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モンスターを鎧にする仕事  作者: タック


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アポロンの太陽鎧

 人間の国の大臣であり、蟲魔王からのスパイであるカンパネ・ロラ公爵。

 今日は落ち着いた様子で、その整いすぎたハンサムな顔立ちでいた。

 それもイストとウリエルがあんなこと――絶妙なタイミングで蟲魔王からの刺客を撃退してしまった直後でなければ、このようにカンパネはスパイでもあるため常に冷静さを保っていられる。

 自室で一人、優雅にティータイムをしていた。


『カンパネ・ロラよ』

「蟲魔王様!?」


 突然、真の主から連絡が入って驚いてしまった。

 もちろんこの場には居ずに、耳のイヤリング型の通信蟲によって聞こえているだけだ。

 部屋には防音魔術もかけられているので、聞き耳を立てられる心配もない。


『リブレイドをそちらに向かわせた。良きに計らえ』

「ハハッ!! 了解致しました!!」


 そこで通信蟲からの連絡は終わった。

 蟲魔王の言葉は短かったが、その声音はとてつもない圧を感じる。

 蟲魔族の頂点にして、カリスマである存在。

 変身特化の蟷螂魔族であるカンパネ程度では、その足元にも及ばない存在だ。


「蟲魔王様が寄越したのはリブレイド――あの素早さと鋭さを兼ね備えた、蜻蛉(トンボ)魔族最強と名高い〝音速斬翅のリブレイド〟か。彼奴(あやつ)の移動速度なら、警戒や補給を考えても三日で到着するだろう……。そのタイミングなら多少は戦える冒険者が町に戻ってきているが、その程度では止められぬ……。ククク……。あの斬撃を防ぎ、音速で動く彼奴と同等の動きをできる装備と冒険者など、この町には存在せぬからな!!」


 早口でフラグを立てるカンパネであった。




 ***




「――というわけで、次のコンセプトは頑丈さと素早さを重視した装備だ」

「イストさん、いきなり『というわけで』で入るのはやめてください。意味がわかりません」


 いつもの町の郊外にあるボロボロの作業小屋で、イストはテントウムシ型モンスターの焼肉を微妙な表情で食べつつ、ウリエルは解体仕事のあとで不満げな表情をしていた。


「モンスター肉、微妙な味だな……。量だけはあるから助かるが」

「その解体をしておいたのは私ですからね! もう、メチャクチャ大変でしたよ! イストさんが町に遊びに行っている間にですよ!!」

「ワハハ、町で遊んでリフレッシュすることも大切だからな! ……で、どうして頑丈さと素早さのコンセプトになったかという話だが、お前が解体したモンスターが関係するな」


 作業小屋には解体した甲殻、腱、内臓や肉を干したものがあった。

 正直、それなりに湿気があって、かなり臭いが今はそれを気にしない。


「誰かさんが戦闘で信じられないくらい損傷させてしまったから、甲殻の使える部分が限られてしまっている」

「うっ」


 ウリエルとしては、自分がやりすぎてしまった自覚もあって反論を封じられてしまった。

 目を細めながら、口を(つぐ)むしかない。


「それに俺はまだモンスター素材で装備を作ることに慣れてないから、いきなり大量の素材を使うものや、加工が難しそうな形は避けなければならない」

「お~、意外と謙虚ですね」

「というわけで全身を必要最低限覆いつつも、単純な形で――となると、露出度の高い〝ビキニアーマー〟で、頑丈さと素早さの両立となるわけだ」


 ウリエルが挙手をした。


「先生、質問です」

「はい、ウリエル君」

「ビキニアーマーって何ですか? なんか不穏な響きなんですけど」

「ビキニの形をした鎧」

「……」


 汚物を見るような眼をされた。


「いや、話を聞いていたか? これは消去法的に、最適解を求めただけで、効率的に仕方なくだな……」

「趣味、入ってません……?」

「正直に言うと子供時代にやったゲームで興味は持っていた」

「……」


 ドン引きの表情をされた。


「いやいやいやいや、じゃあウリエルも案を出せよ!!」

「うーん、ここはやっぱり身体のラインがあまり出ないような全身鎧を……」

「たぶん一回分作ったら甲殻なくなるし、そもそも形が複雑で失敗するかもしれないから足りなくなる可能性もあるぞ」

「う、それだったらあの籠手だけみたいな……」

「ある程度の防御アップは全身に渡るけど、アレから何度か試した感じだと装備された部位から離れれば離れるほどに恩恵は薄くなる。籠手から離れた部分に攻撃を食らったらきついかもしれないぞ? それにお前の馬鹿みたいな魔力放出だと籠手以外の着ている服がぶっ飛んで全裸になるが良いのか?」

「メッチャ早口で反論してくるぅぅぅうううう!!」


 イストはビシッとウリエルを指差した。


「というわけでビキニアーマーなわけだ! 俺がイメージしやすい物の方がスッと作れる感じもするし! 神が囁いた天啓ってやつだ、たぶん!」

「着ている私の恥ずかしさはどうなるんですか!? ビキニなんて町中で着ていたら変態、痴女、露出狂じゃないですか!!」

「うーん、それは戦闘以外はマントとか、コートとかで隠しておけば……」

「まるっきりそれっぽいじゃないですかー!!」

「……何でも」


 そのキーワードを出した瞬間、ウリエルの動きは止まった。


「うっ」

「何でもするって言いましたよねぇ、ウリエルさぁん……」

「うぐぐ……」

「この異世界にやってきて、便利な実験体を入手できたのが一番の幸運だな! 暁光(ぎょうこう)!」

「こ、この鬼……悪魔……モンスター鎧職人ー!!」


 ウリエルの悲痛な叫びが山に木霊(こだま)していた。




 それからイストは黙々と作業をしている。

 合間、合間に会話がなされるくらいだ。

 今はイストが腱をハンマーで叩き、ヒモにしようとしている。


「そのヒモってモンスター素材から作るの大変じゃないですか? 市販のヒモでいいのでは?」

「ウリエル、お前が使った〝ヘラクレスの籠手〟を見てみろ」

「あっ、ヒモの部分がボロボロですね……どうして……?」

「以前、モンスター素材の接着に蝋を使ってみたことがある。そのときもモンスター素材と違ってそこだけ強度が上がらずに砕けてしまった」


 ウリエルが生徒の如く手を上げたので、『はい、ウリエル君』と指差してあげた。


「もしかして、すべてモンスター素材で構成しなければならないということですか!?」

「正解、たぶんそんな感じだ」

「たぶん?」

「まだこの世界の素材なんて全然知らないし、モンスター素材に近い特性の物があったら混ぜて使えるかもしれないからな」

「お~、慎重な考え方ですね。お婆ちゃんも言っていました、『仕入れるときは慎重に、売る時は考えずにガンガン行け』と」

「それはよくわからんが、納得してくれたならオッケーだ」


 話をしている間に、ほぐした腱の繊維をより合わせてヒモにしていた。

 充分な長さになったので満足だ。


「よし、これくらいの長さがあれば大丈夫だろう」

「わ、私の身体を採寸してましたからね……恥ずかしかったですけど……」

「多少は身体のサイズが大きくなっても、大丈夫な長さにしてあるから安心しろ」

「ふ、太りませんよ! 失礼ですね!! ノンデリってやつですよ!!」


 イストはキョトンとしてしまった。


「いや、筋肉でサイズが変わったりするだろ? 前衛なら」

「これは素直に勘違い、謝罪……。まさかイストさんがマジメなことを言っているだなんて思いませんでした……」

「謝っているのか馬鹿にしているのかどっちなんだよ」

「どっちもですね! 私は欲張りなので!」

「さ、三次元めんどうくせぇ~……」


 そう言いつつも手を動かし、次の作業に入っていた。

 アーマーとして使えそうなサイズの甲殻を探し出し、それらの組み合わせを考え、脳内で防具作成のシミュレーションをしていく。

 本当は図面を描きたいのだが、あいにく紙とペンすら買えない状態だ。


「なぁ、防具作りのために今後色々と金が必要になってくると思うんだ」

「たしかにこんなボロ小屋でロクな工具や設備もないですからね。ここを他人に見せても、家畜小屋としか思わないレベルですよ。イストさんも住み着いたゴブリンと勘違いされて退治されないように気を付けてくださいね」

「さすがにこんなハンサムなゴブリンはいないだろ」

「……」

「おい、黙るな。話を戻すと、金が必要なわけだ。それでどうやって金を稼ぐか? となると、やっぱり防具で稼ぐしかない」

「そりゃそうですよね、イストさんは防具を作っているんですし」


 よし、こちらのペースに乗せることができた、と内心ガッツポーズ。


「つまり、防具を売らないといけないわけだ。しかし、こんな見ず知らずの奴の、しかも普通なら低守備力のモンスター防具なんて買うはずがない。ああ、困った。どうしよう!」

「……なんか嫌な予感が」

「あっ、思いついたぞぅ! 実際に作ったモンスター防具を着て戦う〝宣伝担当〟がいれば簡単じゃないか!!」

「今作ってるのってビキニアーマーじゃないですか!?」

「…………何でも」

「ああ、もう!! わかりましたよ!! やればいいんでしょ、やれば!!」


 頭の中で形に出来たので、甲殻の加工をしていく。

 構造的には上のブラ部分と、下の部分で構成されている。

 上のブラ部分での問題は曲線だろう。

 これは運良く甲殻がデコボコしている部分があって、そこを切り取ればブラの曲線として使える。

 千枚通しで穴を空けて、ヒモを通せば半分は完成だ。


 そして最大の難関である、下の部分を作ることにした。

 正直、形状をどうするか結構悩んだ。

 ビキニの下部分でイメージすると、尻を覆うようなパンツ構造だろう。

 しかし現状、甲殻でそんなU字の加工をするのは難しい。


 そこで思い切った手段に出た。

 前掛けと後ろ尻の平面パーツ二枚だけで、あとは無しだ。

 動いたり、アングルだったりで色々と見えてしまいそうなので、ウリエルにはまだ秘密にしておこう。

 絶対ノーパンだと反対される。


 あとは他人に着せる物なので、彫り込みなどを入れてクオリティアップをしていく。

 商品価値としても高くなるだろう。

 現代の美術的な物を取り込んで、もはや芸術品と言えるレベルだ。


「か、完成だ……名前は〝アポロンの太陽鎧〟だぜ……」

「イストさん、大丈夫ですか? 三日間も集中しっぱなしでしたが」

「い、いつの間に三日間も……俺はタイムマシンにでも乗ったのか……」

「それにしても綺麗な防具ですね。これなら売れると思います、あの籠手と同じなら性能も破格でしょうし」

「ふ、ふふ……俺の名前が世界に轟いてしまうな……」

「あ、そういえば、これだけの装備を作れるのなら国に飼い殺しにされたり、敵から命を狙われたりしませんか?」


 言われてみればたしかに、名前を広めるのも良いことばかりではない気がする。


「むぅぅ……残念だが、制作者不明で売るしかないか。窓口も本人じゃ不味いから、ウリエルに任せる……」

「了解です」

「じゃあ、俺はしばらく寝る……」


 三日間の徹夜をしたイストは、流れるようなスムーズさでパタリと倒れて寝た。

 ウリエルは『お疲れ様でした』と優しく母親のように毛布をかけた。


「さて、これからどうし――」


 次の瞬間、近くの空を物凄い速度で飛んでいく何かがあった。

 一瞬で通り過ぎたのだが、あまりの早さ――ソニックブームで木々がしなって大きく揺れている。

 砂ぼこりと土の臭いを散らしながら飛んでいった方は――。


「あれは……ハビリスの町の方へ!?」

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