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お嬢様。世界のてっぺん目指すため只今窓突き破って脱走中

作者: 最上 みつ

お手にとっていただき有難うございます。

「た・い・く・つ・ですわぁぁーーーー!!!!!」

 叫び声とともに、屋敷の大窓が粉々に砕け散った。


 優雅なドレスを着た白銀髪の少女、エル・エリゼールは、両腕をクロスしたまま空へと飛び出した。


「お嬢様!!!!」


 後方から、黒髪のメイド服を完璧に着こなす女性、ドメスティ・カロルが声をあげる。手には銀のトレイと湯気の立つティーカップ。


「退屈って罪だと思いません? あたくしは外に、自由に、刺激を探しに行くのです!!!」

「その格好でですか? ……しかも下に干してあった洗濯物に落ちてますけど」


 パタパタと干されていたシーツに絡まって見事に地面へ落下していくエリゼ―ル。その姿を見て、カロルは額に手を当て、深い溜息をついた。


「脱走劇の始まりですね……」



 夜、静まり返った屋敷。逃亡の末に捕まったエリゼールは、椅子に座りながら頬を膨らませていた。


「だから言いましたのよ。毎日お紅茶と礼法と刺繍と舞踏の訓練ばかりじゃ、あたくしの“野心”は腐ってしまうって」


「“野心”とは……?」

 カロルは、お茶を淹れながら静かに尋ねた。


 エリゼールは少し沈黙してから、窓の外に目をやる。


「この世界の“てっぺん”……何でもできて、何にも縛られず、誰にも負けない、そんな“最強の存在”になりたいのです」


 カロルは少しだけ目を見開いたあと、微笑んで言った。


「――つまり、“お嬢様”のまま、“英雄”になりたいと?」


「そうですわ! どうせ目指すなら一番上じゃなくて、何になりますの!」


 その言葉に、カロルは深く、そして少しだけ困ったように頷いた。


「では……その“てっぺん”まで、お付き合い致しましょう。お嬢様が落ちてきても私が支えます。地に埋まる前に」


「誰が落ちますのよ!? というか埋まらないでくださいましッ!!!」



 次の日の朝、衣装棚の前でエリゼールはトランクに荷物を詰めていた。――いや、詰めようとしていた。


「ドレスばかりですわね。動きやすい服……はどれもこれもダサすぎます」


 ぶつぶつと独り言を言いながら、しかしその手は止まらない。


 ノックの音に続いて、ドアが静かに開く。現れたのはエリゼールのエル・クリストフと、エル・アメリーだった。


「……父様、母様。――あたくしは、家を出て最強の旅に出ますわ!」


 毅然とした態度で宣言するエリゼール。だが、クリストフは眉ひとつ動かさずに答える。


「うむ、それは結構。だが服に関してはもう少し実用性を重視したまえ」


 すると、アメリーがふふっと笑いながら口を開いた。


「まあまあ、いいじゃないのクリス。私も昔同じようにドレスのまま屋敷を飛び出していったものよ。」


「え?」


 エリゼ―ルが目を丸くする。


「懐かしいわねえ……あの時、私も窓を突き破って脱走したのよねえ」


アメリーは幼子のように興奮気味で語るが、エリゼールは困惑顔だった。


「……お母様も?」


「そうよ? “お嬢様なんて退屈すぎる”って、貴族の集まりで言い放って、そのまま脱走したの。あのときの執事の顔、今でも忘れられないわ」


 思い出に浸るアメリーに、クリストフが小さく咳払いする。


「まあ……結果として、君は数日で盗賊に捕まり、私が救出しに行くことになったわけだが」


「まあ、そんなこともあったわねぇ」


 アメリーが微笑む


「笑いごとではない……」


 肩を落とすクリストフ。だがその横でエリゼールは呆然としていた。


「ちょっと……なんですの……あたくしの“偉大な第一歩”が、単なる“お母様の二番煎じ”みたいではありませんの……?」


 その言葉に、アメリーがにっこりと微笑んで言った。


「でもエリー、あなたは私よりずっと強い子よ。あなたなら、ちゃんと“自分の道”を歩めるわ」


「……お母様」


「それに、私のときよりも優秀なメイドがついてるものね。――カロルちゃん、お願いね?」


 いつの間にか背後にいたカロルが、膝を折って一礼する。


「もちろんでございます。お嬢様がどれだけ無謀な道を進もうとも、私は何度でも拾い上げてみせます」


「だから埋めないでくださいまし!!」


 三人の視線がエリゼールに集まる。


 彼女は一度、大きく深呼吸をして――ドレスのスカートを翻し、力強く宣言した。


「行きますわ! あたくしの“てっぺん”を目指して!!」


 そして。再び窓を突き破ろうとして――


「お嬢様! せめて扉から行ってください!!!」






気が向けば連載していこうと思ってます。


カクヨムにも掲載しています。

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