特筆すべき防御力
実験室――もとい放置されたボロ小屋なマイルームに戻って、ウリエルに協力してもらうことにした。
「さて、実験体第一号くん。最初にやってもらうのはこれだ」
「さっきの籠手を付けただけですよね? というか、本当にえちえちなことではないんですね。フツーに服は着てるし」
「今はそんなことよりも色々と解き明かしていく方が楽しいだろ。それと、籠手は名前で呼べ――〝ヘラクレスの籠手〟とな!」
「うーん、頭おかしい……大丈夫かな一緒にいて……。でも、この防具を作ったのはすごいしなぁ……。そこだけは人類の救世主レベルで……尊敬できる……」
「ブツブツとうるさい! 始めるぞ!!」
イストはそこらに置いてあった角材を手に、バッティングフォームで素振りをする。
ウリエルは嫌な予感しかしない。
「えーっと、何をなさるおつもりですかな……?」
「ウリエル、お前を角材でぶっ叩く」
「やっぱりヤバい人じゃないですかぁー!!」
「これも実験のためだ! ワハハ!!」
今のウリエルは〝ヘラクレスの籠手〟と、ただの布の服を装備しているだけだ。
イストは布の服部分に向かって角材をフルスイング。
バシィッ! と予想通りの音が響く。
「いたぁ~……くない? 腹パンもとい、腹角されたのに……」
「ふむ、やっぱり防具がある部分以外の防御力も上がっているようだな。どんな原理かはわからんが」
「魔力強化で防御したわけでもなく、自動的に防げているってすごいですね。もしかして、イストさんは天才では?」
「ワハハ! 褒めるな、それほどでもない! 天才ではあるが!! さて、次は俺が〝ヘラクレスの籠手〟を装備するから、付けてない部分を殴ってくれ」
「あい」
ウリエルはさっきの結果も見ているので、遠慮せずに角材で思いっきり殴ってみた。
バシィッッッ!!!!
「アイィッ!?」
砕け散る角材、吹き飛んで悶えるイスト。
「……もしかして、天才ではなくて馬鹿なのでは……?」
「すげぇぇぇぇぇええ、腹角いてぇッ!!」
「角材が砕けてくれて良かったですね。鉄の棒とかだったら上半身と下半身がおさらばしていたかもしれません」
「こ、このゴリラ女……。とりあえず、これで多少わかった」
イストはまだ苦痛に表情を歪ませているが、それでも進展があったことを説明したい。
「この〝ヘラクレスの籠手〟を装備することによって、防具がない箇所でもダメージを防いでくれる。ただし、俺みたいな一般人より、戦闘力……たぶん魔力があるウリエルの方がダメージ軽減も高まると仮定してもいいようだ」
「つまり、イストさんが装備しても雑魚ということですね。それを身体を張って証明したと……。さすがにもう少し予測して『ウリエル様お手柔らかに』と言っても良かったのでは? 天才なんですよね~? あ、まさか女の子にここまでやられるとは思ってなかったですか?」
「あ、煽りやがって……」
「ふふん、私は強いですからね」
ようやく痛みが引いたイストは、立ち上がりながら言った。
「じゃあ、今度は強いウリエルにしか出来ないことをやってもらおう」
「何でもござれですよ! ……って、え?」
クマを解体した時に使った道具一式を渡した。
巨大なテントウムシっぽいゴツいモンスターの上に、ウリエルが立っていた。
「って、モンスターの解体作業ですかぁー!?」
「俺より慣れてるだろうし、何よりパワーがあるからな。がんばれ、解体機械」
「解体機械呼びと言い、実験体呼ばわりと言い、何かもう人間扱いしてませんよね!?」
「何でも言うことを聞くと言っただろう。それに、これが上手くいったらお前の悩みも解決するかもしれないぞ」
「も、もしかして私の体型に合うカッコイイ防具を!?」
イストは返事の代わりに、フッと笑みをこぼすだけだった。
「さぁ、そのために解体だ。一番重要な甲殻はなるべく傷付けないようにな。足の腱も素材として使えるか試したい。あとは~……金が無いから肉とか内臓も取っておいてくれ。それを喰ってしのぐしかない」
「このサイズのモンスターでそれをやると死ぬほどグロいんですけど」
「何でもやると言ったよな?」
「……あい」
イストはその場を去ろうとしたのだが、不満げな表情のウリエルに引き留められた。
「えっ、ちょっとイストさんどこに行くんですか」
「ハビリスの町で〝お楽しみ〟してくる」
「え~~~~~~、私が血と肉と内臓に塗れながら作業してるっていうのにですか~~~!? これだから男の人って……」
「ワハハ!」
***
イストは町にやってきて、すぐに革職人の工房へと向かった。
たぶんここなら目的の技術があると踏んだのだ。
そこまでは大きくない建物だが、絶滅に瀕しているようなこの世界では革装備の需要も高いらしく、忙しそうに職人たちが働いている。
イストはそこの一人に声をかけようとしたのだが、コミュ障が出てしまってフリーズしてしまう。
(うおおお……! ネット越しならいけるのに、リアルになると急に緊張してしまう……!! ……って、ウリエルとは何で普通に話せたんだろうな……成り行きだろうか。それとも馬鹿っぽかったからだろうか……)
「お客さんかい? 今忙しいからちょっと待っ――」
職人の一人が話しかけてきた。
これはチャンスだ。
勢いに任せて何とかするしかない。
「す、すみません! 動物の腱を加工してヒモにする方法が聞きたくてやってきました!!」
「あん? お客さんじゃないのかよ。今忙しいんだ、帰ってくれ」
「あっ、はい。……じゃなくて、どうしても今急ぎで知りたいんです!」
「そう言われても……革工ギルドのルールは厳しくてなぁ……」
「お願いします!」
「うーん……」
イストは頭を下げるも、これでは足りないのだと思った。
次に冷たく硬い石の地面に座り、そこへ頭をこすりつけた。
土下座だ。
「お願いします!」
「お、おいおい……。とりあえず、頭を上げてくれ。つーか、なんで動物の腱を加工してヒモになんてしたいんだよ? それくらいのヒモなんて普通に流通してるだろ」
「どうしても自分で作りたいんです。作ってみたいんです!」
「作ってみたい……か」
その熱さに負けて、職人はやれやれと言いつつも笑みを見せた。
「ったく、最近の職人に足りねぇもんを持ってるな。金になるからとかじゃなくて、自分で作ってみてぇからという初心だ。そもそも金を稼ぐだけなら、もっと楽な方法だってあるしな。物作りしてぇってのは、自分でそれをやりてぇって気持ちからだ」
職人は『ついてきな』と工房の奥へと案内した。
「ありがとうございます!」
「親方にはヒミツだぜ。それより臭いは平気か? 素人さんにとっちゃ耐えられんだろ」
革工特有のアンモニア臭、動物の腐敗臭がツンと鼻に刺激を与えてくる。
「こういうのには慣れているので平気です」
「ほぉ、才能あるな」
ただ単に先ほど動物を解体したのと、模型を扱っているともっと強烈な科学的な刺激臭も嗅いだりするので慣れてしまっただけだ。
「さてと、他のところだと細々と別れて工房でやってる場合もあるが、ウチは革加工から腱、接着剤になる膠とか幅広くやってる」
「おぉ……膠も……」
「今は忙しいから腱だけな。また興味があるなら膠もいつか教えてやるよ」
動物の腱――有名なのはカカトにあるアキレス腱というところだ。
そういう長く白い紐状の部分をナイフで切り出す。
肉などの余計なものも綺麗にそぎ落としていく。
それを自然乾燥させるのだが、野生動物が盗んでいくのでそこは注意だ。
充分に乾燥したら、ハンマーなどで叩いて繊維をほぐしていく。
それを糸にするために、より合わせて完成だ。
「なるほど……。何となくは知っていましたが、キチンとした工程は勉強になります」
「あー、それと話していた感じだと防具を作るっぽいんだろ? これを持ってけ」
職人は何かワックスのような固形物が詰まった入れ物を渡してきた。
「これは?」
「防水性のある樹脂だ。防具だと腱ヒモは汗で濡れたら劣化が早くなっちまうからな」
「何から何までありがとうございます!」
「前線で戦う奴のために良い防具を作ってやれよ。そいつらがいるから、オレたちは安全に仕事できるんだからな」
たしかにウリエルがモンスターを倒さなかったら、この町は甚大な被害を受けていただろう。
そう考えると、色々とウリエルのおかげなのかもしれない。
「ったく、こんなご時世嫌だねぇ。いつか戦うため以外の革製品も作ってみたいぜ、小さくて可愛いバッグとかよぉ」




