金魚牢
私は楽しみでしょうがなかった。
ここは、とあるビルの三階である。
この階に居るのは私だけではない、TV局やニュースキャスター、警察、その他にも大勢の人間がいる。
私は楽しみでしょうがない。
いや私だけではない、きっと日本全国の人間がこの日を待っていた事だろう。
私は、今朝からこのビルに居た。
朝早く起きたが、この日のことを思うと眠気がどこかへ吹っ飛んでいった。
朝食を取ることも忘れ、このビルにやってきた。
人が大勢いる中、私は人込みの中を人を押しのけて進んでいった。
「おい」「押すな」「ふざけんじゃねぇっ」
そんな罵声も耳に入らず、私はエレベーターの一番前にまで来た。
「君、下がりなさい」などと国家の犬共がキャンキャンと喚いたが、私が名刺を見せるとすぐに黙った。
謝る事も知らない愚図が。
しかし、そんな事はどうでも良い。
そろそろだ。
私が何年何十年と待った『もの』が、来るのだ。
しかしその時、
「あ、あなたは『あの方』ですか!?」
「今日に向けての一言を!」
・・・・・邪魔だ。
私が犬に見せた名刺を見たのだろう、マスコミのマイクが私の口元に差し出された。
・・・・・本当に、屑だな。
私の楽しみを奪いやがって。
私はポケットに手を入れ銃を取り出し、撃った。
発砲音が廊下に鳴り響く。
「私の気を害すな、ゴミ共。なんなら皆殺しでもいいんだが」
「・・・・・・」
一瞬の沈黙の後、マイクが私の顔から遠ざかっていった。
・・・・・これで落ち着く。
エレベーターが上がってくる音が聞こえてきた。
いよいよだ。
私は上を向いた。
エレベーターの階がどんどん上がってくる。
1・・・・・2・・・・・
チン、と鈴のような音が鳴った。
エレベーターの扉が開く。
・・・・・・ああ。
カメラのフラッシュが一斉に焚かれた。
そこには、金魚の入った金魚鉢が置いてあった。
「やった!やったぞ!!」
私は感動のあまり涙が出た。
後ろから聞こえる拍手は恐らく野次馬だろう。
金魚は涙を流す私を見て満足したのか、タイミングよろしく扉が閉まった。
何故この小説が『ホラー』に分類されてるのか、
それは、私がこの世界で最も怖いのが『意味不』だからであり、
『殺人を楽しむ人間』を見て、誰もが『何故人殺しが楽しいのだ?』『狂気だ』と思うように、
私はその『狂気』をこのような形に曲げてみたというわけである。
・・・・・とりあえず、ここまで読んでいただいてありがとうございました!
(ちなみに『金魚牢』とは札幌にある居酒屋の名前)