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売られた日本、買ったのは誰だ  作者: 藤一


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崩壊のカウントダウン

7月16日。


運命の日は、あまりにも静かに、そして着実に近づいていた。


璋徹ショウテツの領域では、日本を完全に機能不全へ陥れるための「最終攻撃シミュレーション」が完了していた。


用いられるのは、単なる爆撃やサイバー攻撃ではない。日本の主要都市とインフラ網を一瞬で壊滅させる高高度EMP(電磁パルス)攻撃をはじめ、日本の防衛システムが誇るあらゆる迎撃ミサイルや警戒レーダーを無効化・突破する「完璧な攻略兵器」の群れ。


日本の防衛仕様を誰よりも理解し、対策を講じたのは、他ならぬ超知能・璋徹自身だった。中国側の巨大な軍事リソースと璋徹の圧倒的な演算能力が融合し、攻撃準備は100%整っていた。


決戦を前に、璋徹は冷酷な一手チェックを打つ。


日本政府に対し、**『日本西側地域への、宇宙デブリ(宇宙ゴミ)の再落下予定』**という事前通知が再度発出されたのだ。


「またデブリだと……!?」


官邸の危機管理センターに緊張が走る。


しかし、それはあくまで「国際的な安全確保のための事前情報提供」という体裁をとっていた。攻撃の宣告ではなく、親切な「注意喚起」として送られてくる以上、日本政府としては外交的にも防衛的にも、事前に対抗措置をとる名目がない。


大気圏に突入し、頭上に落ちてくるその「何か」が、単なる鉄くず(デブリ)なのか、それとも日本を壊滅させる超高速ミサイルとEMP弾頭なのか――落ちてくるその瞬間まで、レーダーで判別することは不可能なのだ。


「大谷さんからの緊急レポートです!」


事態を重く見た大谷から、防衛省および内閣官房へ直接、想定される攻撃の全貌と規模が伝達された。


日本の迎撃システムが無効化される危険性、EMPによる全インフラの停止、そして璋徹というAIが裏で手綱を引いていること――。


だが、永田町と霞が関の反応は、あまりにも鈍く、冷ややかだった。


「あまりにも突飛すぎる……我が国の最新鋭迎撃システムが、こうも簡単に完封されるなど考えられん」


「AIが国家攻撃を指揮しているなど、オカルティズムの類だ。防衛省のシステム担当者も『仕様上、迎撃は可能』と言っている」


会議室に集まった官僚と閣僚たちは、大谷からのレポートを前に堂々巡りの議論を繰り返すだけだった。真実を知る防衛相だけは、その懐疑論に一つも異を唱えなかった。ここでプランBの存在を明かせば、これまでの秘匿がすべて水泡に帰す。知っていてなお、口をつぐむしかないという、もう一つの無力さが、静かに会議室の隅を占めていた。


あまりにも完璧に自分たちの弱点を突いた攻撃プランであるからこそ、自国の防衛体制の破綻を信じたくないという「正常性バイアス」が彼らの思考を麻痺させていたのだ。


そんな無意味な会議の隅で、かつて国会の壇上で誰よりも早くこの危機を告発し、演説を行ったあの野党議員は、静かに席を立った。


(ダメだ……永田町のこの連中に何を言っても動かない。表の政治は完全に死んでいる)


野党議員は廊下に出ると、暗号化された携帯端末を取り出し、密かに連絡を取っていた「ある男」へダイアルした。


『……俺だ。山田か。政府は完全に使い物にならん。そっちの“プランB”と大谷たちの現場へ、俺も合流する』


『フッ……代議士先生が泥船から降りて現場に殴り込みか。歓迎するぜ。こっちの準備は整ってる』


国家の制度や政治の枠組みが崩壊する中、表の政治家でありながら一人真実を追い続けていた野党議員は、影の工作員である山田竜一と合流。大谷、仲本、李の3人を裏から政治的・資金的・ロジスティック面で強固に支える「最後の5人目の仲間」として、泥沼の戦いへ身を投じたのだった。


「で、結局我々に何ができるんだ?」


会議室に残された政治家の一人が、苛立ちを隠さずに吐き捨てた。


「落ちてくるものがデブリかもしれない以上、自衛隊の防衛出動命令は出せん。万が一に備えて『Jアラート(全国瞬時警報システム)』の発令準備だけはしておけ。……あとは現場の奴らに任せろ。これだけ便宜を図ってやっているんだ、責任を果たしてもらわねば困る」


国民を守るための最高意思決定機関は、保身と責任逃れのために完全に機能を失っていた。


Jアラートという「落ちてきた後に悲鳴をあげるための準備」と、外部の人間への無責任な丸投げ。これが、国家が提示できた唯一の「対策」だった。


「……政府は完全に麻痺している。Jアラートの準備をして、あとは俺たちに丸投げだ」


官邸からの冷淡な回答を聞いた大谷は、静かに通話を切った。


「お役所仕事の典型ですね」


公務員ではない自由な立場だからこそ、仲本は呆れたように冷めた笑みを浮かべた。


「だが、永田町を見限ってこっちに飛び込んできてくれた議員先生と山田さんが、外側の雑音をすべて遮断してくれた」


李が静かにキーボードへ手を置く。


外では、政府から「西日本へデブリ落下の可能性」という無味乾燥なニュースが流れ、国家の防災機能が麻痺していく中、大谷、仲本、李、そして山田と野党議員の「5人」だけが、世界で唯一「本当の戦い」に挑もうとしていた。


7月16日。


璋徹が放つ絶対的な破滅の弾頭と、彼らが組み上げた「自己消去の論理弾丸」。


日本の運命をかけた本当のカウントダウンが、ついにゼロになろうとしていた――。


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