方向音痴少女の昼食
「お、思ってたより早かったな?」
「華ちゃんに引っ張って貰ったからね」
学食付くと、奥の一角が妙に人がいなくて見てみるとそこに修くんと柊さんの二人がいた。周りの人達は、チラチラとこっちを見ていて、杏先生の時と同じ気持ちになった。
「ん? そいつは?」
私と華ちゃんの後ろにいるさっちゃんを見て、柊さんが聞いた。
「修くんから聞いてない? 私達のクラスのクラス委員で、さっちゃん」
「……またか?」
「ああ、まただ」
何が「また」なのか、分からないけど、まあ、いいや。席に着いた所で華ちゃんは手を離して、さっちゃんも、どこか緊張している様な面持ちで隣に座った。学食にあるテーブルは丸テーブルと長机の二つがあって、私たちが座ってるのは五人がけの丸テーブル。
私から時計回りに、さっちゃん、柊さん、修くん、華ちゃんで座っている。
「それで? なんで、呼んだの?」
「あ? 飯食う為に決まってんだろ?」
「別にここじゃ無くても良かったんじゃない? 私たちか柊さんが教室に行くか来るかすれば良かったじゃん」
「そうすると、ちと面倒でな。お前は……さっちゃんだっけ?あたしのこと知ってるみたいだな?」
「え?あ…………」
「正直に言え」
「……知ってます」
柊さんに言われて、さっちゃんは俯きながら答えた。どうやら、さっちゃんの言っていた「あの柊」は「柊さん」のことだったみたいだ。
それはおいといて、
「お腹空いた」
修くんを待っていた分と、ここに来た分で余計に。
「あ、オレまだ何も買ってねえ」
「ついでにあたしの分も買って来てくれ」
そういって、五百円硬貨を修くんに投げ渡す柊さん。修くんも受け取りながら何がいい、と聞き、柊さんは何でもいいと答える。
おう、と答えて券売機に向かう修くんを周りの人はまた見ていた。
「(いいや、もう。気にする方がおかしいんだし)で、柊さんって学校で何かしたの? さっきから、こっち見てる人が多いけど」
「ん? ああ、いや。単に喧嘩とかしまくってな、いつの間にかヤンキー共を全滅させてたんだよ。で、この髪にちなんで、『赤鬼』とか言われる様になったんだ」
柊さんは、髪を弄りながらそう言った。
「…………なんだ、それだけか。修くん遅いなぁ……あ、そうだ、さっちゃん、メアド交換しない?」
「え? あ、ああ、分かった」
さっちゃんが頷いた時に、柊さんが何か言ったけど、小さくて聞き取れなかった。何とか、「お前」だけは聞き取れたけど、後は全く。
メアドを交換し終わって、少し話しをしていると修くんが二つのトレイを持って戻ってきた。
「なんでも良いってことだったんでな……激辛カレーにしてみた」
柊さんの前に置かれたそのカレーは、色が「赤」を通り超して「真っ赤」だった。しかも、ルーがポコポコ、偶にボコ、と音を立てて火山の噴火口みたいになっている。
「おう、サンキュー」
「これが釣り銭な?」
言って柊さんに投げる、修くん。三枚程あったにも関わらず、それは途中で分かれることも無く綺麗に柊さんの手に収まった。
(何その無駄に良いコントロール)
修くんが買ったのは、醤油ラーメン。
「うし、まあ話しは後にして、今は飯だ」
柊さんのその言葉に、私と華ちゃんもお弁当の包みを開ける。
「いただきます」
「「「いただきます」」」
私の後に続いて、三人も手を合わせてそれぞれ食事を始める。その中で、さっちゃんが未だに包みすら開けていなかった。
「どしたの? さっちゃん」
「ん、腹減ってねえのか? さっちゃん」
「それでも、少しは食べないと後が疲れるさっちゃん」
「そうだぞ? 一口食えば、後は自然と箸が動くさ、ほら、さっさと食えさっちゃん」
「……何故全員最後に『さっちゃん』と付ける?」
『なんとなくさっちゃん』
「わざとだろ?」
四人同時に頷く。
ちなみに順番は、上から私、修くん、華ちゃん、柊さん、さっちゃん。
「はあ……何か、変に緊張していた私が馬鹿みたいだ」
ため息をついて言いながら、やっとさっちゃんもお弁当の包みを開け始めた。
「緊張って、なんで緊張してたの?」
「『赤鬼』の噂は中学からあったからな……見たことはあっても話したことは無かったんだ。だから、どんな人なのか全く知らなくて、変なイメージだけが付いてしまったんだ」
「どんなイメージか知らないけど、柊さんは柊さんだよ。偶にむかつくけど」
日曜日も、私と柊さんの二人でギャーギャー騒いでいて、華ちゃんに
『うるさい』
と一言で黙らされた。
(まあ、ちょっとしたことで言い合いになってるってだけなんだけど)
「お前だって、一々騒ぐだろうが」
「ええ、それが何か?」
「無いチチ」
プチと、何かが私の中で切れた。
「なによ!」
「やるか!」
手をテーブルに叩きつけて立ち上がると、柊さんも同じように立ち上がる。
「お前らのその沸点の低さは、なんなんだ?」
修くんが何か言っていたけど、私たちは昨日の様に騒いでいたから何も聞こえなかった。
「二人とも、いい加減にしないと怒る」
「「すいませんでした」」
ピッタリ揃って私と柊さんは華ちゃんに頭を下げた。
それを見てか、さっちゃんが笑っていた。
(まあ、良かったかな?)
その後は、普通に賑やかにお昼を食べて、屋上に向かった。立ち入り禁止の看板があったけど、それを無視して上がり、何故か鍵が開いていた屋上に出る。さっちゃんは最後まで、抵抗していたけど柊さんに引っ張られて強制的に入らされた。
「こうやって見ると、結構な高さを感じるよな?」
誰にとも無く、修くんは下を見て言った。
私はもう少し高い所から見ようと思って、貯水タンクがある所に登ってみた。
すると、
「…………」
人が寝ていた。
水色のツンツン頭の男子生徒が。
「…………んあ?」
私が登ってきた音か、人の気配で目を覚ましたのか、変な声を出して目を開けた。でも、一瞬だけ私を見て、またすぐに眠った。
(寝付きが良いことで)




