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婚約破棄

悪役令嬢になった私は、断罪エンドを回避します

作者: 騙すカラス
掲載日:2026/07/28

 女子高生の私は自室で漫画を読んでいる。主人公の令嬢が婚約破棄されるが、イケメンと出会い、最後にはハッピーエンドになるという物語だ。婚約破棄をした公爵令息は断罪されてひどい目に合う。


 ぱたんと漫画を閉じて、隣でゲームをしている恋人のハルに話しかける。


「やっぱり異世界恋愛は面白いわ」

「お前好きだよな、そういうの。俺には全然面白さが理解できねえわ」

「この漫画に出て来る悪役令嬢がすごくやな女でね・・・」

「そんなことより」


 ハルは私の話をろくに聞かず、体を求めてくる。


「やめてよ、家族がいるんだから」

「静かにすればバレねえよ」


 やりたいばっかりのハルに、最近私は嫌気がさしていた。


 事が済んだあと、ベッドにふたり並んで横になり、うとうとした。


×××


 目覚めると見慣れない部屋に私はいた。天蓋付きのベッド、ロココ調の豪華な家具、壁にかかった大きな絵画。


「なにこれ?! ここはどこ?」


 ノックが鳴ってメイドが入ってきた。


「お目覚めですかお嬢様」

「お、お嬢様? 私が?」

「寝ぼけてらっしゃるのですね。あなたは公爵家の令嬢、クララ様でございます」

「クララ?!」


 その名前を聞いて私はハッとした。


 クララとは、私が読んでいた漫画の悪役令嬢の名前だったのだ。ということは、ここは漫画の世界で、私は悪役令嬢のクララになってしまったってこと?!


「か、鏡を見せて!」


 恐る恐る鏡の中を覗き込むと、そこには以前のままの自分の顔があってほっとした。髪が金髪縦ロールになっているが、それ以外は変わってない。


「いかがなさいましたか? あまりのんびりなされると学園に遅刻しますよ」


 私はメイドに手伝ってもらって身支度を整えると馬車で学園まで送ってもらった。

 漫画の中の絵と寸分たがわぬ学園がそこにはあった。


「や、やっぱりだ。私、漫画の世界に来ちゃったんだ」


 漫画の中のクララは主人公をいじめて、最後には断罪され、処刑されてしまうのだ。何とかしてその結末を変えなくてはいけない。


 とにかく今はクララになりきろう。


 教室に入って自分の席に着く。クララの隣の席は、漫画の主人公であるカタリナだ。彼女は美しく可憐で、けなげで純粋、まさに少女漫画の主人公然とした美少女である。


「おはようございますクララさん」とカタリナは私に言ってすぐに目をそらした。少しおびえているようだ。


 漫画の中でクララはこのカタリナをいじめていたわけだから、このような態度は当り前である。

 私は断罪を回避するために彼女と仲良くしなくてはいけない。


「あのう、今まであなたに意地悪なことをしてごめんなさい」と私は頭を下げた。

 カタリナはとても驚いた顔をした。周りのクラスメートたちも驚きを隠し切れない様子。

「頭をあげてください。私なら全然気にしてないですから」とカタリナは言った。

 自分が悪いわけでもないのに、なんで私が謝らなければいけないんだろうとは思ったが、断罪を回避するためにはしょうがないのだ。


 漫画の中では悪役令嬢であるクララが主人公のカタリナをいじめ、彼女の婚約者である公爵令息のギルバートを寝取って婚約破棄させることになっている。その後、クララとギルバートは断罪されるのだ。

 婚約破棄が行われるのは卒業パーティー。今日は3月7日であり、卒業パーティーは3月25日。それまでにギルバートを説得して婚約破棄をやめさせなくてはいけない。


 授業が終わって迎えの馬車に乗ると、私は御者に命じてギルバートのところへ向かわせた。


×××


 公爵家の御曹司ギルバートの部屋に入ると、そこにいた人物を見て私は目を丸くした。


「ハル!」

「や、お前はサクラ!」

「なんでここにハルがいるの?」

「それはこっちのセリフだ」


 ギルバートの部屋にいたのは私の恋人のハルだったのだ。どうやら彼も私と同様にこの世界に来ていたようだ。


「そうか、俺たちはお前が読んでいた漫画の世界に来ちまったってわけだな」

「そうなのよ。私は悪役令嬢であなたは公爵令息になったってわけ」

「公爵って身分が高いんだろ? ぜいたくな生活ができそうだな」

「そうは問屋が卸さないのよ」

「問屋?」

「あなたは・・・つまり、あなたが入れ替わったギルバートは、漫画の主人公であるカタリナって子と婚約していて、卒業パーティーで婚約破棄を宣言するの。それであなたは断罪されて死刑になるのよ」

「なんで婚約破棄しただけで死刑にならなきゃいけないんだ?」

「それはまあお約束みたいなものだよ。とにかく婚約破棄は絶対にしちゃだめだから」

「それはわかったけど、俺たちは元の世界に戻れるんだろうな?」

「わかんない。今は断罪エンドを回避するのが先決よ」


 その後、卒業パーティーまでの日々を、私はできるだけカタリナと仲良くなれるように尽くした。

 私がカタリナをいじめなくなっても、彼女はほかの子からいじめられていたが、私はできるだけカタリナを守った。

 トイレで水をぶっかけられたカタリナにタオルと着替えを渡してあげたり、突き飛ばされて馬車に轢かれそうになったところを助けたり、落ちてきた植木鉢がカタリナの頭に当たる前に両手で受け止めたりした。


 最初は私に対して疑心暗鬼だったカタリナもだんだん私に心を許すようになっていった。


「私、クララさんのことを誤解していたみたいです」

「え? 誤解?」

「あなたは本当はとてもおやさしい方だったのですね」


 彼女は泣きながら私を抱きしめた。


×××


 そして卒業パーティーの日がやってきた。すっかりカタリナの親友になった私は、彼女とともにパーティーに参加していた。


 このまま無事にパーティーが終われば断罪エンドは回避できると思っていた。しかし、予想外の出来事が勃発したのだ。


 パーティーの途中で突然壇上に現れたハルが、楽団の音楽を止めさせ、「みんなに発表したいことがある」と言い出した。


「俺はそこにいるカタリナとの婚約を破棄する!」


「えええ!」と私は叫んだ。


 あれだけ婚約破棄するなと念を押したのに、彼は漫画と同じようにカタリナに婚約破棄を宣言してしまったのだ。


 私はダッシュでハルのところに行って耳打ちした。


「あんた、婚約破棄しちゃだめって言ったでしょ。なんでするの?!」

「だってよう、あのカタリナって女、婚約者なのになかなかやらしてくれねえんだもんよ。すぐやらせてくれるお前の方がいいぜ」

「バカなのあんた?」

「俺が好きなのはお前なんだ。こっちの世界でも一緒になろうぜ」

「ど、どうしよう。このままだと漫画と同じ断罪エンドだわ」

「心配するな。俺は公爵家の息子だぜ。婚約破棄ぐらいどうって事ねえよ」


 ハルはどよめいている会場の人々に向かって、


「ここにいるサクラ・・・じゃなくてクララこそが俺の婚約者にふさわしい。俺はカタリナとの婚約を解消して、クララと結婚するぞ!」と高らかに宣言した。


「ちょ、ちょっと、何勝手なこと言ってるのよ! 漫画と同じ展開になっちゃうじゃない!」


 カタリナはうつむいて涙を流す。


 その時、扉から王子様っぽい服を着たイケメンが入ってきた。

 彼はつかつかと近づいてきてハルに向かって言った。


「貴様! よくも我が妹カタリナを辱めてくれたな!」

「なんだお前は? 俺は公爵家の息子だぞ!」

「ハル、やめて。その人にはかなわないから」

「だって俺は公爵家の・・・」

「その人は王太子なんだよ」

「オオタイシ? なんだそれは? 胃薬か?」

「太田胃散じゃないってば。王太子っていうのは国王の息子で次期国王になる人のこと」

「な、なんだって!?」

「そうだ。僕はカタリナの兄であり国王の息子、王太子のリアムだ。妹を辱めた罪により、お前たちふたりを極刑と処す!」

「あああぁ、漫画と同じ結末になっちゃった。あんたのせいで私まで巻き添えじゃない」

「そんなの無茶苦茶だ! 弁護士を呼べ!」とハルはわめくが、入り口から入ってきた兵士たちによってすぐに取り押さえられてしまった。

「リアム殿下、私は悪くないんです。全部こいつが悪いんです」と私が訴えるも、

「いや、お前たち二人は同罪だ」


 するとカタリナがリアムに言った。


「待ってくださいお兄様、クララさんは何も悪くありません」


 カタリナは、何度も私に救われた話をして、リアムを説得してくれた。


「そうだったのか。勘違いしてすまなかった。あなたは妹によくしてくれていたのだな」


 私は罪を免れることができた。


 兵士に連れていかれるハルが「裏切り者おおおおお!」と叫んだ。


 私は笑顔で彼に手を振った。


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