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方向音痴少女の春から夏

 学校が始まって一ヶ月が経過した。とは言っても、あまり変化はない。

 学校にいる間も相変わらず修くんか華ちゃんかさっちゃんに手を引かれて移動しているし、お昼は柊さんと少しケンカしそうになると、華ちゃんに一言で黙らせられる。

 それを見て、修くんとさっちゃんが笑う。

 変化はないと言ったけど、一つだけ……杏先生がお昼を一緒に食べるようになった。だから、学食丸テーブルじゃ少し窮屈になってしまい、先生がいる一緒にお昼を食べることができる日だけは屋上で食べることにした。その度に私は貯水タンクの所を見てみる。大体、週に四回ほどの確率でそこにはツンツン君が寝ていて、今日も絶賛睡眠中だった。


(ごはんはちゃんと食べているんだろうか?)


 修くん達に言っても、寝てるんだから放っておけ、と言われたので、私はまず確認をしてそれからは放っておくことにしている。毎度気持ちよさそうに寝ているからね。

 先生は初めは屋上に行くことを、さっちゃん同様抵抗があったけど、またも柊さんが無理矢理連れて行った。

 ちなみに、私たちはみんな文芸部に入り、顧問は杏先生が引き受けてくれた。

 授業が終わったら、部室に行って適当に本を読んだりギャーギャー騒ぎながら過ごしている。部活中だからか、華ちゃんもこの時は何も言わない。偶に修くんが巻き込まれているけど、さっちゃんがなんとかしているから、問題なし。先生はそんな私たちを頬笑みながら見ている。

 そして最後は、散らかった部室を私と柊さんが片付けて終了となる。

 途中まで、修くんに手を引っ張られて帰り、別れてから家に帰ると母さんが出迎えてくれると同時にモモちゃんが頭に飛び乗ってくる。

 お風呂に入って、ごはんを食べてテレビを見たり、その日にあったことを話したりして過ごし寝る前に華ちゃんやさっちゃん、杏先生、偶に柊さんとメールか電話をする。修くんはあんまりしてこないけど、こっちが送るとちゃんと返してくれる。


 それが、最近の私の日常。大きなイベントがあったりする訳じゃないけど、とても楽しい。



「おはよう、修くん」

「おう。流石に一ヶ月も経つと、学校までは迷わずに来れるな?」

「菊は毎日進化してる」

「なるほど。常に成長しているのか…………すごいな、菊は!」


 どうやら私はすごいらしい。窓を開けていつもの様に桟に腰掛けると、さっちゃんが最近学校である噂が立っていることを教えてくれた。


 その噂の内容が


「「私(俺)と修くん(百合川)が付き合ってる?」」


と言うものだった。


 でも、


「「それが?」」


何の問題もないと思う。


「なんだ、否定しないのか?」

「う~ん……だって、傍から見たらさ、いつも私は誰かと手を繋いでいる訳で、その中で異性は修くんだけなんだから」

「ああ、そう見えるのは寧ろ当然じゃねえか?」

「というより、一ヶ月も経ってやっと――って言うのが、わたしたちの感想」

「そうそう。それに、柊さんがからかってくることもないってことは、あの人からしても取るに足らない噂だってことだよ」


 あの人なら、面白そうなことがあったら、絶対私たち、特に私を巻き込もうとするだろうし。学校どころかメールや電話ですらそれがないんだから。


「ていうか、何でそんなつまらない噂が流れてるの? もっと、面白いこととかあると思うけど?」

「だよな……オレ等のことを噂して何が楽しいんだか」

「コソコソと噂をして、その反応を見て楽しんでいるだけ。下らないことだから、なんにせよ気にする必要はない」

「ふむ…………言われて見れば確かに。済まなかったな? 変なことを言って」

「いいのいいの。さっちゃんに何か責任がある訳じゃないし」


 その後は、いつも通り他愛のない話をしてチャイムが鳴るまで過ごした。先生が入ってきて、挨拶をした後連絡事項を伝えて、出て行く時に私たちに手招きした。修くん、華ちゃん、さっちゃんも一緒に後に付いて行って、階段の所で先生が止まって私たちに先生は言った。


「菊ちゃんと修輔くん、最近何か変化があったりしない?」

「変化……ですか? いえ、特に何も、ねえ?」

「ああ。……もしかして、噂のことか?」


 先生は頷いた。


「それに付いては、私たちは気にしてませんよ?」

「ホント? 誰かに何か言われたりとか、してない?」

「大丈夫ですよ。仮に何か言ってきたとしても無視しますから」

「…………そうね。でも、何か言ったらすぐに言ってね?」

「はい」


 まだ少し心配そうな顔をしながら、先生は職員室に戻った。それを見送って、私たちも教室に戻ろうとして、


「こっちだ」


また修くんに首根っこ掴まれて引きずられた。





「そろそろ衣替えの季節ね?」


 ソファに座っている私と母さんの間で丸くなっているモモちゃんの背をなでながら、母さんが言った。今日は日曜日、特にすることもないから、家でゆっくりしている。


「そうだねぇ…………体育の時は汗が辛いよ」

「そうね。でも、いいじゃない。それだけ運動してるってことでしょ?」

「うん」


 そう答えた所で、チャイムが鳴り誰かの来訪を告げた。


「私が出るよ」

「お願いね」


 は~い、と返事をして玄関に向かい、はいは~い、と言いながら開けると太陽の光が入ってきて、その眩しさに一瞬目が眩んだ。


 もう一度、目を開くと


「「よう」」

「やっ。一日振りだな?」

「おはよう」

「休日に会うのは初めてね?」


 修くん達がいた。


「どうして急に」とか「来るなら連絡して」とか、言おうと思ったけど私の口から出たのは、



「いらっしゃい。みんな」



その一言だった。



「にゃ~」



 頭の上ではモモちゃんも歓迎するように鳴いた。



 もうすぐ夏の到来だ。



指摘・批判等お待ちしております。

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