裏 一日目の憂鬱
ゆっくりと目を開いて、俺は硬直した。
ごくごく間近。 言ってしまえば腕の中。
抱え込むように囲った腕の中で、一人の人間が眠っている。
なんだか妙に肌寒くて、暖かなそばにあったものを引き寄せたのだ。
それが、まさか人とも思わず。
(ななな、なんだこれは………!!)
ようやく動き出した頭だが、実になるような考えはまるでできない。
見知らぬ部屋、素っ裸の自分、腕の中の…同じく服を着ていない女の子。
さあっと冷えていく体と頭。
―――とりあえず俺は、行動を起こすことから始めた。
そろそろと腕枕状態だった腕を抜き、ゆっくりとその頭を枕に乗せる。
その時点でようやく、俺は彼女の顔を見た。
(………あ、牧本さんだ)
名前が出てくるまでの間は、決して、名前がわからなかったわけではない。
眠っている姿と、いつもの大学での姿が重ならなかったのだ。
友達と笑っている、年相応の笑顔。
いつも斜め後ろ方面に座る自分から見える、授業中の真面目な顔。
今、息すらかかりそうな間近で見ている無防備な顔とは全く違う。
牧本沙耶さん。
同じ文学部の女の子。
たぶん、何回か話した程度の…
(…最低だ、俺……)
慌てて昨日のことをお思い返すも、考えがうまくまとまらない。
そうして俺は、逃げ出したのである。
さ、最低だー!