのまにか定着していたから、問題なし。



 期末テストが終われば、すぐに夏休みが来る。



(楽しみだな……)




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