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男も女も湘南ライドで恋を語る勿れ!  作者: 三ツ沢中町
第三章 湘南ライド 激走編
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第90話 続・東堂よ、恋を語る勿れ!

 ゴールまで残り十キロ地点

 桜山を引く春風は、ピンチを迎えていた。

 ジュニ選の川北に前に出られ、南大付属のアシスト桜が春風に並ぼうとしていた。

 また、すぐ後ろには鎌学OBの品川が秋山を引いて、前を捉えようとしていた。

 桜山が「どうした春風? スピード落ちすぎじゃないか?」と心配そうに声をかけた。

「大丈夫です」とだけ言って、春風はスーッと目を閉じた。

 

 この状況は、少し前に東堂から直伝された戦略から生まれた、勝利するための布石、敢えて呼び込んだ演出であったのだ。


「おい春風、ちょっとだけ、耳を貸してくれんか?」 

 東堂が何やら春風に近寄って話しかけた。

「ところでお前、アシストやれるんか?」

「まあ、何とかするさ」

「マジか? 何とかする算段はあるんか?」

「……ハッキリ言ってないよ」 

「あのな……しゃあないなぁ、じゃあ特別に教えたるわ。発射台としてアシストする時のコツを、俺、お前に教えたるわ」

「コツがあるのか?」

「そうや、ちょっとしたコツや」

「聞きたいか?」

「まあ、参考、までにだけど」

「痩せ我慢すな!」

「聞かせてくれよ、コツをさ!」

「じゃあ、雪ちゃんとのこと、邪魔せーへんて約束してくれたら……教えてもかまへんけど?」

 こんな集中すべき局面で、まだ、そんな不純な取引を持ちかけるなんて、どうかしてるよまったく。

 けど、経験値の浅い僕には、この状況に廟算(びょうさん)なしで戦局を迎えるのは圧倒的に不利になる。

 勝ってこそ名将って、孫子が言ってたな。

「分かった! 約束する。雪との中は邪魔しない」

「よっしゃ! 契約成立や!」

 大げさな……まあ、いっか。

 東堂の顔つきがガラリと変わった。

「よく聞きな! ポイント三つや」

「三つ?」

「そうや、三つや。一つ目は、周りの選手の狙いを惹きつけること」

「惹きつける?」

「俺を喰ってみろと仕向けることや」

「ほう、それで?」

「次は、計算どおり捕まえた! 喰うた、仕留めた、と思わせることや」

「思わせるか、それで?」

「仕上げは、敵がこちらを抜けると想定したスピードを更に上回る圧倒的加速を、追いついたその瞬間に見せつけ、敵の追随する意志を完全に折ってしまうんや」

「つまり駆け引きって訳だね?」

「そうや、人って奴は案外、想定外の事態に直面した時、どうにもできない金縛りみたいな状況に陥るもんや。そこを一気に突くんや!」

「その理屈はサラッと話せても、実際、その展開が作れな、何ともならんちゃう?」

 まあ、しかし、ロードの猛者たち相手に正攻法で勝ち切れるほど、湘南ライドは甘くないか……。

 

 春風はパッと目を開け「桜山さん、行きますよ!」と宣言した言葉に、桜山はニッとして「待ってましたよ!」と発しながら、春風に合わせてツークリックして、急加速を始めた。

 隣に並んでいた南大付属の桜は「足を使い切って、落ちて来たんちゃうんかい?」と勘違いして、想定外に足が止まってしまった。

「桜、踏め! 行かれるぞ!」

 春風の前を走っていたジュニ選の川北も、春風のペダリングに度肝を抜かれた。

「足、溜めてたんだな。それにしても軽快なペダリングだ。一瞬にして超加速しちゃうって?」

 四宮が一言「追い風だ」と春風の超加速の謎を解き明かした。

「ERCの早乙女春風は、追い風を掴むのが鮮やかであったと言うことだ」

 春風とジュニ選の差は、瞬く間に一〇〇メートルほど開いた。

 

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