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方向音痴少女のお姉さん

「菊ちゃんの担任の、『湯前杏』と言います」

「私はクラス委員を務めている『椎名沙織』です。菊からは『さっちゃん』と呼ばれています」

「ご丁寧にどうも。わたしは菊の母親の『百合川桜』です」


 母さんが挨拶をした時、以前の修くん達の様に二人も驚いた。後で聞くと妹だと思ったらしいけど、まあ……無理もないかな、とは思う。

  

 母さん達が挨拶している、その間の短い時間で柊さんは勝手知ったるなんとやらと言った様子で冷蔵庫からお茶を取り出して飲んでいた。修くんはそろそろ昼食の時間だからなのか、材料を漁って何か作ろうとしている。隣には華ちゃんとモモちゃんも。


(ホントいつの間に移動してるんだろう?)


 全く気付けない。


「優しい人ね……」

「ですね。所で、あいつらはかなり好き勝手動いてるが……いいのか?」

「うん。私も母さんも慣れてるから」


 始業式の日以来よく来るようになって、すっかり馴染みごはんを作る時は修くんも自然と手伝うようになったし、華ちゃんと柊さんは泊まることも多くなった。シャンプーなんかは、自分の家から持ってきているみたいで、母さんが遠慮せずに家のを使って良い、と言っても何故かそこだけは譲らなかった。

 

「そうなのか……それにしても……」

 

 台所の方を見たさっちゃんに続いて、私も台所の方を見てみると、そこでは母さん達が仲良く昼食作りをしていた。柊さんは今度はアイスを食べるつもりなのか冷凍庫を開けていて、母さんにお昼を食べてからにしなさい、と怒られていた。


「馴染み過ぎじゃないか?」

「楽しいよ? 気を遣うこととか全くないから。さっちゃんも先生も、好きな時に来てね?」

「…………ああ」

「あたしは、あまり来れないか知れないけど……その時はよろしくね?」

「もちろんです」


 それから、三人でテレビを見ていると暇になったのか柊さんもこっちに来た。私の隣に無理矢理座って、


「今日はオムライスだってさ」


と言った。


「それは良いけど、なんでわざわざ隣に来るかな? そっち、空いてるでしょ?」


 家のソファは長いソファと、短いソファが一つずつあって、長い方には三人は余裕ではいるけど四人は少し窮屈だ。


「良いだろ別に…………嫌なのか?」

「そんな訳無いでしょ? ていうか、今更そんなこと聞く?」

「…………」

「柊ちゃん? 嬉しいなら素直に言った方が良いわよ?」

「そうだな」


 先生が優しい笑顔で言って、さっちゃんも腕を組みながらうんうんと頷いていた。何か嬉しいことがあったのかどうかは分からないけど、柊さんを見てみると顔を背けていて、心なしか耳が赤くなっていた。


「暑いの? 温度下げる?」


 そう聞くと、柊さんはいや、と顔を背けたままで答えた。


「「鈍いな(わね)」」

「え? 誰が?」

「加えて無自覚」

「まあ、女子だからな……許容範囲ではあるだろう。男だった単なるむかつく奴で終わるが」

「それもそうね」


 聞いても答えてくれず、その後も二人で何のことか分からないけど話し合っていた。テレビに視線を戻して、適当にチャンネルを変えていると昔見ていた子ども向けの番組があった。こんな時間にあるのは再放送だからだろう。


 途中で柊さんの方を見てみると、いつもの柊さんに戻っていた。


 暫くして昼食が完成し、テーブルでは収まらないからテレビの方にみんなで座って食べた。いつもと味が違って、聞いてみると華ちゃんが作ったそうで、美味しいと言うと嬉しかったのか顔が赤くなっていた。


「後でお買い物行くけど、みんなはどうする?」


 食器を柊さんと分けて纏めていると、母さんがみんなに聞いた。片付けの手を止めずに私も柊さんもおついて行く、と返事をし、修くん達も行くと言ったから、三時頃にみんなで買い物に行くことになった。


「にゃ~」


 もちろん、モモちゃんも一緒に。


 テレビを見たりトランプをしたり、学校の話をしたりしながら過ごして、二時半を過ぎた所で、


「少し早いけど、行きましょうか」


買い物へ行くことに。

 

 迷子になった時の為に携帯を取ってくるよう言われて、取ってきてから、モモちゃんを抱いて外に出て、鍵を掛ける。


「お待たせ」


 差し出された修くんの手を取って、みんなと一緒に商店街へ…………行ったのはいいんだけど、



「迷った」



途中、修くんの携帯に着信が入って話している間に少しフラフラ~として、気付くとみんなとはぐれていた。モモちゃんも、途中で華ちゃんが抱っこしてたから、いない。


「ていうか、誰も気付かないってどうなんだろう? それに携帯も…………そりゃ掛かってこないよねぇ~……」


 ポケットから携帯を取り出して開くと、電源が入ってなかった。


(寝惚けて切ったりしたのかな?)


 なんて思いながら電源を入れようとしていると、視界に一瞬水色が入った。それ自体は、別に気にすることでもないんだけど、どこかで見たような気がして振り向くと、水色ツンツン頭の人がいた。屋上で寝ていた人かどうかは分からないけど、多分そうだと思う。


「と……連絡しないと」


 電源を入れて、着信履歴を見ると修くんから十回くらい掛かっていた。で、こっちから電話しようとすると、こんどは柊さんから掛かってきた。


「もしもし?」

『やっと繋がったか……たく、今どこだ?』

「え? えっとね……本屋さんの前」

『分かった。そこ動くなよ? 今から行くから』

「は~い」


 返事をすると、最後に柊さんが何か言った気がしたけど聞く前に切られた。


(なんて言ったんだろう?)


 気にはなったけど、とりあえず待つことにした。



 十分ほど待っていると、モモちゃんを抱っこしている柊さんが来た。腕の中で眠っているモモちゃんがとても可愛かった。


「たく、お前は……フラフラするなっての」

「あいた」


 ビシ、と頭に軽めのチョップを入れられた。


「はあ……」


 そして、そのまま頭を撫でられた。


「あまり、心配を掛けるなよ?」

「…………ごめんなさい」


 困ったような笑顔で言われて、そんな表情を向けられたことの無かった私は、戸惑いながら謝った。


「行くぞ?」

「……うん」


 差し出された手を握って、一緒にみんなの所へ戻る。


 


 繋いだ柊さんのは手は――――とても温かかった。





「そう言えば、もうすぐ期末テストよね? みんな、勉強は大丈夫?」


 夕食の席で言われた、母さんのその言葉に私と修くんの動きが止まった。私は苦手な世界史以外ならなんとかなるけど、世界史は本当に苦手だから結構危ない。修くんは、授業中いつも寝ているからどの教科も結構危ない。


「危ないことに変わりは無いわね」

(全く以てその通りです)

「ならば、テスト前は放課後を使って勉強するか? 期間中は部活も無いからな」

「そうね。あたしも、少しなら数学以外でも教えることができるから……しましょうか」

「わたしは構わない」


 柊さんは何も言わないけど、どうやら決定事項らしい。


「「はあ……」」


 こうして、テスト前に勉強会が開かれることが決まった。


(まあ、頑張ってみよう)



指摘・批判お待ちしております

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