第92話 違和感なし
残り1キロ
南大アランが、箱スパの眞露に迫り、再度、川崎を引き発射した。
「アランすまなかったな」
「ヴィンチ!」
「了解だ!」
川崎は足を溜めていたかのように、再度、加速して飛び出した。
残り700メートル
先頭の眞露に迫る南大の川崎だが、この三〇メートルが埋まらない。
この時点で、ERC桜山は、先行く眞露と川崎に近づくことはできず、この順位を維持することに徹する走りをしていた。
また、ERCの発射台となった早乙女春風もスピードこそ出てはいなかったが、好順位に着けていた。
後ろからきた南大付属のエース釜ケ崎が、そんな春風をパスして行った。
残り500メートル
春風が江ノ島大橋手前の国道一三四号を走るなか、箱根スパイラルな眞露が一着でゴールした。
川崎二着と桜山が三着でフィニッシュしていた。
その三〇〇メートル後を、アラン、釜ケ崎に続いてスルリと追いついた鎌学OBの秋沢が追走してフィニッシュとなった。
残り300メートル
この時、全力を出し切った春風と、神奈川ジュニア選抜のエース四宮が並び、話かける。
四宮はメカトラで上位を狙えなかったのだ。
四宮は春風に並び「最後の一滴まで出し切った戦いをやりませんか?」と挑戦状を叩きつけた。
「そうですね、このまま終わっちゃもったいないですよね。やりましょう、四宮くん!」
「じゃあ早乙女さん、行きますよ」
「あいよ!」
ふたりはギアを上げ加速を始めた。右に曲がりながら、江ノ島大橋に入った。
橋の入り口付近の歩道に、一瞬、見慣れオートバイのライメイ650が目に留まる。
その側でこちらを見て「負けるな、春風!」と叫んでいる女性と目があった。
紗矢香だった。
春風は「あゝ紗矢香さんが応援してくれている」と思うと、俄然力がみなぎってきた。
「ありがとう」と心で叫びながら春風は忘れていた特効薬による太ももの違和感が大事に至らなかったことに感謝した。
また、紗矢香と約束したことを思い出していた。